ニクスとアラクネの幼体
屋敷まで戻ると、アイテム袋から出すふりをしながら、ストレージの荷物を取り出す。
旅の間の事も考えると、このメンバーには、ストレージの事くらいは話して良い気がする。
自分の部屋に入ると、ニクスの姿が見えない。
どうやら、今日も出かけているようだ。
ダンジョンから帰還してからは、よく出かけるようになった。
遅くなる場合でも、夜にはちゃんと帰ってくるので、あまり心配はしていない。
ニクスに紹介したかったけど、居ないのは仕方ない。
アラクネを肩からテーブルの上に降ろすと、生活する上でのルールを説明する。
知能は意外にも高く、教えた事は覚えてくれた。
1時間くらい話していると、ニクスが窓から帰ってきた。
まだ、夕飯の時間には早いので、紹介する時間を取れる。
「お帰り、ニクス」
「ただいま、もう帰ってたのね……それは?」
「街で捕まっていたのを助けたら、懐かれちゃって。今日から一緒に暮らすから、仲良くしてあげて」
ニクスがプルプルと震えだす。
どうしたのだろうか?
「……ゆ、ユーリオンの浮気者! 酷いわ! 私が居ない間に別の幻獣種を部屋に連れ込むなんて!」
「……え、え~」
「私というものがありながら! なに!? 私の何が不満だったって言うの!?」
まるで浮気を問い詰める妻のように、ニクスが怒り出す。
いや、浮気した事も、結婚した事も無いので、完全にイメージだが。
「男の人っていつもそう! 最初は大事にしてくれても、結局は若い子に惹かれるんだから!」
「い、いや若い子って……アラクネは幼体だけど、ニクスだって産まれてから数年じゃ」
「よ、幼体に手を出すなんて……ユーリオンのロリコン! ユーリコンって呼んでやる!」
……ユーリコンは本当に止めてほしい。
よほどアラクネを連れてきた件が気にくわなかったのか、烈火のごとく怒る。
とりあえず、冷静に話し合う為にも、ニクスを落ち着かせないと。
「ニクス、まずは落ち着いて」
「うぅ~、私捨てられるんだわ……乗り換えられるんだわぁ……」
情緒不安定になっている、ニクスを優しく抱きしめる。
「落ち着いて。ニクスを捨てたりしないし、不安にさせたなら、ごめんね」
「……ほんと? 一生大事にしてくれる?」
「う、うん」
ようやく腕の中で、ニクスが落ち着いてきた。
5歳にして浮気を責められるなんて、胃が痛くなりそうだ。
改めてニクスに説明をする。
渋々ではあるが、一緒に暮らす事を了承してもらえる。
ニクスが帰って来てからは、静かだったアラクネだが、寝ていた。
ルールを覚えたりで疲れたのかもしれないが、あのニクスを前に寝るとは、将来は大物になるかも。
「言った事をすぐに覚えるなんて、頭の良い個体なのね」
「普通の事じゃないの?」
「普通はアラクネの幼体に、そんな知能は無いわ。いくらユーリオンにスキルがあっても、
簡単な意思を伝える事しかできないはずよ。これなら、育てれば将来役に立つかもね」
まあ、元々育てるつもりだったので、役に立つか、立たないかは関係ない。
どう育つのか分からないが、蜘蛛なら家の中に入ってきた虫なんかを処理してくれれば、十分だ。
「名前は決まっているの?」
「……まだ考え中」
「アラクネだからアーちゃんとか、クモだからクーちゃんに、しないわよね?」
ニクスには、心を読むスキルがあるのだろうか?
ニクスが微妙な表情になるので、別の名前を考えなければ。
白い身体に赤い目……似たようなのは……雪兎?
ユキウサギではアレなので、読み方を変え、ユキト?
これじゃ男の子の名前になってしまうか。
女の子っぽい名前……ユキ、ましろ、ホワイト、ヴァイス、ブラン……ハクア。
う~ん、よし、ハクアにしよう。
寝てるアラクネの幼体を起こす。
ハクアの名前が気に食わなかったら、別のにしよう。
「君の名前なんだけど、ハクアって呼んでいい?」
「名前? ハクア? 私 ハクア?」
「うん、どうかな?」
「ハクア良い 主 嬉しい 私ハクア」
気に入ってくれて良かった。
ハクアにニクスを紹介すると、ニクスにも興味を持ったようだ。
「ニクス 仲間 ニクス ハクア食べない?」
「食べないわよ……今の所は」
「……主 ニクス 怖い……」
「もう、ニクス怖がらせちゃ駄目だよ。妹分だと思って面倒見てあげなきゃ」
「……分かったわよ」
アラクネに仲間意識は無いって聞いていたけど、ハクアの様子では、そんな事は無さそうだ。
夕飯の時間まで、3人でお喋りして過ごすのであった。




