マリア/ユリウス/アメリア/アリアノール
side:マリア
これは、ユーリオン達がダンジョンへと潜る少し前の話
私の名前はマリア。
赤ん坊の頃に、教会の前に捨てられていたそうです。
顔も知らない両親を怨んでいるかと聞かれれば、いいえと答えます。
どんな事情があったのか分かりませんが、生んでくれた事を感謝こそすれ、怨んでなどいません。
そんな名前も無かった私に名前をくれたのは、今代の聖女様であるオリビア様でした。
私は光栄にも次代の聖女として選ばれたので、沢山の事を学ばなければいけません。
しかし、私は生まれつき目が見えませんでした。
本を読めば学べる事も、私は他の誰かの助けがなければ、学ぶ事もできません。
聖女としての勉強どころか、日常生活も、常に誰かの助けを必要としています。
料理や掃除、洗濯も人任せなので、いつも大変心苦しく感じています。
月神様の考えを疑うつもりはありませんが、どうして私なのだろうとは思ってしまいます。
誰かの為にあるべき「聖女」が、逆に誰かの助けを必要とするなど、本末転倒です。
オリビア様は聖女様として忙しい方ですが、よく私の為に時間を取ってくれます。
私の周りには優しい方ばかりですが、オリビア様は特に優しくしてくれます。
畏れ多い事ですが、私に姉だと思って接しなさいと言ってくれました。
私は1度オリビア様に、どうして私が次代の聖女なのか、聞いてみた事があります。
「どうしてか」を考えるのではなく、「だから」と言えるようになりなさいと言われました。
私には少し難しかったのですが、月神様の考えに間違いはありません。
なら、いつの日か「だから私が聖女なんです」と言えるように頑張ろうと思いました。
まだ5歳の私ですが、オリビア様と聖堂で祈りを捧げている最中に初めての神託がありました。
月神様の声は慈愛に満ちた優しい声で、記憶はありませんが母のようにも感じられました。
聖女である以上、感動するだけでなく、一言一句聞き逃さないようにしなければなりません。
神の言葉を代わりに伝えるのも大事な役目なのですから。
「オリビア、マリア聞こえていますね。グランファーレル王国の第3王子ユーリオンが
近いうちにダンジョンへと潜ります。危険な目に遭いますが、もしも彼が生きて帰還し、
マリアが彼を気に入るようなら婚姻を許しますので、今後はお互いに支えあいなさい」
私は初めての神託なので疑問を持つ事も無かったのですが、
聖女の婚姻相手についての神託は初めての事だったそうです。
ルナマリア神聖国にとって神託はどんな行事よりも優先されます。
それから神託の内容が教皇様まで伝わり、慌ただしくなりました。
王族との婚約ともなると、簡単にはいかず、大変だそうです。
と言っても私自身は特別な事をする事は無く、出発まではいつも通りに過ごします。
どうして12歳のオリビア様ではなく、私の婚姻相手を先に決めたのか分かりません。
聞いた話では、ユーリオン様も私と同じ5歳だそうですが、年が近いからでしょうか。
「聖女」は子へと引き継ぐものでは無い為、自由恋愛が認められています。
それでも、ほぼ全ての聖女が神に選ばれた者としての自覚が強く、独身を貫きます。
私自身も生涯独身で、この身を神に捧げると思っていました。
それに私のように目も見えない女なんて、欲しがる方がいるとは思えません。
既に周囲は私とユーリオン様が婚約する事を前提に動いています。
月神様の意思ですので、ユーリオン様にも認めてもらいたいです。
しかし、次代の「聖女」である事を除けば何もない私では、難しいのではないかと思います。
今の私には気に入ってもらえるように祈る事しかできないのでした。
私にとって、初めてになる旅は特に問題も起きず、無事に終わりました。
目が見えれば景色などを楽しめたのかもしれませんが、残念ながら不便を感じるだけでした。
グランファーレル王国の王都にある教会で、ユーリオン様の帰還を待つ事になります。
無事に帰還できない可能性もあるとの事ですが、私はきっと大丈夫だと思っています。
予定より少し遅れたようですが、教会へとユーリオン様がやって来ました。
帰還後、すぐに教会へ来られるなんて、これは運命を感じずにはいられませんね。
どうやら、ユーリオン様のお仲間が怪我をなさっているみたいです。
私はユーリオン様のお役に立てるようにと、その方を治療させて頂きました。
見えなくても、状態が酷い事は分かります。
ユーリオン様の前という事もあり、少し緊張しましたが、結果に納得してもらえました。
殿方へのアピールどころか、接し方もよく分かりません。
結婚するなら旦那様かとお呼びしたのですが、声から判断するに困惑させてしまいました。
今回の婚約で一番重要な、月神様の意思である事を伝えても、納得できていないようです。
それに、ユーリオン様は帰還直後で色々とお忙しいようでした。
ここで無理に話を進めるのが良くない事は私でも分かります。
後ほど時間を取ると約束してくれましたので、その時にゆっくりと話してみたいです。
私には声と雰囲気しか分かりませんでしたが、優しそうな印象を受けました。
私と年齢が近く、世話をしてくれる娘達はカッコ良かったと言っています。
目の見えない私には、容姿の良し悪しが全く分かりませんが、一般的には重要だそうです。
2人ならお似合いですと言って貰えると、不思議な嬉しさと、気恥ずかしさを感じるのでした。
月神は、グランファーレル王国に行けとも、マリアに結婚しろとも言っていない。
結婚して家庭を作り、子を育てる事だけが幸せだとは考えていないが、
聖女に選んだ者が生涯独身を貫くのが主流というのも、前々から問題ではないかと思っていた。
確かに無理に関係を迫った者には厳しい罰を与えた。
しかし、とくに推奨もしないが、恋愛を禁止した覚えも無いのだ。
神託は行ったが、本当に強制するつもりも推奨するつもりも無かった。
次代の「聖女」であるマリアに相応しい者を見つけたので、
今後の聖女の意識に変化があれば良いなと、試してみたのだ。
しかし、信じる神から神託で「婚約を許す」などと言われてしまえば、
それは、信者達からすれば「婚約しろ」と命じられたのと同義である。
今回の1件で、聖女の恋愛に関して、神託をする前例を作ってしまった。
今後の聖女達の一部が、自分の相手に関する神託を求めてしまうのは仕方のない話だ。
side:国王ユリウス
セバスチャンにアリアを呼びに行かせ、1人になった部屋で考える。
ユーリオンとの話がついて、何とか大事にならずに済んだ。
いや、それは違うか。
既に大事になっている事を、今回は許してもらったのだ。
話し合いの中、ユーリオンから、子供とは思えない程の威圧感を感じた。
本当に次は無いのだ。
私がアリアを抑えなければならない。
正直、アリアがここまで愚かな真似をするとは考えていなかった。
私の父である前王は、父である前に王であろうとする人だった。
彼は善き王ではあったが、私にとっては善い父ではなかった。
むろん私とて王の立場は理解している。
それでも、少しくらいは家族を大事にしてほしかったのだ。
だから、妻の嫉妬も我が儘も許す事で、私は家庭を大事にしていた。
許す事が愛情の示し方だと思っていたのだが、その結果が今回の事件を招いた。
我が国は、幸いにも平和を維持できている。
だが、今回の件はアメリア次第ではエルフの国である「フォレスティア森聖国」と
戦争になっていた可能性もあるのだ。
扉をノックする音が聞こえてきたので、思考を中断する。
セバスチャンには外で見張りを頼み、アリアと2人きりになる。
「アリア、大事な話がある」
「……!」
「ユーリオンと話して、君の事を1度だけ許してもらえる事になった」
「な!? わ、私の何をあんな子に許して貰う必要があると言うのですか!?」
「アリア! 私もユーリオンも全て分かった上で言っているのだ。
それとも、真実を明らかにする方が良かったのかい?」
「………」
アリアは当然ながら、何も言い返せなくなる。
「君が…いや、私たちが許して貰えるのはこれで最後だ。次は無いと理解しなさい」
「あんな子の許しなど必要ありません!」
「君は『あんな子』と言うが、私の子だと、理解して言っているのかい?」
「貴方の子は、私の子だけです!」
できれば口にせず、冷静に話し合いたかったが、そうはいかないようだ。
「次にもし君が、ユーリオンやアメリア達に何かするようならば、君を王妃の座から降ろす」
「な!? ……私への愛は、薄れてしまったとでも言うのですか…」
「私はね、こんな事をしでかした君でも、愛しているんだ」
「だったら……なぜですか?」
「私は今まで許す事が愛情だと思っていた。だが、それは大きな間違いだった。
間違いを犯したならば、罪を自覚させ、二度と繰り返さないように寄り添うのが愛情なんだ」
もう、自分の罪から目を逸らす事はできない。
深く考えず、許し続けた事が私の罪だ。
だが、まだやり直せるのだ。
「……わ、私はただ、私だけを愛して……私の子だけを見て…ほしくて」
「君の独占欲と嫉妬癖が簡単に治るとは思っていない。そんな所も愛しているしね。
でも、どうか私に、君を私の側から離れさせるような真似はさせないでくれないか」
「………」
少しは事態を理解したようだが、まだ納得はできていないようだ。
「なら、今度は夫ではなく、国王として政治的な話をしようか」
「……そうです! 私を王妃の座から降ろせば、カイザル帝国が黙っていませんよ」
「そうなるだろうが、それはフォレスティア森聖国と協力するなり、何とかできるさ。
だが、フォレスティア森聖国と戦争になれば、グランファーレル王国は最悪消える」
「そんな事にはなりません。カイザル帝国と協力して、エルフなんて滅ぼしてしまえばいい」
「フォレスティア森聖国に領土的野心は無いが、カイザル帝国は違う。
戦争でグランファーレル王国が疲弊すれば、迷わずに狙ってくる」
「そ、そんな事!」
「無いと言い切れないのだろう?」
「………」
我が国は、4つの国の中心とも言える位置にある。
教会とエルフに領土的野心は無いだろうが、帝国と獣王国は違う。
「君は感情的だが、頭の悪い人間では無かった。自分の行いが何を齎すのか、よく考えなさい。
それとも君は、私の事など愛しておらず、本当の目的はこの国を亡ぼす事だったのかい?」
「ち、違います! 私は貴方を誰よりも愛しています!」
「なら、私に君を信じさせてほしい」
「……わかりました」
渋々ではあるが、納得はさせられた。
完全に信用するわけにはいかないが、しばらくは様子を見よう。
「正直に言ってしまえば、ユーリオンは私の子で1番優秀ではある」
「……!」
「だが、あの子は王になる気は無いし、王にするつもりも無い」
「今はそうでも、将来的には分からないではありませんか」
「あの子は執事になりたいそうだ」
「………は? 意味が分かりませんわ」
「君が色眼鏡で見ているだけで、あの子は変わっているが、優秀で良い子だよ」
「………」
アリアが怪訝な顔になる。
私自身、なぜ執事なのか分かっていないので、気持ちは分かる。
「それにルナマリア神聖国から縁談が来てる。次代の聖女様とユーリオンのだ」
「な、なぜ聖女様が!?」
「月神様からの神託があったらしい。教皇直々の手紙も使者から受け取った。
神の意思である以上この縁談は断れないし、両国にとって悪い話でもない。
そして聖女様の婚約者となるユーリオンに何かあれば、ルナマリア神聖国も黙っていない。
神の意思を邪魔したとして、聖戦を仕掛けられる可能性だってある」
「………!」
アリアの顔色が悪くなる。
自分の行動の結果の先が、どうなっていたか理解したようだ。
「今更アメリアと仲良くしろとは言わないし、ユーリオンを愛せとも言わない。
自分の中で折り合いがつけれないなら、関わらないようにしなさい」
「……わかりました」
こうしてユリウスとアリアノールの話し合いは、アリアノールが納得する形で終わった。
ユリウスもアリアノールを説得できた事で、ひとまず安心した。
アリアノールも状況を理解したので、今後は軽率な真似をしないだろう。
だが、全ての者が納得し、許したわけでない事をアリアノールはすぐに知る事になる。
side:アメリア
ユーリオン達が予定通りに帰ってこなかった。
やはり、何かあったのかと心配になる。
私はアイリスを連れてダンジョンへ向かおうとしたが、邪魔が入る。
まだ、1日帰還が遅れているだけであり、伝統を邪魔する事はできないと言われる。
アリアノールのの差し金だろうが、伝統と言われれば、どうしても私の立場が邪魔になる。
立場なんか気にせず、ダンジョンへと向かいたいが、ただ遅れていた場合に問題になる。
明日の昼まで待ち、それで戻らなければ私は1人の母として、問題になろうが向かう事にする。
夜も心配で眠れなかったが、もしもの時にはダンジョンへと向かう必要がある。
体調不良で救援に向かうのは危険な為、睡眠の魔法で無理矢理に眠った。
朝になっても、残念ながらユーリオン達は帰還していなかった。
アイリスにダンジョンへと向かう準備をしてもらう。
エレナも一緒に行きたがったが、厳しいけど、足手纏いになるからと遠慮してもらう。
昼くらいになると、ユーリオンと一緒に行っていたニクスが帰ってきた。
出発は一旦見送り、ニクスを部屋へと連れていき、私とニクスだけになる。
ニクスがフェニックスである事は、私とユーリオンしか知らないので、念の為である。
「ユーリオン達は無事なの?」
「ピィー!」
ニクスは賢く、人の言葉が分かるので、うなずく事で肯定してくれる。
ひとまず2人が無事な事が分かったので、安心できた。
「……良かった。でも、どうしてニクスだけ先に……何かあったの?」
「ピィー!」
また、うなずく事で肯定する。
「私たちの助けは必要?」
今度はすぐには返事せず、少し考えてから、首を横に振る。
「……何かはあったけど、助けは不要なのね。なら、ここで待ってて良いのね?」
「ピィー!」
ここはニクスを信じて待つ事にしましょう。
ニクスとのやり取りを伝える事で、アイリスとエレナも安心させてあげるのだった。
夕方くらいになって、ようやく馬車の音が聞こえてくる。
アイリスとエレナも気づいたようで、3人で玄関で迎える。
ニクスから無事は伝えられていたけど、やはり姿を見る事で本当に安心できた気がする。
ユーリオンは怪我も無く元気そうに見えたが、ピエリスの方は疲労が酷そうだ。
2人を休ませてあげたいのだが、話を聞かないわけにもいかない。
ユーリオンはエレナに任せて、私とアイリスはピエリスの方から事情を聞く。
何か嫌がらせはしてくるだろうと警戒はしてたけど、まさか命まで狙ってくるだなんて。
ここまで怒りを感じたのは、生まれて初めての事だった。
この国の事も、王アリアノールの事もどうでもいいと、放置してたのがいけなかった。
私はアイリスだけを連れて、王城へと静かに向かった。
side:アリアノール
私はユリウスとの話を終え、お風呂で気分転換をしてから自室へと戻った。
部屋の扉を閉めると、風が入ってきたのを感じ、掃除した者が閉め忘れたのかと窓へと向かう。
「こんばんは」
「!?」
部屋に人がいると思っていなかったので、悲鳴が出そうになるほど驚いてしまう。
そこにいたのは、女の私から見ても、見惚れてしまう程美しいエルフのアメリアだった。
「……どうして貴女がここに?」
「心当たりが無いだなんて言わないわよね」
本当に忌々しい程に美しい。
ヒューマンの私はこれから先、時間が経つ程老いて、そして醜くなっていく。
なのに、エルフであるこの女は、これから先も美しさを保ち続けるのだ。
種族が違うというだけで、同じ女だというのに、こんな事が許せるだろうか。
「……さぁ、何のことか分からないわ。悪いけど疲れているのよ。お引き取り願えるかしら」
誰から何を聞いたのか知らないが、話はもう着いている。
ユリウスにああまで言われれば、今後はもう関わるつもりは無い。
今更、アメリアと話す事など何もない。
「……そう、それが貴女の答えなのね」
「……早く部屋から出て行ってもらえるかしら」
「ええ、そうするわ。次は貴方の子供の首を手土産に来ましょう」
「な!? 何を……言っているの?」
言葉は猟奇的なのに、表情を変えず、美しいまま言うのが不気味だった。
「貴女が始めた戦争よ? 勝手に始めて、勝手に終われるだなんて思わないで」
「そ、そんな事許されないわ」
「誰の許しも必要ないわ。貴女はただ、自分のしでかした事を悔いるだけでいい」
「……もう話は着いて、今回の件は終わっているのよ!?」
「どこの誰と誰の間で話が終わっていようと、私と貴女の話は終わってない。
この国も、ユリウス陛下も貴女の好きにすればいいし、興味も無い。
でも、ユーリオンの事だけは駄目。あの子に手を出すのだけは許さない」
ここにきて私はようやく気付く。
城から追い出そうが、権力から遠ざけようが、アメリアは表情1つ変えなかった。
そんな女が、子供が襲われた事で、初めて本気で怒っている。
彼女は我慢強かったのではない。
本当に大事なもの以外どうでも良かっただけなのだと。
「安心して。貴女には4人も子供がいるのだもの。4回も絶望させてあげられるわ」
「な、下の子は生まれたばかりなのよ!?」
「なら、5歳になれば殺しても良かったのかしら?」
「……貴女、おかしいわ」
「子供を殺されかけた母が、どうして正常でいられるというの」
「あ、貴女の子は無事に帰ってきたじゃない!?」
「それは結果論よ。貴女も子供を殺されてみれば、私の気持ちが理解できるはずよ」
アリアノールはアメリアと同じく、子を持つ母でありながら、分かっていなかった。
母親にとって、愛する我が子を傷つけられる事がどれほど苦痛に感じられるのか。
愚かなアリアノールはアメリアの逆鱗に触れてしまったのだ。
「い、イヤァー! だ、誰か来て!!」
「……誰も来ないし、好きなだけ叫ぶといいわ」
「ひっ」
「ユリウス陛下と貴女が愛した子供は皆消えるわ。
貴女が陛下を愛していたという事実は無くなり、空虚となる」
「……さい……ごめ……」
「……なに? よく聞こえないわ」
「ごめんなさい、二度とこんな事をしないと誓います。だ、だからどうか許してください」
「……今更、貴女の言葉なんて、信じられるはずもないでしょう?」
私は恥も外聞もなく、床に膝をつけ、頭も擦りつけるほど下げて謝罪する。
今、私の頭の中にあるのは、自身の事なんかより、子供たちの安否の事だけだ。
彼女は本気で後の事など考えず、私がしたように子を殺そうとしている。
蝶よ花よと大切に育てられ、欲しい物は全て手に入れたし、気に入らない者は遠ざけてきた。
生まれて初めて、本気の怒りをぶつけられ、自分がどれほど愚かな真似をしたのか理解する。
戦う事の出来ない私では、彼女の慈悲にすがり、許しを請うしかできない。
「怒りが収まらないと言うなら、私を殺してください。だから、どうか子供だけは許してください」
涙が溢れてきて止まらない。
自分のせいで、愛する我が子が殺されそうなのだ。
どうか、どうか子供だけは。
「……ようやく理解できたようね」
アメリアから感じる恐怖が和らいでいく。
「同じく子を持つ母として、1度だけ貴女を見逃すけど、次は無いわ」
「……許してくれるの?」
「勘違いしないで。許せるはずがないでしょう。見逃すだけよ」
「あ、ありがとうございます」
私は感謝し、顔を上げ、見上げると、そこにはもう誰もいなかった。
嫉妬心は無くせないだろうけど、子供達の為にも二度と愚かな真似はしないと誓う。
side:アメリア
見張りをしていたアイリスと合流する。
「あれで良かったんですか?」
「……これで懲りたでしょう」
「泣いてましたしね。まさか、アメリア様があんな演技ができるだなんて、知りませんでしたよ」
「……演技?」
「子供を殺すなんて言ったシーンは、私でも鳥肌もんでした」
「………」
「あれ? ………演技じゃ無かったんですか」
「違うわ」
「長い付き合いですけど、アメリア様があんな風に怒っているの初めて見ました」
「この気持ちを言葉にして誰かに伝えるのは難しいけど、貴女も子供ができればきっと分かるわ」
「子供より先に相手を見つけないと。……ユーリオン様に貰ってもらおうかなぁ」
「………」
「じ、冗談ですよ。引かないでください!」
私とアイリスは屋敷へと戻るのだった。




