アラクネの幼体に懐かれる
母様達のいるであろう服屋の前まで来た。
蜘蛛を連れて入るのはどうかと思ったので、ピエリスに中を確認してきてもらう。
母様達は店内にいたようで、無事に合流できた。
スマフォどころか、電話も無い世界だ。
待ち合わせ場所から動かれると、探し回る事になる。
母様達の荷物も、僕がストレージに収納しながら確認する。
待たせてしまったか不安だったが、そうでもないらしい。
他の店も色々見てから、この店に来たので、丁度良かったそうだ。
「ユーリオン様、その手に持っている物は何ですか?」
「アラクネの幼体だよ」
「……アラクネ?」
エレナはアラクネを知らないようだ。
女の子は虫とか苦手そうなイメージがあるので、見せて良いのか少し悩む。
「エレナ、アラクネは蜘蛛の幻獣種よ。まぁ、幼体なら普通の蜘蛛みたいなものかな」
「蜘蛛ですか?」
アイリスがエレナに簡単な説明をしてくれた。
エレナは蜘蛛と聞いても、特に嫌悪感を出さなかったので、アラクネを見せてみる。
「白くて奇麗な蜘蛛ですね」
「エレナは、蜘蛛は苦手じゃないの?」
「好きという事はないですが、嫌いでもないですね。畑を荒らす虫の方が嫌いです」
日本に比べれば、この世界の女性は、虫に対する苦手意識が低いのかもしれない。
貴族の令嬢は例外だろうが、畑仕事や森に入ったりするならば、虫と接する機会は多い。
生活が関わる以上、苦手だなんだと言ってられないのだろう。
「……他に何か買いたい物はある?」
母様の言葉で皆、買い忘れが無いか考える。
保存食や調理器具、衣類や武器類、いろいろ買ったので大丈夫とは思う。
「大丈夫そうね、帰りましょうか」
「なら、帰る前に街の外に行って、この子を逃がしてきますので」
「あまり遠くまで行っては駄目よ」
「はい、母様達は先に馬車の所まで行っててください」
僕とピエリスは街の外まで出る。
檻からアラクネを出そうとするが、出てこない。
まだ、寝ているようだ。
(起きて)
(……ここは?)
(街の外だよ)
ゆっくりと檻の中から出てくる。
周囲をきょろきょろと見渡す姿は、愛嬌があって少し可愛い。
(ありがとう 助けてくれて ごはんくれて)
(もう人間に捕まっちゃ駄目だよ、じゃあね)
(どこ行くの?)
(僕達は家に帰るんだ。もう君も自由なんだよ)
(帰る場所無い 一緒が良い)
……困った。
外に逃がしてあげれば、どこか好きな場所へ行くと思っていた。
食事を与えたからなのか、懐かれてしまったようだ。
(駄目? 一緒にいたい 駄目?)
(人と一緒にいるという事は、守るルールが沢山あるんだ。それは不自由で窮屈かもしれないよ?)
(ルール 守る 言う事 聞く 一緒が良い)
(……分かった。なら一緒に帰ろうか)
(嬉しい 一緒 嬉しい)
成長してからも、言う事を聞いてくれるか分からない。
でも、ここまで懐かれれば、置いて帰る事も難しい。
僕が責任を持って育てる事にする。
「ピエリス、この子連れて帰るよ」
「なんとなく、そうなる気がしてました」
ピエリスが苦笑しながら言う。
次に真剣な表情になると、もしもの時の話をされる。
「今は良くても、成長すれば分かりません。危険を感じれば、俺は処分しますからね」
「その時が来ないように育てるけど、もしもの時は自分で……」
アラクネを肩に乗せると、大人しくしているように言う。
もう一度、檻の中に入れるのは気が引けたので、頭か肩しかない。
母様に何て言って許可を貰おうか考えていると、馬車まで着いてしまった。
「……飼っても良いけど、責任持って育てるのよ」
「分かりました。ありがとうございます」
僕が何か言う前に、肩のアラクネを見た母様が、先に許可をくれた。
後はニクスが仲良く、やってくれるかが心配だな。




