隠し事はいずれバレるもの
魔法を初めて使用したあの日から、周囲に気づかれないように鍛錬は続けていた。
しかし、1歳半くらいの頃に魔法を使用できる事がバレてしまいました。
きっかけはお昼寝の時間の事でした。
いつも通り寝たふりをし、使用人が部屋から出ていったのを確認する。
まずは日課の鍛錬メニューをこなす。
魔力の糸をそのままだけど、魔糸と呼ぶ事にした。
日課の鍛錬メニューは以下の通り。
・魔糸の長さを伸ばす
・魔糸の強度の調整
・魔糸の操作
・両手の指、計10本から魔糸を出せるようにする
1年近く鍛錬したおかげでどれか1つ、あるいは2つまでなら何とか納得できる結果を出せる。
例えば両手の指、計10本から魔糸を出し強度を上げた場合、
長さは20㎝程度で操作はできない為、「鉄爪」のような使い方になる。
片方の手で1本魔糸を出し、長さを1m程度にすれば思い通りに動く「鞭」にできる。
最終的にはもちろん4つ全てを完璧に達成するつもりだが、鍛錬の成果が目に見えるのは良い。
この日はふと、魔糸の性質を変更できないかと思いついた。
強度調整の派生で、魔糸に粘着力を付与できないかと。
海外映画で大人気な「クモ男」のように手から糸を出し、空中をスタイリッシュに移動できれば便利だし、何よりカッコいいと。
まずは右手から天井に向かい、蜘蛛の糸のような粘着力をイメージしながら魔糸を出す。
思ってたより簡単に成功し、天井から魔糸でぶら下がっている状態になった。
これはイケると油断していたのが悪かった。
左手でも同じ操作を行うと、天井から魔糸で左右の手を繋がれ、ぶら下がっている状態になった。
次は右手で魔糸を出して移動しようとするが、粘着力を持たせた魔糸が手から外れない。
一度粘着力という性質を持たせた魔糸は、別の性質に変更できなかったのだ。
その結果、使用人に発見され救助されるまで待つしかなかった。
それは両手を\(^o^)/(バンザイ)で天井から吊るされた罪人のような状況でした。
……以下はその時の会話です。
「ユーリオン様 そろそろお散歩はどうですか?」
「……(虚ろな瞳で吊るされている僕)」
「ああぁぁぁぁぁーーーー!(僕を発見し、絶叫するモルダーク)」
「どうしたのモルダーク? 大声を上げて(心配するスカリィ)」
「ユーリオン様が何故か吊るされているんだ!?(状況を理解できないモルダーク)」
「モルダーク、貴方疲れているのよ(何を言ってるんだこいつはという顔のスカリィ)」
「……騒がしいわ……何かあっ……(吊るされた僕を見て倒れる母)」
「何をしているんだ! まずはユーリオン様をおろせ」
「なんだこれ!? ベトベトするぞ…くっ、とれない!」
「なら糸を風で切るか凍らせろ。ユーリオン様を絶対に傷つけるなよ」
救助してくれた皆に申し訳なさを感じつつ、周囲の怒りに気づく。
「誰がユーリオン様にこんな酷い仕打ちを」
「こんな幼い子を吊るすなんて人の所業じゃないわ」
「しかし、犯人の目的はなんだ? どのようにして気づかれずに侵入と脱出を行ったのだ?」
「ユーリオン様が狙いだとしても、嫌がらせだけして逃げるのは、意味が分からない」
このままでは存在しない犯人捜しで大変な事になる。
僕は正直に魔法の鍛錬をしていた事を言いました。
「……信じられない。まだ2歳にもなっていないのだぞ」
「いくら魔法の素養の高いエルフの血を引いていたとしても、信じられん」
「そもそも誰か魔法について教えたのか?」
「私は蜘蛛のような糸を出す魔法なんて聞いたことがないわ」
「俺もだ。何属性なんだ?」
「もしかして、犯人の事を庇っているんじゃ?」
「……まさか、身内に犯人がいるということか!?」
また、騒がしくなってきた頃、母が目を覚まして状況を確認する。
「ユーリオン……あなたが自分でやったの?」
「……はい、お騒がせしてすみません」
「……本当なら同じ糸を出せる?」
「わかりました」
僕は右手から粘着力を持たせた魔糸を天井に向かって出して右手でぶら下がる。
今度は左手が開いているので、左手に切断力を高めた魔糸を出し、自力で脱出する。
「……その魔法は誰かに教わったの?」
「いえ、独学です」
「……そう、すごいのね」
「この目で見ても信じられん」
「ユーリオン様は魔法の天才だ」
「魔法も凄いけど、ユーリオン様こんな喋れたの?」
「………(全員確かに、という顔)」
周囲の怒りの空気は無くなったが、微妙に居心地の悪さを感じてしまう。
そんな空気の中、母であるアメリアが本当に珍しく長文を語る。
「この子には、神の祝福があるのかもしれないわね。
あまり騒がしくはしたくないのだけれど、下手に隠して余計な勘繰りもされたくないわ。
誰か、ユリウス陛下にユーリオンと私が面会を求めていると使いを出してくれる」
「では、私が今から向かいます」
「……頼んだわ」
母の言った「神の祝福」という言葉には驚かされた。
バレてしまったのではないかと不安に思ったからだ。
こんな幼い子が普通に会話し、教わっていない魔法まで使えるなど異常な事だろう。
自分の面倒を自分で見れるまでは、目立たないようにする予定だったが、難しそうだ。
次の日、久しぶりに父が屋敷に来た。
「……こちらから向かうつもりでしたが」
「あそこは居心地が悪かろう。なに、面倒という程の事でもない」
うーん、やはり父と母の間の微妙な空気が気になる。
「護衛はここまででいい」
父が連れてきた護衛の騎士っぽい3名に告げるが、護衛の騎士は食い下がる。
「しかし、何かあれば」
「君は私の家族水入らずの時間を邪魔するのかね?
それともまさか、妻であるアメリアを信用できないと言いたいのか?」
父がやや怒気をもらし、気を悪くしたように告げる。
「そんなつもりは決してありません。部屋の外と屋敷の外で待機させて頂きます」
騎士達はあせったように駆けていった。
父母と僕が部屋に入り、母が扉を閉めると3人だけになる。
そして母が何かの詠唱を行う。
「これで部屋での会話が漏れる事はないでしょう」
「アメリアから面会を求め、さらには秘匿性の高い状況にするなど、何かあったのか?」
「……この子が……凄いのです」
「………」
母よ、さすがにそれでは父もコメントに困るのではないだろうか。
すると母も言いたい事が伝わってない事に気づき、言い直す。
「……ユーリオンは……天才なんです」
「………」
あまり変わっていない。
母が口下手であり、状況を説明できる人物が僕しかいない為、自分で父に説明した。
すると父の第一声が下記の通りである。
「めっちゃ流暢にしゃべってるぅーー!?」
……ハリウッドスターばりのイケメンが台無しである。
「この年でこれだけ喋れているだけでも驚きだというのに、魔法まで既に使用できると?
……2人が嘘をついているとは思えんが、信じられん」
「ユーリオン、見せてあげて」
今回は粘着力を持たせた魔糸は控えた。
あれはまだ消し方を考えていない為、部屋に残ると後処理が面倒なのだ。
なので魔糸の鞭の方を選び、蛇のように操って見せた。
「これでいいでしょうか」
「ええ」
「これは驚いた。4属性の小さな魔法レベルかと思えば……。
いや、そうだっとしても凄い事だが、こんな魔法は見た事が無い。
アメリアが面会を求めた意味が良くわかったよ」
父が感心したように僕を見つめる。
チートは貰ったが、努力もしているので、褒められるのは嬉しい。
「……ええ」
「この事を知っているのは?」
「……屋敷のほぼ全員…」
父が顎に手をあて少し考え込む。
「隠しきるのは不可能だな。ならば3歳の誕生日にお披露目としよう。
この子は魔法の素養だけでなく、頭も良さそうだ。
通常よりだいぶ早くなるが、色々と勉強させて、知識を与えた方が良いだろう」
勉強させてもらえるなら、ありがたい。
独学では、間違っていても気づけないのだ。
「……でも、この子が嫌がるようなら」
「わかっている。本来は早すぎるのだ。無理やり何かをさせるつもりはない」
「図書室の本の持ち出しを許可するから、しばらくはユーリオンにそれで教えてやってくれ」
「……わかったわ」
「決まりだな。本当はもう少しゆっくりしたい所だが、あまり長居するとアリアがな……。
ではなユーリオン、また近いうちに今度は手土産を持って顔を見に来るとしよう」
「はい、楽しみにしております」
そして父は護衛の騎士と共に帰っていった。
ここが僕と母にとっては帰る家なのに、「帰っていく」というのは不思議な感覚だった。