エレナの初めての実戦
side:ユーリオン
一週間後には、旧ブロブレム領、ルナマリア、フォレスティアへ向けて出発する。
旅の為に必要な物で、日持ちしない食品以外は、だいたい購入してある。
野菜や果物は早めに用意しても、日持ちしないので、前日に買う予定だ。
今日は午後から王城に行く事になっているが、午前中は空いている。
なので、ハクアのレベル上げをしに行こうと思う。
ハクアの現在のステータスは、こうなっている。
【幻獣種:アラクネ(幼体)】【名:ハクア】【レベル:1】
【魔法適正】『光/0』『闇/1』『火/0』『水/0』『土/1』『風/0』『無/3』
【スキル】『粘糸Lv.1』
ス〇ランカーより弱い。
本当に幻獣種なのか疑うレベルだが、産まれたてだから仕方ない。
屋敷に置いていく事はできないので、ハクアも旅には連れて行く。
でも、これでは、少しはレベルを上げておかないと、何かあれば道中で死んでしまう。
アラクネの幼体は『100』産まれたとして、『10』生き残れば良い方らしい。
その中から成長する個体が『1』いれば、奇跡レベルだそうだ。
確かにこの弱さでは、外的要因無く、自然界で生き残るのは難しい。
魔石を食べさせて、安全にレベルを上げたい所だが、今は1つしかない。
手元に残っている魔石は「ジャック・オー・ランタン」のものだけだ。
他の魔石は、ハクアが来る前に、ニクスが食べているので残っていない。
この魔石を何かに使う気になれず、ストレージの中で保存している。
魔石目当てにダンジョンへ行きたい所だが、午前中だけでは時間的に厳しい。
なので今回は、街の外でモンスターを捜す。
もし何も見つけられなければ、ギルドで魔石を買うつもりだ。
街の外に出るので、アイリスが護衛をしてくれる。
今回の護衛が、ピエリスでなくアイリスなのは、エレナが一緒だからだ。
エレナはアイリスの弟子とも言える。
戦闘を習ってはいるが、まだ実戦経験は無い。
だから、元々今日は、アイリスとエレナが街の外に出る予定だった。
それなら丁度いいと、2人に僕が付いて行く事を許可してもらった。
前回出かけた時、エレナの髪は、頭の上で1つの団子にした。
今回は左右で分けて、2つの団子にしてみた。
普段はメイド服のエレナも、今回は動きやすい恰好になっている。
全員の準備が整ったので、馬車で街の外まで移動する。
外に出ると、ニクスに空から索敵してもらう。
定期的に処理しているので、王都の近くにモンスターは溢れていないからだ。
(左に進むと熊っぽいのが2匹、右に行くとカマキリっぽいのが数匹いるわ)
(ありがとう。アイリスに確認するよ)
「アイリス、ニクスが左に熊系2匹、右にカマキリ系数匹見つけた」
「ニクスとユーリオン様がいると、偵察が楽ですね。エレナどうする?」
「……熊は力が強く怖いので、数は多くてもカマキリにします」
「なら右に進みますね」
今回、メインで戦うのはエレナだ。
僕は魔石が入手できれば良いので、エレナが決める。
カマキリには悪いけど、熊の方じゃなくて良かったと思ってしまう。
モンスターだったとしても、襲ってきたわけでもない、モフモフな熊と戦いたくない。
右に少し進んだところで馬車を止める。
カマキリのモンスターを視認できたからだ。
視認できたのは5匹だが、スキルで確認すると、2匹隠れている。
「エレナ、戦える?」
「はい! 正直怖いけど、逃げません!」
「なら頑張って結果を出しなさい!」
「はい!」
2人の師弟愛を邪魔してはいけない。
隠れている2匹の事は伝えず、僕が警戒しておこう。
「エレナ、初めての戦闘で焦るでしょうが、まずは1匹倒す事に集中しなさい」
「はい!」
「アイリス、2匹抑えて、僕が残りを抑えておくから」
「分かりました。怪我だけはしないようにお願いします」
2人は槍を構えると、近寄ってくるカマキリに備える。
僕は前方のカマキリを鑑定する。
【種:ブレードマンティス】【レベル:3~7】
【魔法適正】『光/0』『闇/0』『火/0』『水/0』『土/』『風/10』『無/15』
【スキル】『風術Lv.2』
奥で隠れてるのがレベル『8』と『10』なので、群れのボスだろうか。
レベルやスキル的にそこまで苦戦する事も無さそうだが、エレナは初戦闘だ。
怪我しないように気をつけなければ。
「風の刃を飛ばしてきそうだから、警戒しておいて」
「はい!」
僕を狙って襲ってきた2匹を魔糸で縛る。
ブレードマンティスは魔糸を切り裂こうとするが、1本たりとも斬れない。
斬れないと分かると、地面を転がって魔糸を外そうとする。
そんな方法で簡単に外れる事は無いので、この2匹は放置でいい。
アイリスの方を確認すると、既に1匹殺していた。
もう1匹を殺していないのは、エレナと次に戦わせる為だろう。
エレナは今のところ怪我1つしていないが、緊張からか、動きが硬い。
槍のリーチがあるので、鎌に何とか対応しているが、見ていると危なっかしい。
まだ戦闘は始まったばかりなのに、呼吸も荒くなっている。
手助けしたくなるが、それをエレナが望んでいない事くらい分かっている。
エレナと戦っているブレードマンティスは余裕からか、周囲を確認できたようだ。
仲間の1匹が殺され、2匹が縛られて転がっていて、もう1匹は苦戦中だ。
僕達の中でエレナが1番弱いと分かったのか、攻撃が激しくなる。
先程までは右の鎌で攻撃し、左の鎌で槍を防いでいたのに、両方を攻撃に回した。
エレナが防戦一方になり、後ずさる。
エレナが仕切り直そうとしたのか、距離を離すが悪手だった。
ブレードマンティスがカマイタチのような風の刃を飛ばし、追い詰める。
エレナは益々防戦一方となり、逃げまわる事しかできない。
「アイリス、エレナが!」
「駄目です! こんなのを1対1で倒せないようでは、先はありません!」
アイリスに手助けする事を止められる。
幼い女の子が武器を持ち、自分を殺そうとするモンスター相手に立ち向かったのだ。
もう十分頑張ったのではないかと、僕は諦めかけた。
でも、アイリスも、そしてエレナ自身も諦めてなんていなかった。
エレナは風の刃を搔い潜ると、槍をブレードマンティスの首に突き刺す。
人相手なら致命傷になるだろうが、モンスター相手では少し足りない。
ブレードマンティスは、両手の鎌をエレナに振り下ろそうとする。
だが、それより先に、エレナが槍でブレードマンティスの首を斬り落とし、離れる。
首を失ったブレードマンティスが両手の鎌を振り下ろすが、そこにはもう誰もいない。
少しの間、滅茶苦茶に鎌を振り回し暴れまわったが、力尽きて倒れた。
エレナがぺたんと、地面に座り込む。
どこか怪我をしたのかと、僕は駆け寄る。
「エレナ、大丈夫!?」
「……わ、私頑張りました……一人で倒しました……」
「うん、見てたよ。エレナが頑張って1人で倒したところ」
「……怖かったです……見た目も……殺気を直接ぶつけられる事も……」
「うん、それでも逃げずに立ち向かったんだね」
エレナは勝利の余韻に浸る事も無く、震えていた。
落ち着かせる為、抱きしめて頭を撫でると、震えが治まる。
「さあ、エレナ次行ってみよう!」
アイリスが、自分が抑えていたブレードマンティスと戦わせようとする。
休む暇を与えないとは、かなりのスパルタ教育だ。
「~~もう、良い所なのに、なんで邪魔するんですか!?」
「戦闘の後で近づくと、ユーリオン様に汗の匂いを嗅がれるわよ?」
「~~もう、なんでいつも、意地悪な事を言うんですか!?」
「ユーリオン様がアメで、私がムチだからよ! それとも、今日はもう終わる?」
「やります! 私は強くなるって決めてるんです!!」
エレナは1度実戦を経験した事で余裕ができたのか、それともレベルが上がったのか。
次の戦闘では余裕すら感じ、危なげなくブレードマンティスを倒した。
隠れていた2匹は勝てないと判断したのか、逃げて行った。
追わなくても良いかなと思っていたが、飛んでいるニクスから念話が来る。
倒して良いのか聞かれたので、許可すると、2匹も倒されたようだ。
ブレードマンティス5匹分の魔石をハクアに与える。
これで少しはレベルが上がるだろう。
エレナには、初めて倒した記念に残さなくて良いのか確認したが、不要と言われた。
頑張ったエレナには、何かご褒美をあげたいが、何が良いだろうか。
少し早めに街へ戻って、髪飾りか、アクセサリーでも探してみようかな。
「僕は王城に行くから、先に戻るね」
「本当に1人で大丈夫ですか? やっぱり私が護衛にいた方が」
「2人の邪魔はしたくないし、何かあればニクスを飛ばすから心配しないで」
「……分かりました」
馬車で城門の近くまで送ってもらうと2人と別れる。
僕はニクスを肩に乗せて中に入り、2人はまた狩りに向かう。
ハクアは王城に連れて行くのもどうかと思ったので、2人に預けてきた。
ニクスと何かないかと、露店をぶらついてから王城に向かった。




