エレナの不安と聖女様について知る
side:ユーリオン
目が覚めて周りの様子を窺うと、見慣れた自分の部屋である事に安心する。
窓から外を見ると、太陽の位置的に朝から昼の間くらいだろうか。
昨日は色々と事情説明をした後は、簡単な食事を取って、すぐに寝てしまった。
普段は身体を奇麗にしてからじゃないと、気になって落ち着かないのだが、
やはり疲労が溜まっていたのだろう、倒れるように寝ていたようだ。
着替えをしていると、ノックも無く部屋の扉が静かに開かれ、エレナが顔を出す。
「あ、ユーリオン様。 お目覚めでしたか」
最初は、幼い女の子とメイド服の組み合わせに違和感を感じていたが、今では見慣れてきた。
ノックが無かったのは、寝ているようなら起こさないようにと、気遣ってくれたようだ。
「うん、さっき目が覚めたばっかりだけど」
「食欲はありますか?」
「そうだね、たくさん寝たからお腹空いちゃったかも」
「なら、直ぐに準備しますね♪」
「今日のメニューは何かな?」
「新鮮なお魚と子羊のお肉をガーリックやニラ、パクチーなどと一緒に煮込んだスープですよ♪」
「いや、それエルフにとって食事じゃなくて拷問だよ!?」
「冗談です♪」
冗談と言いつつも、目が笑ってなかった。
何か怒らせるような事をしただろうか。
エレナが食事の用意をすると部屋から出ると、入れ違うようにニクスが窓から入ってくる。
「部屋にいないと思ったら、外にいたんだね」
「先に起きてたから、朝のお散歩よ」
歩く事を散歩と言うのに、鳥が散歩と言うのには違和感を覚える。
だが、言いたい事は分かるし、まあいいか。
「エレナの様子が若干変なんだけど、なにか分かる?」
「女の子はね、理性より感情を優先してしまう生き物なの。
そして、それを受け止められるのが良い男の条件の1つよ」
良い事を言っている風だが、答えにはなってなかった。
「……分からないんだね」
「そりゃそうよ。だって朝から外に行ってたんだもの」
「朝は僕もずっと寝てたし、昨日何かしちゃったかなぁ?」
「まぁ心当たりはあるけど、こういうのは自分で気づかなきゃ駄目よ」
考えていたが、お腹が鳴ってしまったので先に食事にしようと、ダイニングへと向かう。
厨房の方を覗くと、エレナが鍋の中をお玉でまわしていた。
なぜか、スープの匂いが全くしなかったので違和感を覚え、エレナに近づいていく。
僕の気配に気づいたのか、こちらを見ないまま声をかけられる。
「もう、ユーリオン様ったら、厨房に入っちゃだめですよ。 待ちきれなかったんですか?」
「う、うんごめん。 何のスープかなって気になっちゃって」
「もうすぐ、できますから、大人しく待っててくださいね」
「ひっ!?」
スープの匂いがしないのも当然だ。
火も着けてない鍋の中身は水だけで、具材など入っていない。
エレナはそれを虚ろな眼差しで、ゆっくりとかき混ぜていたのだ。
「え、エレナ大丈夫? 何かあったの?」
「どうしたんですか急に? 心配してくれるのは嬉しいですけど」
体調が悪そうにも見えないし、何をどうしたら良いのか、まるで分からない。
「あれ、なんでユーリオン様が厨房にいるんですか?」
アイリスがやってきた。
今の僕には、彼女が救世主のように見える。
僕はアイリスの手を引いて、一旦厨房から離れる。
「エレナの様子が変なんだけど、何か知ってる?」
「……あぁ、たぶんユーリオン様の婚約の件じゃないですか」
「……それかぁ」
「実際に結婚となると、だいぶ先の話ですけどね。
昨日の今日では、感情をうまく処理できず、色々考えてしまうのは仕方ないですよ。
あの年にしては大人びていても、まだまだ子供ですから」
「アイリス、とりあえず今日は、エレナの側でフォローしてあげて」
「わかりました。可愛い妹分であり、弟子ですからね」
一応、拷問じみたスープの話や、水の入った鍋をかき混ぜている話をしておく。
「え、こわ」
「いや、こわって」
「フォローはしますけど、限度はありますからね。刺されないように気をつけてくださいよ」
「怖い事言わないでよ……なんで、この年で刺されるような心配をしなければならないのか」
「今は良いですけど、あんまり優しくしすぎるのも酷ですよ」
エレナの気持ちは分かっているし、アイリスの言いたい事も分かっている。
それでも、この世界でエレナに優しくできる者はあまりにも少ないのだ。
気持ちには答えられないかもしれないけど、側にいる限りはできるだけの事はしてあげたい。
アイリスがエレナのフォローに入った事で、少し遅れたけど食事は済ませた。
部屋に戻ると、今日の予定を考える。
最優先は聖女様へのお礼を用意する事だろう。
そういえばドタバタしていて、名前も聞いてなかった事を思い出す。
なぜか目隠しもしていたし、僕は聖女である彼女の事を知らなすぎる。
これでは何を贈ったら喜ばれるのか、まるで分からない。
本人と話すのが1番だが、父が場を用意すると言っているのに、先に話すのも良くない。
となると、教会で彼女の話を聞くのは、顔を合わせる可能性が高いので駄目だろう。
婚約者となる彼女の事は国でも調べているだろうし、浅い部分だけ聞く事にしよう。
王城へ行くのに許可が必要な為、母様の元へ向かう。
ノックしようとしたタイミングで扉が開く。
普段着ているものより、少し豪華なドレスを着た母様が出てくる。
「あら、どうしたの?」
「どこかにお出かけですか?」
「ええ、貴方の婚約の件で王城に呼ばれているのよ」
「ちょうど良かった。僕もついて行って良いですか?」
「……良いけど、ゆっくり休んでなくて大丈夫?」
「問題ありません。それに聖女様について話を聞きたかったので」
「なら、一緒に行きましょうか」
「はい」
馬車で移動中に母様に質問してみる。
「母様は、聖女様について何か知っていますか?」
「……今の聖女様についてなら、少し分かるけど、次代の聖女様については分からないわ」
「そうですか」
「……やっぱり自分の婚約者の事は気になる?」
「いえ、そういう意味で知りたいのではなく、お礼がしたいので、何が好きかとか分かればと」
「そう」
王城へ着くと、それほど待たされる事は無く、何度か来ている王の部屋に案内される。
今回の婚約の件で、母様は話をしに来たわけだが、これは夫婦の話し合いではない。
グランファーレル王国の国王と、フォレスティア森聖国の王女という立場の話し合いとなる。
僕は5歳になった今でも、「ユーリオン」としか名乗れない。
「ユーリオン・フォン・グランファーレル」でも「ユーリオン・フォレスティア」でもない。
僕はステータスにも表示されている通り、間違いなく2人の間にできた子だ。
本来なら嫁入りしてできた子なので、「ユーリオン・フォン・グランファーレル」となる。
しかし、「ハーフエルフ」でエルフ寄りな僕を『グランファーレル』にするかが問題となった。
正式な国王の子で、王位継承権もあるが、グランファーレル王国はヒューマンの国だ。
長命な僕に『グランファーレル』の名を与えると、後々問題が起きないか危険視されている。
なら、『フォレスティア』にすればいいと思うが、これは単純な問題では無いようだ。
でも、5歳になっても家名を名乗れない方が対外的にも問題ではないだろうか。
とまぁ、僕の立ち位置は微妙なのだが、今回婚約が急遽決まった。
断る事のできない縁談ではあるが、アメリアに話を通す前に決めた事が問題となる。
僕がグランファーレル側の子として扱われているなら良いのだろうが、現状そうではない。
家名が無くても困ってはいないが、これを機にはっきりとさせてほしい。
部屋にはユリウスとアメリア、僕とセバスチャンの4人がいる。
2人の話は長引くだろうし、少し離れて、セバスチャンから聖女様の話を聞いておこう。
「セバスチャン、聞きたい事があるのですが」
「はい、なんでしょうか?」
「僕の婚約者となる聖女様について、知って問題にならない範囲で、教えてもらえますか?」
「知っている事、全てではなくですか?」
「話す前に自分の事を調べられていると、気分が悪いと思いますので」
「……なるほど。では、一般的に知られている程度で」
「はい、それでお願いします」
「名前はマリア、教会で育っているので家名は無く、生まれつき目が見えないそうです」
……リボンで目隠ししていたのは、それが理由だろうか?
う~ん、でも目が見えないと言っても、目を隠す必要は無いのでは?
「次代の聖女様として公表はされているものの、まだ表舞台に立っては、いないようです」
「先日助けて頂いたお礼に、何か贈り物をしたいのですが、好みとか分かりますか?」
「あまり表に出ないので、好みとなると、近しい立場の者でなければ、分かりませんね」
「……そうですか」
「これはあくまでも、私個人の考えなのですが、お聞きになりますか?」
「お願いします」
「おそらく一般的に女性が喜ぶ『アクセサリー』『ドレス』『宝石』『花』は控えるべきかと」
「見て楽しむ事ができないからですか?」
「そうです。目で楽しむ物は外した方がよろしいかと」
「一般的な贈り物のほとんどが駄目ですね」
「形には残りませんが、記憶に残るので、詩を贈るというのも女性は喜ばれるかと」
「……詩のセンスには、自信がありませんね」
「ユーリオン様が自分の為に一生懸命悩んで考えた物なら、きっと喜んでくださいますよ」
「そうですね、今回は無難に甘未か何かで考えてみます」
「はい、変に奇をてらう必要は無いかと。聖女様との会談は3日後を予定しております」
「色々とありがとうございました」
母様の方はまだ時間がかかりそうだし、街の方で買い物がしたい。
話を中断させるのも申し訳ないので、2人が一息ついたタイミングで用件を伝える。
「……街へ行くなら、護衛がいないと駄目よ」
「セバスチャン、信用できる者を2、3人連れてきてくれ」
「かしこまりました」
立場上仕方ないが、自由に買い物ができないのが不便だ。
「先に帰るなら今しかないか。ユーリオン、お前を襲った騎士達の処遇を聞くか?
聞いて面白い話では無いし、聞かなくても良いんだぞ」
「自分が関わった話ですから、聞かせてもらいます」
「そうか。直接襲った5人は昨日の内に処刑し、そして襲撃犯9人の近親者3親等までは奴隷となった」
「……わかりました」
正直、実行犯は許せない気持ちが強く、戦った時も殺す気は無くても死んでも構わないと思った。
でも、罪を犯したわけでもない近親者まで罰を受けるのは、やりすぎに思えてしまう。
「……お前が罪の意識を感じる必要は無いのだぞ」
「分かってはいるのですが……」
「やはり、聞かせるべきでは、なかったかもしれんな」
「いえ、知らないのではなく、知ろうとしないのは罪です」
「お前は真面目過ぎるな。気にするなとは言わんが、気にしすぎるなよ」
「わかりました」
今回護衛してくれる騎士達が来たので、この話はここまでだ。
「この者たちは第一騎士団で王城の警備をしている。身元も保証されているから安心しなさい」
「我ら、身命を賭して御身をお守りさせて頂きます」
「街で買い物をするだけですが、よろしくお願いします」
もの凄い気合いの入れようだったので、セバスチャンに理由を聞いてみる。
別の部隊とはいえ、騎士団の者から犯罪者を出した事で、全体の立場が悪くなっているらしい。




