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【異世界転生】理想の執事を目指します  作者: 夜空のスピカ
第5章 旅への準備
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蜘蛛の幻獣種


 母様達に合流する為、服屋の方へ向かっていると、広場の方に人が大勢集まっていた。

 

「人が多いね」

「何か見世物でも、やっているのでしょうか」

「少し見てみない?」

「良いですけど、人ごみの中は危険なので、少し離れて見ましょう」

「分かった」


 確かに人ごみの中に入ると、スリや暗殺も警戒する必要がある。

 警戒しながらでは楽しめないので、それなら離れて見た方が良い。


 しかし、1つ問題があった。

 いくら目が良いエルフでも、高さという壁は乗り越えられなかった。

 

 身長が107㎝しかない僕では、見物人の背中しか見えない。

 どこか登れる木か、何かがないかと周囲を見渡していると、ピエリスが、しゃがんで背を向ける。


「ユーリオン様、宜しければどうぞ」

「……ありがとう」


 ピエリスが肩車をしてくれた。

 前世の幼い頃、父が肩車してくれた事を思い出した。

 懐かしさから、ふと涙が流れそうになる。


 確かあの時、動物園に来ていたのに人が多いせいで、ぜんぜん見えなかったのだ。

 父が肩車してくれたおかげで、見たかった動物が見れたのも嬉しかった。

 でも、それ以上に嬉しかったのは、普段とは違う高さから見える景色。

 そして、普段は忙しい父と思い出が作れた事が何より嬉しかった。


「どうしました?」

「いや、ちょっと目にゴミが入っただけ」


 ピエリスが肩車してくれたおかげで、何をしているのかが見えた。

 どうやら、珍しい動物や魔獣を見せて、紹介しているようだ。

 客の1人がお金を渡しているので、気に入れば購入もできるらしい。


(……けて……い……)

「ピエリス、何か言った?」

「いえ、何も。これだけ人が集まっているので、耳が良い俺達では喧しく感じますね」


 確かに少し、うるさいくらいには感じる。

 でも先ほどの声は、近くから聞こえた気がしたのだ。


(……怖い……だ……助け……)

(君はだれ? どこにいるの?)

(……声? 助けて……怖い怖い……ここは嫌) 


 気持ちが伝わってくるだけで、会話にならない。 

 おそらく、見世物にされている誰かだと思う。


「さあ、本日のメインは何と、あの伝説の幻獣種です!

 一目見れただけでも幸運。もし自分のものにできれば、一生自慢できる事でしょう!!」


 幻獣種と聞いて、周囲から凄い歓声が上がった。

 あまりの客の盛り上がりに、耳が痛くなってくる。


「うるさすぎますね。離れましょうか」

「ごめん、少し待って」

「幻獣種が気になりますか?」

「うん、もう少しだけ」


 助けを求めているのは幻獣種かもしれない。

 耳は痛いが、ここで知らんぷりはできない。


「この檻から出す事はできませんが、近くに来て見るのは構いません!

 どうぞどうぞ、遠慮せず見てください!」


 前の方にいた観客が司会の男に近づき、その手に持つ檻を確認する。

 なぜか、落胆し帰っていく。

 他にも何人か確認するが、文句を言うか、興味が失せたように帰っていく者ばかりだ。


「……みんな帰っていくね」

「偽物だったんじゃないですか?」

「一般の人が一目見て、偽物と分かるかな?」

「確かにそうですね……そうなると、おそらく」


 人だかりも減ってきたので、ピエリスの肩から降ろしてもらう。

 僕達も確認させてもらうと、檻の中には、白くて小さく、赤い目をした蜘蛛がいた。


「やっぱりそうか」

「ピエリス、皆の興味が無くなった理由が分かるの?」

「これは幻獣種のアラクネ、その幼体ですね」


 アラクネ……前世で聞いた事があった気がするが、何だったかな?

 フェニックスやドラゴンくらい有名であれば、すぐに思い出せるのだが。


「蜘蛛だから、みんな離れていったの?」

「いえ、アラクネは幻獣種の中でも、特に特殊なんです。

 基本的に雌雄も無く、増えないのが幻獣種ですが、アラクネは違います。

 アラクネは育つと卵を産むようになり、100以上産まれます」


 幻獣種の中にも、そんなに増える個体がいるとは。

 アラクネは珍しくないので、みんな興味を失ったのだろうか?


「幻獣種だけど、アラクネは特に珍しくないって事?」

「卵を産めるほどの個体ならば、珍しいというか、もし出会えば、よほどの事が無ければ死にます。

 アラクネの幼体は数が多いですが、かなり弱いので、成長する前にほとんど死にますね。

 昔、アラクネの特性に目をつけた貴族が、戦力にしようと、幼体から育てた事がありました。

 その貴族は成長したアラクネに殺され、領地もかなり荒れたそうです」


 ……なるほど。

 誰も興味を示さなかったのは、それほど珍しくもないという事もあるが、

 成長するまで世話しても、殺される危険があるのが大きいのだろう。


「そんな危険なアラクネの子供を、檻に入れて連れてきたりして、大丈夫なの?」

「アラクネは卵を産みますが、自分の子に興味を示さず、そのまま放置します。

 兄弟同士でもエサを巡って争い、共喰いもするので、仲間意識は無いそうです」


 フェニックスを知っているだけに、アラクネの生態には驚かされる。

 鳥型と虫型の違いなのだろうか。

 考え込んでいると、購入を悩んでいると思われたのか、司会の男に声をかけられる。


「坊ちゃん、どうです、興味があるなら、ペットに買っていきませんか?」

(助けて……助けて……ここは嫌……)


 助けを求められているのだし、買った後は逃がしてあげればいいか。

 

「……いくらなんですか?」

「ユーリオン様、買うのですか? 流石に危険すぎますよ!」

「金貨1枚でどうです?」


 僕とピエリスの関係を察したのだろう。

 ピエリスが止める前に売ってしまおうと、すぐに交渉に入る。

 

 金貨1枚で10万円くらいの価値がある。

 僕個人で払う事は可能だが、相場が分からない。


「ピエリス、どうなの?」

「……はぁ。そんなに欲しいのならば、幼体で良いなら俺が捕まえてきますよ」

「そう、ならここで買う必要は無いね」

「ま、待ってください! 高いというなら、銀貨5枚でどうです?」


 いきなり、半額になった。

 この様子だと、全く売れる気配が無かったのだろう。

 売れないのに、エサ代はかかるので、早く売ってしまいたいようだ。


「いえ、ピエリスが捕まえてくれるので」

「銀貨3枚ならどうですか?」

「ピエリス、どう?」

「まあ、捕まえる手間暇を考えれば、せいぜい銀貨1枚ですかね」


 最初の金貨1枚は、かなり、ぼったくろうと、していたようだ。


「そ、それでは儲けが」

「話は変わるが、テイマーズギルドの許可は貰っているのか?」

「!?」

「あまり時間をかけない方が良いのでは?」

「……銀貨1枚で良いです」


 僕が支払いをしようと財布を取り出すと、ピエリスが待ったをかける。


「ユーリオン様、このアラクネ弱っています。

 売れないのにエサ代はかかると、良い扱いをされていなかったようですね。

 これなら、やはり俺が捕まえてきた方が」

「わ、わかりました! もう小銀貨7枚で良いので、持ってってください!」


 僕は小銀貨7枚を渡し、檻に入ったまま受け取る。


(もう少しだけ待ってね。街の外に出たら、逃がしてあげるからね)

(……助けてくれて、ありがとう。お腹空いた)


「ピエリス、アラクネの幼体って何を食べるの?」

「小さな虫や生物の死体など、雑食だったかと」


 近くにあった屋台で、串焼きを1本買う。

 熱いのが大丈夫か分からないので、少し冷ましてから檻の中に入れる。


(これ食べられる?)

(ごちそう 食べていいの?)

(うん、全部食べて良いからね)

(ありがとう)


 揺れながらでは食べづらいだろうと、ベンチに座って食べ終わるのを待つ。

 ピエリスが飲み物を買ってきてくれたので、ゆっくりと飲む。


「ユーリオン様、アラクネを育てるのですか?」

「いや、街の外で逃がしてあげようかと」

「では、なぜ買ったのですか?」

「……助けてって声が、聞こえた気がしたんだ」

「その生き方は、いらぬ苦労を背負いますよ」

「その時は助けてほしいな」 

「分かりました。俺がユーリオン様の助けになります」

「ありがとう」


 ピエリスには、いつも気苦労をかけてしまう。

 だから、ピエリスが困った時には、僕が力になろうと思う。


(お腹いっぱい もう食べられない 寝る)


 蜘蛛の体積の倍はあった量なのに、全部食べていた事に驚く。

 この小さな身体のどこに入っていったのか。

 

 蜘蛛も満足したようなので、今度こそ母様達のいる服屋へ向かう。

 別れてから、3時間くらいは経過してそうだし、待ちくたびれているかも。




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