ユーリオン、贈り物に悩む
街の露店では、エレナに似合いそうな物は見つからなかった。
記念品だし、女性の装飾品を扱っている専門店に行く事も考えた。
だが、あまり値段のする物を贈っても、エレナは恐縮してしまい、喜ばないだろう。
なので、材料だけ購入し、手作りの物を贈る事にした。
いや、『錬金術』のスキルを使うので、真の意味で手作りかは判断に迷うが。
最初は指輪か、ネックレスを作ろうと考えた。
しかし、指輪は家事をする上で邪魔になるし、ネックレスも使う機会が無い。
そこで思いついたのが、バレッタだ。
髪留めなら日常的に使える。
エレナは髪の色を気にしているので、紫の髪によく合うバレッタを贈ろう。
喜んでくれると良いな。
直ぐにでも屋敷へと戻り、制作に取り掛かりたい所だが、王城に行く用事がある。
今日の用件は、父との最終確認だけなので、1時間もあれば終わるだろう。
王城の門まで来ると、護衛も無しに1人で来た事に、門番に驚かれる。
確かに自国の王子が1人で行動してれば、何かあったのかと勘違いしても仕方ない。
特に何も無いので、普通に通してもらう。
いつもなら、1度別室で待たされるのだが、今回は違った。
タイミングが良かったのか、そのまま父の待つ部屋まで通される。
今回案内してくれたのは、セバスチャンでは無かった。
父との面会の時は、父の執事であるセバスチャンが案内してくれる。
合えなかった事に少し寂しさを感じるが、忙しい人なので我慢する。
入室の許可を貰い、中に入ると、意外な光景が僕を待っていた。
父とセバスチャンがチェスをしていたのだ。
今回、セバスチャンではなく、別の者が案内をしてくれた理由が分かり、苦笑する。
父にチェスの相手をさせられていたようだ。
この世界でも、いくつかのボードゲームは広まっている。
元から存在していた物もあるかもしれないが、かつての異世界人が広めたのだろう。
『リバーシ』『チェス』『囲碁』『将棋』等が楽しまれている。
『トランプ』『麻雀』は聞いた事が無いので、存在しないのかも。
前者と後者の違いを考えてみたが、おそらく形の問題だと思う。
前者は多少、形が不揃いでも、駒と盤面があれば遊べる。
後者は形を揃えるだけでなく、裏に違いがあるだけで遊べなくなる。
この世界の技術では、知識はあっても再現できなかったのだろう。
『錬金術』のスキルを使えば作れそうだし、今度挑戦してみよう。
「おー、来たかユーリオン。すまんが、少し待ってくれ」
「ユリウス陛下、先にユーリオン様との用事を済ませては如何でしょうか?」
「う~む、もう少しで良い手が思い浮かびそうなんだが」
「今日は、お仕事は、お休みなんですか?」
「……あぁ、全く仕事が無いわけじゃないんだが、久しぶりに時間が取れてな」
普段から忙しいのが国王というものだ。
こちらとの約束を後回しにされるのは困るが、趣味のチェスを楽しむくらいの時間はあるべきだ。
「直ぐに良い手が思い浮かばないなら、一旦全く別の事を考えるのも手ですよ」
「……そうだな、待たせるのも悪いし、用事を先に済ませるか」
さすがは我が師匠セバスチャン。
こちらを気遣って、用事を済まさせてくれる。
予定の確認を終えると、ルナマリア、フォレスティアへの贈り物を預かる。
両国へ正式に訪問する以上、国からの贈り物は重要だ。
尊重している事が伝わるよう、軽んじていると思われないような物を贈らねばならない。
預かった物は、国王陛下からの贈り物なので、訪問する僕自身も何か用意するべきか。
しかし、出発の日まで時間的余裕は無い。
……もう一度、街をぶらついてから帰ろう。
用事が済んだので、部屋を出て城門まで向かう。
セバスチャンが見送ってくれようとしたが、父の相手を続けてもらう。
歩いていると、庭の方から赤ちゃんの泣き声が聞こえてくる。
なんとなく気になったので、声の方へ向かうと、赤ちゃんを抱いている侍女が困っていた。
「泣き止まないのですか?」
「え? こ、これはユーリオン殿下。騒がせてしまい、申し訳御座いません」
僕が泣き声に文句を言いに来たと思ったのか、更に困らせてしまった。
「たまたま通り掛かっただけなので、そんなに気にしないでください」
「いつも通り、散歩の時間だったのですが、急に泣き出し、ごはんでも、おしめでも無いようで」
こうして侍女と話している間も、赤ちゃんは泣いている。
『言語理解』のスキルで赤ちゃんの声が分かるか試してみる。
(ひらひら ない ひらひら )
ひらひらとは何だろうか?
それが無くなって泣いている事は分かったが、肝心のひらひらが分からない。
花の蜜を吸っていたのか、蝶が飛んでいるのが視界に入る。
もしかして、ひらひらとは蝶の事だろうか。
試しに白い蝶のぬいぐるみを魔糸で編んでみる。
赤ちゃんが口に入れても大丈夫なよう、間違って飲み込んでしまわぬように大きめに作る。
蝶をデフォルメにした縫いぐるみができる。
編みぐるみと違ってサイズが大きく、中の綿も作ったので少し時間がかかった。
縫いぐるみに集中していて気づかなかったが、いつの間にか泣き止んでいた。
赤ちゃんを抱いている侍女に、しゃがんでもらい、縫いぐるみを渡してみる。
これで地面に投げつけられたら、ショックで今度は僕が泣くかもしれない。
どうだろうかと見守っていると、翅を引っ張ったり、握ったりする。
お気に召して頂けたようで、赤ちゃんは満面の笑みを見せてくれる。
「良かった。それじゃ、僕は行きますので」
「ユーリオン殿下、手伝わせてしまい、申し訳ございません。そして、ありがとうございました」
赤ちゃんを抱いているので、深くは無いが頭を下げて、謝罪とお礼を言われる。
良い事をしたので気分も良い。
あの赤ちゃん、縫いぐるみを大事にしてくれると良いな。
今度こそ、城門へと向かう。




