ルナマリア神聖国
この世界には概念的な意味ではなく、「神」が存在している。
実際に世界のどこかに神が住んでいるというわけではないが、神は確かにいるのだ。
最上位の神に「創造神」と「魔神」
その下に「太陽神」と「月神」
その下に「火神」「水神」「土神」「風神」
地球でも神は信仰の対象とされていたが、日本だと信仰している者の方が少ないだろう。
だが、神を感じられるこの世界「ゼーディン」では、ほぼ全ての者がいずれかの神を信仰している。
例えば魔族では「魔神」、エルフなら「風神」、ドワーフなら「土神」が多く信仰されている。
では、ヒューマンなら「創造神」が最も信仰されているかと言えば違う。
ヒューマンの間で最も信仰されているのは「月神」なのだ。
これは決して「創造神」が信仰されていないというわけではない。
最初に世界を創った「創造神」は最上位の神として、もちろん多くの者から崇められている。
しかし、自分にとって利になる神を最も信仰するのは人の性だろう。
「太陽神」は『動』と戦いの男神とされており、「月神」は『静』と癒しの女神とされている。
身近に危険が多いこの世界では、癒しを司る「月神」が最も多く信仰されているのだ。
そして世界で最も信仰されている「月神」の信者達が集まって作られた国がある。
グランファーレル王国の北東に存在する宗教国家「ルナマリア神聖国」だ。
ルナマリア神聖国では、「月神」を信仰している者ならば、種族を問わず受け入れられる。
ルナマリア神聖国にとって、「月神」の次に最重要な存在であり、
一番の特徴とも言えるのが「聖女」の存在だ。
「聖女」は人が選ぶのではなく、「月神」が自ら選び、加護と称号を与える。
「聖女」とは、正に神に選ばれた存在であり、特別な存在なのだ。
しかし、国家である以上「聖女」に全ての判断を委ねるわけにもいかない。
人が選ぶ「教皇」をトップとしており、「聖女」は政治の外に置かれている。
なら「聖女」はお飾りなのかと言えば、それも違う。
「聖女」は「月神」の神託を受ける事もあり、「教皇」より「聖女」の意見が優先される。
「聖女」の意思を優先させるのは、国としては危険と思うかもしれない。
だが、長い歴史の中で、1人とて己の利益を優先させるような「聖女」はいなかった。
正に神に選ばれるだけの事はあるのだ。
そして人が集まる以上。「聖女」を利用しようとする者も現れてしまう。
かつて権力者などが「聖女」の意思を無視し、関係を迫った事がある。
その者たちは例外なく神罰が下り、悲惨な死を遂げている。
故に「聖女」の意思を軽んじるような事は恐れられ、固く禁じられているのだ。
特別な存在ではあるが、「聖女」は恋愛禁止で生涯独身というわけではない。
「聖女」が望めば、自由に恋愛も結婚もできる。
神の怒りに触れるのは、「聖女」の意思を無視する事だ。
だが、これまでの多くの「聖女」は、神に身を捧げた者として独身を貫いている。
基本的には「聖女」が存命な間に次代の「聖女」が選ばれている。
「聖女」が時代の「聖女」を教育できるように「月神」も配慮しているのだろう。
しかし、「月神」が「聖女」を選ぶ以上、「聖女」が存在していない期間もある。
その間は、人が選んだ「聖女代理」が国家の行事などを行う。
「月神」が「聖女」を選べば、「聖女代理」は地位を国に返上する。
ルナマリア神聖国とは「月神」を信仰し、「聖女」を尊び、平和を望む宗教国家である。
side:ユーリオン
今、僕は街の教会の中に居る。
重症だったピエリスを治してもらう為だった。
聖女様のおかげでピエリスの顔色も良くなったので、もちろん感謝している。
しかし、月神様のお導きとはどういう事なのだろうか?
「すみません、状況が良く分からないのですが」
「一週間前に月神様から私に神託がありました。グランファーレル王国の王都に向かいなさいと。
もしもユーリオン様が生きて戻られるようなら、婚約し、今後も支えなさいと」
「…………」
月神様の言い方だと僕が生きて戻れなかった可能性もあるという事か。
しかし、分からないのは何故僕と婚約させようとするのかだ。
「聖女様が月神様によって選ばれる事は知っていますが、結婚相手も選ばれるものなのですか?」
「いいえ。これまでの歴史の中でも聞いた事がありません」
「……将来の相手を決められて、お嫌ではないのですか?」
「いいえ。月神様が決めた事に間違いはありませんから」
嘘を言っているとは思えないが、彼女の言っている事が本当なら大変な事になる。
5歳という年齢で婚約は早い気もするが、自分の立場を考えれば早すぎるという事も無いだろう。
神が決めた婚約なんてあり得るのか知らないが、真実なら断る事は難しいはずだ。
断れば月神様の意向を無視したとして、ルナマリア神聖国と険悪になる可能性が高い。
それに両国として見れば、王子と聖女の婚約は互いの関係を深められるので、喜ばれるだろう。
命がけでダンジョンから帰還してみれば今度はこれか。
月神様が何を考えているのか分からないが、少しくらい休ませてくれても良いのではないか。
僕をこの世界に転生させてくれたのが月神様なんだろうか?
う~ん、会話したのは短い時間だったけど、あの女神様から「癒し」は感じなかったような。
「聖女様、申し訳ないのですが、今は色々と問題が発生してまして。
後ほど時間を取らせて頂く形でも良いでしょうか?」
「これは気遣いが足りず、申し訳ございません。はい、それで結構です」
「治療の件、本当にありがとうございます。このお礼も必ずさせて頂きます」
婚約の件はどのみち、僕が決めれる事ではない。
おそらくルナマリア神聖国の使者が国王である父に話をしている事だろう。
まずはダンジョンの件を片付けなければならない。
僕は聖女様に挨拶をすると、教会から冒険者ギルドへ向かった。
外に出ると、小さくなったニクスが飛んできて僕の肩に止まり、念話で話す。
「どうだった?」
「うん、ピエリスに回復魔法を使ってもらえたよ」
「入った時より疲れた顔になってるけど、なにかあったの?」
「ちょっとね。後で話すよ」
馬車に戻り、冒険者ギルドへ向かっている道中でピエリスが目を覚ます。
「……ここは?」
「街の中で馬車で移動中。もう大丈夫だから安心して」
「ユーリオン様?」
「うん。まだ安静にしてなくちゃ駄目だよ」
「あ、あいつらは!?」
僕は簡潔に、騎士団を倒して支配下にある事、教会で回復してもらった事、
今は冒険者ギルドへ向かっている事を説明した。
「本当に不甲斐ない。護衛が護ってもらうなど」
「…………」
僕は何も言えなかった。
適当な慰めの言葉など、求めていないと思ったからだ。
「支配というのは安全なのですか?」
「自力では解除できないと思う」
「……そのスキルは危険視される可能性が高いです。絶対に他人に知られるべきではない」
「なら受け渡しのタイミングで解除しよう」
「説明は俺の方からします」
「わかった」
冒険者ギルドへ着くと、ピエリスがふらつきながら説明に向かう。
団員達は気絶している事にして外に寝かせとく。
冒険者ギルドから王城へと連絡が入り、護送する為の騎士団がやってくる。
騎士団が犯罪者用の魔封じの腕輪をはめさせ、縛ったのを確認しスキルを解除する。
団員達の傀儡化は解除したが、シフリーの支配だけは解除しなかった。
シフリーには、知っている事を全て正直に話すように命令しているからだ。
引き渡しの際、冒険者ギルドで確認が済んだら王城へ向かうと伝言を頼んだ。
護衛も兼ねて一緒に向かうべきではと言われたが、一緒に行く気にはなれなかった。
今回の件でどのみち王城に行く必要がある。
全ての騎士団が敵というわけではないだろうが、今はどうしても疑ってしまう。
冒険者ギルドの中へ入ると、受付に向かう。
今回の目的であった10階層のフロアボス攻略が成功した事を証明する為である。
何か忘れている気もするが、依頼達成の受付嬢にギルドカードを見せる。
「ユーリオン殿下ですね。それでは確認させて頂きます……!?」
笑顔だったお姉さんの表情が驚愕へと変わる。
「すみませんが、別室へと移動をお願いします」
「護衛のピエリスも一緒で良いですか?」
「はい、構いません」
お姉さんに案内されながら、ピエリスと移動する。
中には、50歳前後に見えるヒューマンの男性が立っていた。
「お初にお目にかかりますユーリオン殿下。私はギルドマスターのベルナルドと申します」
「初めましてユーリオンです。それで、どうして別室へ?」
「まずは座ってください」
ピエリスは護衛として立っていようとしたが、完治してないので無理やり隣に座らせる。
その間にベルナルドさんは受付嬢にお茶と、他の者が近づかないようにと指示を出す。
「40階層のフロアボスを倒したというのは本当なのですか?」
何か忘れている気がしたが、これの事だった。
初心者が初ダンジョンで40階層を攻略してきたと言われれば、それは間違いを疑う。
ギルドカードに記録されているだろうし、誤魔化しはダメだろう。
「はい、攻略しました」
「ギルドカードに記録されている以上、嘘だとは思っていないのですが……信じられん」
僕はあまり目立ちたくない。
なので、このまま信じられなくても良いのではと考えるが、そうはいかないだろう。
「40階層で入手した魔石はお持ちですか?」
「これが【ジャック・オー・ランタン】の魔石です」
「鑑定しても良いですか?」
「どうぞ」
ベルナルドさんは、モノクルの魔道具を使用して鑑定する。
本物だと分かったようで、興奮している。
売って欲しいと言われたが、そんな気にはなれなかった。
タイミング良くお茶が来たことで、興奮していたベルナルドさんが落ち着く。
「失礼いたしました。きっとユーリオン殿下は英雄となれる器なのでしょうね」
全然嬉しくない。
僕がなりたいのは英雄ではなく、執事だ。
「1つお願いがあるのですが」
「なんでしょうか?」
「僕はあまり目立ちたくはありません。記録されるのは仕方ないにしても、
40階層を攻略した事はここだけの話にしてほしいのです」
「……なるほど。そういうことでしたら構いませんよ。
普通の冒険者なら自分の偉業を宣伝するところですが、ユーリオン殿下には立場もある。
もしかしたら、そういう事もあるかもと、別室へと案内させて頂いたのです」
「お気遣いありがとうございます」
「いえいえ、手間を取らせてしまい、申し訳ございませんでした。
ギルドカードの更新も終わりましたので、お返ししますね」
【名:ユーリオン】【総合ランク:C】【個人:C】【集団:-】
【所属:-】【パーティー:-】
【ダンジョン:炎(10F/31~40F)】
【対魔:C】【対人:D】【守護:-】【採取:-】
【罪:-】
総合ランク、個人評価、対魔評価が一気に「C」まで上がってる。
「あのー、いきなり上がり過ぎではないですか?」
「本当はもっと上げたいのですが、1つのダンジョンだけでは、上げれる上限が決まっているのです」
冒険者として生計を立てるつもりはないので、上がらなくても構わない。
「王族であるユーリオン殿下に対して、言っていいのか分かりませんが、
冒険者として1流になれますよ。次はアイテム袋を持って行って、素材の回収もお願いします」
ストレージの事は知られたくないので、今後はアイテム袋を用意する必要がある。
ギルドでの確認も終わったので、今度は王城へと向かわなければならない。




