鍛冶師との出会い
今回は長旅になるので、色々準備が必要だ。
行くのは僕と母、ピエリスとアイリス、それにエレナだ。
王族の長旅になるので、国から騎士が護衛に付く話も当然あったが、断った。
知らない人間と長時間一緒に過ごすのが苦痛というのもあるし、エレナの事もある。
よほどの事がない限り、この少数精鋭のメンバーなら問題は無いだろう。
ルナマリア神聖国と旧ブロブレム領には父が、フォレスティア森聖国には母が手紙を出している。
遊びに行くわけでは無いし、向こうもいきなり来られても、対応に困るからだ。
だから、正確な日時は不明になっても、だいたいの予定は知らせる必要がある。
電車やバスなどの交通手段は無く、予定より遅れても、電話やメールで知らせる事もできない。
魔法のある世界よりも、魔法の無い地球の方が便利で、魔法じみた生活を送っていると思う。
旅に出るのは、まだ少し先になるので、今日は皆で街に買い物に行く。
個人的な買い物もあるので、今回はエレナも一緒だ。
片方の目に眼帯をし、髪は纏めて団子にし、大きな帽子で隠す。
無用なトラブルを招かないようにする為ではあるが、エレナに隠すような事をさせたくない。
どうして悪事を働いたかのように、コソコソと隠す必要があるのか。
「ユーリオン様、髪ありがとうございます」
「……うん」
エレナの髪は僕が纏めたので、そのお礼を言われる。
「そんな顔しないでください。私はユーリオン様の側にいられるだけで、十分幸せですよ」
「側にいるだけで幸せなら、これから先、エレナには沢山の幸せが待っているね」
「……ユーリオン様、はい! 楽しみです♪」
どうやら、不満が顔に出ていたようだ。
1流の執事になる為には、ポーカーフェイスも身につけなければ。
「エレナ、準備できた?」
アイリスが確認にやってくる。
向こうの準備が終わったのだろう。
「はい、いつでも行けます」
「……また、ユーリオン様に髪をいじってもらったの?」
「はい♪」
「いや、どうして貴女の方が手伝ってもらっているのよ? 普通、立場が逆でしょ……」
「僕がやりたくて、やっている事だから、あまりエレナを責めないであげて」
瞳や髪を隠すような真似はさせたくない。
でも、エレナの髪を色々アレンジするのは僕の趣味でもある。
僕の理想とする執事も、主であるお嬢様の髪型を色々といじっていた。
なので、女の子の髪型についても勉強はしていたのだ。
「まあ、ユーリオン様がそう言うなら。じゃあ、準備はできたようなので、行きましょうか」
外に出ると、ピエリスが馬車の準備をしている。
もう身体は大丈夫なようだ。
最近は失った体力を取り戻すように、庭で鍛えているのを見かける。
「ピエリス、今日はよろしくね」
「お任せください。俺も買いたい物があるので、後で少し時間を頂ければ」
「今日の予定は買い物だけだから、色々見て回ろう」
「はい!」
2頭の馬の様子を見ていると、試した事は無いが、動物とも会話できるのではと思いつく。
ダンジョンでは魔獣と会話できたし、それによって交渉も出来た。
(僕の言葉がわかる?)
(水 飲みたい)
(小腹 空いたな)
おぉ、馬の気持ちが伝わってきた。
右の馬には水を用意し、左の馬には野菜を食べさせてあげる。
「ユーリオン様、馬の世話など急にどうしたのですか?」
「いや、なんとなく、そんな気がして」
((ありがとう お前 気に入った))
馬が喜びの鳴き声をあげる。
僕は小さいので、馬を撫でる事はできないと思っていたら、頭を下げてくれた。
両手で2頭の頭を撫でると、暖かさを感じる。
(思いっきり 自由に 走りたい)
(分かった。今度、広い所に連れてくから、今日はよろしくね)
(約束 信じる 楽しみ)
「ピエリス、今度2頭を自由に走らせてあげて」
「……ユーリオン様は、馬の気持ちが分かるのですか?」
「……なんとなくだけど」
「分かりました。まだ早いと思ってましたが、良い機会ですね。今度、乗馬を教えます」
「上手くできるか分からないけど、お願いするよ」
乗馬と言っても、僕の身体のサイズでは、本当に乗っているだけになりそうだな。
(俺 乗せる)
(いや 俺が 乗せる)
2頭が喧嘩しそうになったので、両方に乗るという事で落ち着かせる。
急ぐ必要は無いので、2頭には安全運転で街まで運んでもらった。
街まで来ると、一旦男女に別れる。
女性組は衣服を買うのが主目的であり、時間がかかるためだ。
こっちはその間に色々必要そうな物を買っておく。
「こっちの用事が済んだら、そちらに合流するので、ゆっくり選んでてください」
「……ユーリオンもピエリスと離れちゃ駄目よ」
「ユーリオン様、また女の子を拾ってこないでくださいね?」
「……うぅ、ユーリオンさまぁ」
母は純粋に心配してくれたが、アイリスは、からかうように言ってくる。
アイリスの言葉で、エレナが不安そうな表情になる。
「アイリス、不敬だぞ」
「あいたっ」
ピエリスがアイリスを、軽く小突いて注意する。
そうそう女の子を拾う機会があるとは思えない。
「では、また後で」
「兄さん、今回こそ、ユーリオン様から目を離さないでくださいね」
「……分かっている」
二手に別れて、買い物を始める。
さて、何から買いに行こうか。
「ユーリオン様、どこから向かいますか?」
「ピエリスが行きたいって言ってた場所はどこ?」
「あぁ、それなら武具屋です」
武具屋には行った事が無い。
糸がメイン武器だし、最近入手した鎌もメンテ不要なので、武具屋には縁が無い。
「なら、武具屋に向かいつつ、それまでに何かあれば、買う感じで行こうか」
「分かりました」
武具屋に向かう道中で、屋台で買い食いをしたりした。
女性が屋台で買い食いするのは、はしたない行為となるので、これは男同士でしかできない。
武具屋に入ると、入り口付近には、雑に並べられた安物が置かれている。
奥に行くほど良い物があるのは、万引き対策の為だろう。
「何を買うの?」
「今度は長旅になるので、投擲用の短剣の補充や、何か良い物があればと」
ピエリスも男だからか、武具屋に入ると、いつもより少し、テンションが上がっている気がする。
ソウルイーターもあるし、武器に興味は無いけど、短剣やナイフは必要かもしれない。
せっかくなので、鑑定を使いながら見て回る。
量産品なのか、同じ見た目の槍が、雑に立てかけられているのが、目に止まる。
10本くらいある中に、1本だけ品質が高い物があったので、つい手に取ってしまう。
「お前、何者だ?」
「……!」
いつの間にか、ドワーフの男が僕の側に来て、話しかけてきた。
敵意は感じないので、『危険感知』に引っかからず、『気配察知』は街ではOFFにしている。
「そう警戒すんな。この店のもんだ。お前、迷わずにそいつを選んだな?」
「なんとなく選んだだけですよ」
「いや、お前の事は入ってきた時から見てたが、そいつを確信して手に取ったように見えた」
「………」
「勘違いすんなよ。別にどうこうしようってんじゃ、ねーんだ。
ただ、良い目を持っているようだが、鍛冶師には見えねえから気になっただけだ」
量産品の中から迷わず良い物を選んだから、気になったのか。
いくら『隠蔽』のスキルがあっても、気をつけないと、行動でスキルがバレてしまうな。
「はい、槍が欲しかったわけじゃないのですが、1本だけ良い物だったので、気になって」
「やっぱりそうか。嬉しいねぇ、理解してもらえるのは」
「これも他と同じ値段で良いのですか?」
「ああ。そこにあるのは、同じ材料で同じように作った、面白くもない量産品だ。
最後の1本の時だけ、中途半端に時間が余ったから、少し気合いを入れて作ったのさ」
同じ材料で同じように作ったのに、気合いで品質がこうも変わるのか。
ドワーフのスキルなのか、鍛冶師の腕によるものなのか。
「凄いですね。気合いだけで、こうも変わるだなんて」
「客からすれば、全部気合いを入れて作れって思うかもしれないが、量産品じゃ、やる気がな。
見た目はほぼ同じだし、値段を変えるのも面倒でな。まぁ、当たりみたいなもんよ」
確かに同じ物を何度も作っていれば、それら全てに本気で取り組むのは難しいだろう。
「槍が不要ってんなら、今日は何を買いに来たんだ?」
「投擲用の短剣と、長旅をするのでナイフや必要な物を」
「旅か、店に並べてはいないが、使えそうな物はある。見てくか?」
「お願いします」
ピエリスに一声かけてから、店の奥へと入っていく。
ナイフや包丁だけでなく、フライパンや鍋などの調理器具もあった。
鑑定してみると、店に並べないのが不思議なほど、良い物ばかりだ。
「趣味や息抜き、余った材料なんかで作った物だが、どうだ?」
「どれも良い物ばかりですね。店で並べて売らないのですか?」
「息抜きや趣味だって言ったろ? 商品として作るようになれば、目的が変わってしまう」
「なるほど。確かにその通りですね」
「気に入った物があれば、持っていきな」
鑑定で見た情報だけでなく、実際に手に持ったりして、使いやすさも確認する。
ストレージに収納しておけば、重さは気にならないし、旅向きな物をいくつか選ぶ。
「これらを売ってください」
「金はいらん。欲しいなら、好きに持ってけ」
「いえ、これほどの品、ただでは貰えません!」
「子供が遠慮すんな! 金にしちまったら、目的が変わるって言っただろうが」
好意はありがたいが、無料でもらう訳にはいかない。
だが、無理にお金を渡すのも違う気がする。
「武具屋なら、モンスターの素材を扱いますよね?」
「あ? 確かに素材は扱っているが、それがどうした?」
「では、お金ではなく、交換という事でどうでしょうか?」
僕はストレージから、ダンジョンで倒したモンスターを何種類か取り出す。
「……お前、これは……」
「以前ダンジョンへ行った時に回収はしたのですが、そのまま放置していたものです」
「こいつらは低層なんかには存在しない。子供が倒せるモンスターとは格が違うんだぞ!」
「そこはまぁ、色々ありまして。できれば、聞かないでくれると助かります」
「フハハハハハ! なんだお前、子供かと思ったが、見た目通りの年齢じゃなかったのか?」
「いえ、見た目通りの5才です」
「滅茶苦茶だな。いくつか、素材を貰っても本当に良いのか?」
「ギルドに出して目立ちたくはないので、全部良いですよ」
40階層を突破した事は隠しているので、素材を売る事で目立ちたくはない。
でも、ストレージの容量は無限では無いので、残しとくのも邪魔なのだ。
無料で色々渡そうとする良い人なので、言いふらすような真似はしないだろう。
「馬鹿野郎! それじゃ俺が貰い過ぎだ! 子供相手にそんな恥知らずな真似ができるか!!」
「では、余ってる鉄をください。それでも多いようなら、今度また何か貰いに来ます」
「鉄だ? まぁ良い。正直、こんな素材滅多に出回らないから、喉から手が出るほど欲しい。
お前がワシを信用し、代価は今度でも良いってんなら、こんなにありがたい話は無い」
僕はこの人なら信用できると思えたし、万が一裏切られても、元々扱いに困っていたものだ。
お互いに良い物が入手できるなら、損とか考えなくても良い気がする。
「はい、大丈夫です。また来ますので、その時に趣味や息抜きで作った物を見せてください」
「は、子供かと思いきや、とんだ大物様だぜ。おうよ、楽しみにしときな。後悔はさせないぜ」
「そう言えば名乗ってませんでしたね。僕の名はユーリオンです」
「ユーリオン? ……どっかで聞いた気がするが、思い出せん。ワシの名はドルガだ」
「ドルガさんですね。これからもよろしくお願いします」
「おう、鍛冶で困った事があれば、いつでも尋ねてこい」
ドルガさんからは鉄を沢山貰った。
これがあれば、錬金術で色々作れそうだ。
ピエリスの買い物も終わり、2人で店を出る。
ピエリスの荷物もストレージにしまっておく。
旅先用の調味料や、日持ちする保存食なども購入すると、母様達の方に向かった。
評価とブクマをお願いします。




