街での買い物
すぐに王城を出て街までやってきたが、まだ昼なのでゆっくりと見れそうだ。
甘未が良いかなと思っているが、具体的に何を用意するかは決まっていない。
街で色々と食材を見ながら、決めようと思う。
「今回、食材を色々と見て回りたいので、うろちょろする事になりますが、よろしくお願いします」
「はい、我々の事は気にせずに、ごゆっくりどうぞ」
「ありがとうございます」
まずは市場の方を見て回る事にする。
店に行った方が安定した品揃えや品質、信用などが置ける点では勝っている。
しかし、市場なら珍しい食材が有ったりするのではと、期待している。
品数の少ない市場を優先し、何も無ければ後から店に行けば良いのだ。
とりあえず甘未なら砂糖やハチミツ、果物類が欲しい。
早速果物を置いている露店を見つけ、店番をしているお婆さんに近づいていく。
「いらっしゃい、坊やお使いかい?」
「こんにちは。 果物が欲しいのですが、見せてもらって良いですか?」
「おやおや挨拶ができて偉いねぇ、こんな所で良ければ、ゆっくり見ていきなさい」
子供好きなのか、とても人の良さそうな笑顔で歓迎される。
置いてあるのは『アップル』『オレンジ』『ベリー系』などだ。
見た目は美味しそうだが、念の為に鑑定してみると、品質も悪くない。
どれくらい使うか決まってないし、余れば皆で食べればいい。
ここは多めに買っておこう。
「坊や、決まったのかい?」
「はい、アップル10個、オレンジ20個、ベリー系は売れるだけ欲しいです」
「そ、そんなに買うのかい? お金もかかるし、その量を持って帰れるのかい?」
「大丈夫です。お金もあるし、親からアイテム袋を借りてきているので」
アイテム袋というのは嘘で、袋に入れるふりをしながら、ストレージにしまう。
「そ、そうかい。なら、全部で小銀貨6枚だよ」
「安いですね」
小銀貨6枚で「6000円」くらいになるが、日本で同じ量を買ったなら1万円近いだろう。
確かにサイズや色はバラバラで、形の悪いものもあるが、それでも安すぎると感じた。
「いっぱい買ってくれたし、少しサービスだ。売れ残ると、持って帰るのも大変だからね」
「ありがとうございます」
「また、来ておくれ」
金があって、量も買う良い客と思われたのか、他の店から声がかかる。
「そこの坊ちゃん、果物ならウチにもあるよ。見て行ってくれ」
「いやいや、うちの方が新鮮で美味しいぞ」
「なら、せっかくなので、両方とも見せて頂きます」
さっきのお店には無かった、レモンやグレープ系も入手できて満足だ。
良い買い物ができて気分が良かったのに、それを邪魔しそうな気配がある。
後をつけてきながら、こちらの様子を窺う男たちが5人いる。
気づいているのか分からないので、念の為、護衛の騎士に伝える。
「後をつけてくる男たちに気づていますか?」
「……ユーリオン様も気づいていたのですか?」
「はい。最初は2人で、護衛に気づいて今は5人です」
「凄いですね、まさか人数まで言い当てるとは」
「後、欲しいのは砂糖だけなのですが、つけられたまま買い物するのも気分が悪い」
子供がお金を沢山使ったり、アイテム袋を所持しているなど、悪目立ちしすぎたか。
しかし、少量の買い物では、何回も来る必要があるので、今回は仕方ないだろう。
「こちらから、仕掛けますか?」
「さすがに、捕まえるほどの罪は犯してませんし、どうしましょうか」
「なら、私が囮になって連中を釣りましょう。襲ってくれば言い逃れはできない」
「狙いは僕では? おそらく裕福な商人の子供と思って狙っているのでしょう」
「なので、連中に見えるようにアイテム袋を私に渡して頂けますか?
それを持った私が、ひと気のない路地裏にでも向かいますので。
護衛が減ればこちらにも来るかもしれませんが、2人居れば十分でしょう」
少し悩む。
まだ尾行をしただけで、罪に問う程でもない。
でも、囮作戦をすればチャンスと思い、罪を犯してしまうのでは?
罪を犯すかもしれない人間に、罪を犯す機会を与える事は正しい事なのだろうか。
いや、これで罪を犯すようなら、ここでなくても、別の場所で機会があれば犯すだろう。
どうか思い止まって欲しいと願いながらも、作戦を実行する。
アイテム袋を持った騎士1人を、3人で追いかけて行くのが気配で分かる。
残った2人はまた監視かと思いきや、新たに2人合流し、4人で仕掛けてきた。
「大人しくついてくるなら、痛い思いをしなくて済むぜ」
「先に言っておくが、お仲間を待っても無駄だぜ。あっちも襲われてるからな」
とても残念な事に、僕の願いは通じなかったようだ。
騎士1人が前に出て、もう1人が護衛として側に残る。
「貴様らの罪は死をもって償え」
「なめやがって! 1人はガキの護衛で離れられない。 4対1で殺してやる!」
斧を持った大男がリーダーなのか、見た目に似合わず、冷静な状況判断だ。
両手にナイフを持った小柄な男と、剣を上段に構えた男が騎士を挟むように左右へと移動する。
斧を持った大男と、少し離れた位置で弓を構えている男の4人で仕掛けようとするが遅い。
騎士は剣を抜くと、一瞬で剣を上段に構えていた男の首を、その両腕ごと切断した。
首を刎ねた男の血を利用し、斧を持った大男の顔に血を浴びせ、その視界を奪う。
ナイフを持った男が俊敏性を活かして襲うが、技量がまるで足りていない。
騎士は剣で心臓を一突きし、殺す。
離れた位置から矢が放たれたが、たった今殺した小柄な男を盾にして防ぐ。
あっという間に2人の賊が殺された。
「て、てめぇ!」
顔の血を拭って視界を取り戻せば、仲間の2人が既に死んでいたのだ。
大男は見た目通りに力が強く、斧を軽々と振り回し、暴れる。
だが、めちゃくちゃな動きのせいで、弓使いが上手く狙えずにいる。
大男が斧を振り上げたタイミングで剣を一閃すると、大男の両腕が切断されて血が噴き出る。
状況の不利を悟り、弓使いが逃げようとするが、囮から戻ってきた騎士が首を刎ねる。
大男が何か言おうとしたが、言葉になる前に首を刎ねられて、戦闘は終了した。
「ユーリオン様、こちらお借りしていたアイテム袋です」
「3人向かいましたが、その様子では無傷のようですね」
「はい、あの程度の連中など、向かってくるなら1人でも十分です」
「そうですね。ただ1人では、逃げる者まで対処できないので、戦力を分けました」
「片付ける必要があるので、ここは何もしていない私が、警備兵に知らせに向かいます」
「いや、汚れていない君がそのまま護衛をしてくれ」
「ああ。私たちは血で汚れてしまったので、エルフのユーリオン様では臭いが気になるだろう」
「連絡して身綺麗になったら合流するから、ユーリオン様の事頼んだぞ」
「分かっているさ。念の為、2人が合流するまでは、あまり動き回るつもりはない」
さすが王城を守護する第一騎士団であり、セバスチャンにも信頼される者達だった。
もちろん実力も凄かったが、護衛対象がエルフである事に対する気遣いも素晴らしい。
実際、我慢できない程ではないが、返り血の臭いは気になっていた。
僕は戦ってくれた騎士2人と一旦別れる。
「砂糖を売っている店でしたら、心当たりがあります。
妻が茶葉を買う時、よく利用する店を知っていますので、そこにご案内致します」
「はい、よろしくお願いします」
案内された店は清潔で、複数のお姉さんが商品の説明をしたりしていた。
茶葉だけでなく、調味料なども置いてあり、日持ちのする商品を主に扱っているようだ。
「本日は何をお求めでしょうか?」
「砂糖やハチミツが欲しいのですが」
「どちらも高級品で、お値段の方がしますが、大丈夫でしょうか?
砂糖はそれなりにありますが、今はハチミツの在庫が少なく、値段が上がっています」
「お金は大丈夫です。商品の確認と、量に対する値段を教えてもらえますか」
「かしこまりました。準備いたしますので、少々お待ちください」
僕のような子供にも、子ども扱いせず、客として丁寧に対応してくれる。
店主の方針なのか、教育が行き届いている良い店だと思う。
「お待たせいたしました。別室へと、ご案内させていただきます」
「こちらが当店で扱っている、砂糖とハチミツになります」
高級品だからか、別室での対応となり、担当者も別のお姉さんに代わる。
紹介された商品は、片手に乗るような小さな壺に入っていた。
「確認させていただきます」
鑑定すると、どちらも品質は並なので、商品に問題は無い。
高級品という話だし、後は量に対する値段だ。
「砂糖の方はこの壺1つで小銀貨5枚、ハチミツはこの壺1つで銀貨1枚となります」
「失礼を承知で確認させて頂きます。この壺は底を高くしてたりはしないですよね」
「フフフ、大変失礼いたしました。見た目は幼いのに、1流の商人のような事をおっしゃるので。
ご安心ください。底上げや、壁を厚くしていない普通の壺です」
壺に加工がされていない事は信じるとしても、やはり値段が高い。
この小さな壺では、100g~130g程度しか入っていないだろう。
砂糖は日本なら1㎏で300~500円くらいだが、ここでは100gで5000円になる。
ハチミツの方は値段が上がっているとは言っていたが、100gで1万円だ。
40階層を攻略した時のお金があるので余裕はあるが、日本人の感覚的に買いづらい。
「砂糖やハチミツを扱っている店は他にもあります。
ですが、値段はあまり変わらないと思いますよ」
僕の表情から察したのか、質問される前に答えを教えてくれる。
「騙して買わせようとしない貴女の言葉を信じます。ここで買わせてください」
「ありがとうございます。どれくらい用意しましょうか」
「値段の上がらないギリギリまで売ってもらえると嬉しいです」
「フフフ。商売というものを本当に良く分かってらっしゃる。
親御さんは、子供の教育も1流な商人なんでしょうね」
「いえ、僕の両親は商人ではありません」
「あら、そうなのですか。私はてっきり……いえ、詮索するのはマナー違反ですね。
では、砂糖を10壺、ハチミツは初回サービスという事で、3壺用意させて頂きます」
お姉さん達が壺を持ってきてくれる。
何故か男性を見かけないし、ここは女性ばかり働いているのだろうか。
「注文の品をご用意しましたので、お会計の方をお願いいたします」
「商品の確認をさせて頂いても、よろしいでしょうか?」
「ええ、もちろん構いませんよ。全て同じ壺ですが、ご自由にどうぞ」
失礼な事かもしれないが、念の為、中身を見るふりをし、全て鑑定させてもらう。
砂糖の壺が2つ、ハチミツの壺が1つ、品質が「並」ではなく「低」だった。
「この3つの品質が他に比べ、悪いように見受けられるのですが?」
「フフフ、本当に素晴らしい! 支払いの前に全ての商品を確認する警戒心。
そして悪質な商品を見抜く観察眼もしくは嗅覚! あぁ、私は貴方が欲しい!」
先程までは、仕事のできるクールな女性というイメージだった。
なのに、今は興奮していて、ちょっと怖い。
「……やっぱり、わざと品質が悪い物を混ぜましたね?」
「はい、貴方を試させて頂きました。結果は満点で合格です」
「商人風情がふざけるなよ! 悪質な商品で、このお方を試すなど、何様のつもりだ!?」
僕はあまり気にして無かったが、護衛の騎士が剣に手をかざして、怒ってしまった。
この店を紹介したのは自分だし、顔に泥を塗られた気持ちなのだろう。
「止めてください。僕がどこの誰であろうと、ここには商品を求める1人の客として来ています。
それにおそらく、僕が指摘しなかったとしても、質の悪い商品は交換してくれた気がします」
「あら、そこにも気づいてらしたのですね。もちろん指摘されなくても、交換するつもりでした。
気づかなければ交換して終わり。もし気づいたのならと、プレゼントを用意しておりました」
「プレゼントですか?」
「はい、高品質なハチミツを1つ用意してました。こちらをどうぞ」
鑑定すると確かに他とは違い、品質が「高」となっている。
「良いんですか? 貴重なハチミツ、それも高品質な物を無料で渡してしまって」
「構いませんよ。貴方とは長い付き合いになりそうな予感がするんです。
この金銭では得られない、貴重な縁を繋ぐ為なら安い物ですよ」
「でも、僕を試しましたよね?」
「それはもちろん。これからも縁を繋ぐ価値があるのか、確かめる必要はありますからね」
お詫びの品という面もあるのだろうが、本当に縁を繋ぎたいのだろう。
彼女からは悪意を感じないし、良い物を求める、まさに商人といった感じだ。
「わかりました。無料より怖い物はありませんが、ありがたく頂戴しておきます」
「……真面目な話、商人になる気はありませんか? 貴方になら、いずれ店を任せられます」
「僕にも夢がありますので。それは、遠慮しておきます」
「やっぱり駄目でしたか。そんな気はしたのですが、聞かずにはいられませんでした」
「僕もこの縁は続く気がしてきました。僕の名前はユーリオンです。今後もよろしくお願いします」
「ユーリオン様ですね、私はフライアと申します。気が変わったら、いつでも声をかけてください」
僕は支払いを済ませて商品を受け取ると、店の外に出る。
外では別行動になっていた騎士2人が待っていてくれた。
「ユーリオン様、私の案内した店でご不快な思いをさせてしまい、本当に申し訳ございません」
「それは違います。貴方が案内してくれた店のおかげで、欲しい商品が手に入りました。
それにちょっと変わってましたが、商人と縁ができたのも貴方のおかげです」
「何かあったんですか?」
「はい、良い店を紹介してもらえたなと」
「夕方になってきましたが、他に必要なものはありますか?」
「いえ、必要なものは手に入りました」
「では屋敷まで送ります」
「はい、お願いします」
屋敷まで送ってもらった後、3人は王城へと戻っていった。
今度、あの3人にも何かお礼を考えておこう。
母様も戻っているようで、すぐに夕飯になる。
聖女様へのお礼はシンプルにする事にした。
お礼をして終わりではなく、今後も長い付き合いとなるのだ。
今回は無難な物を用意して、聖女様と話した時に何が好きかを聞いて、次回用意すればいい。




