40階層のフロアボス戦
「炎のダンジョン」の40階層にある、扉の前に僕達はいる。
フロアボス戦前という事で、体力的にも精神的にも十分に休んだ。
「ニクス、そろそろ行こうか」
「ええ、問題ないわ」
扉を開けつつも脳裏には不安な声がチラつく。
(もう少し、レベルを上げるべきでは)(ボス戦が始まれば逃げられない)
31階層で罠を張り、僕の生死を確認しにやってくるシフリーと戦う方が勝率は高いと思う。
それをしないのはピエリスが心配だからだ。
罠を張り待ちの姿勢に入れば安全だとは思うが、敵が動くまで、こちらも動けなくなる。
それでは時間がかかるし、ピエリスが無茶をしていた場合に助けられないかもしれない。
「戦って 勝って 生き残るんだ!」
不安も恐怖も今は邪魔だ。
そうして戦う事に集中している間に扉は開かれた。
扉の先はこれまで以上の暑さだった
道の先には、石で作られた四角いフィールドがあり、その先にはまた道と、扉がある。
あのフィールドでボスと戦い、勝利すれば道を通り、扉から先に進めるのだろう。
そして視界に入れたくも無いが、今まで以上に暑い理由がマグマだ。
道やフィールドの下は、マグマの海なのである。
落ちれば、間違いなく死ぬ。
フィールドの上には、なぜかボスの姿が見えない。
もしもマグマの中にいて、そこから攻撃してくるようなら、勝つのは無理かもしれない。
僕がフィールドの中に足を踏み入れると、ボスがどこからか姿を現した。
それは、ハロウィンで見かけるジャックオランタンのようだった。
身長180㎝くらいで、頭がオレンジ色の大きなカボチャになっている。
身体の方は黒いマントで覆われていて、手足は見えていない。
10階層のボスが大きなゴーレムだっただけに、40階層が人間サイズのボスである事に少し戸惑う。
フィールドも広めに用意されていたので、大型のボスが出ると思っていた。
僕は攻撃される前に、ジャックオランタンのようなボスを鑑定してみる。
【名:ジャック・オー・ランタン】【レベル:40】
【魔法適正】『光/0』『闇/55』『火/65』『水/0』『土/0』『風/0』『無/50』
【称号】『フロアボス(炎のダンジョン40階層)』
【スキル】『闇術Lv5』『火術Lv7』『鎌術Lv.6』『眷属召喚Lv5』『魂回収Lv.3』『威圧Lv5』
『闇耐性Lv3』『火耐性Lv5』『異常耐性(毒、麻痺、魅了)Lv5』『身体強化Lv4』『自己再生(中)Lv3』
覚悟はしていたが、やはり強く、弱点らしい弱点も無い。
仲間を呼ぶ「眷属召喚」のスキルも厄介だが、「魂回収」のスキルが恐ろしい。
もし負ければ魂を奪われ、ダンジョンの魔物にされるかもしれないのだ。
いや、負けた時の事を考えても仕方ない。
今は勝つ為の方法だけ考えよう。
「ジャック・オー・ランタン」長いので「ジャック」と略す。
「ジャック」は現れてからも、攻撃を仕掛ける事も無く、こちらをじっと見たまま動かない。
まるで僕の準備が整うを待っていてくれているように感じられた。
僕はまさかとは思いつつも、話しかけてみる。
「初めまして。ユーリオンです」
「おやおや、まさか挨拶されるとは思いませんでした。もしかして、言葉が分かるので?」
「はい、人以外でも、意思があるものならば、会話可能なスキルを持っています」
「ははは、これは愉快だ。まさか人と会話できるなんて」
「どうして攻撃してこないのですか?」
「私にはフロアボスとしての誇りがある。相手の準備が整わない内に攻撃はしませんよ。
全力を出す為ならば、ドーピングでも罠でも鑑定でも、後悔の無いように好きにしなさい」
まさか、相手に全力を出してもらう為に待つなど、本当に驚かされる。
だが、ジャックには、そうできるだけの余裕と実力があるという事だ。
「貴方は何故1人でこんな所に? 富や名声の為ですか?」
「私もいるから1人じゃないわよ!」
ニクスをなだめつつ、僕はここに来るまでの事情を説明した。
「……なるほど。人は本当に酷な事をする」
「通してもらう訳にはいきませんよね」
「残念ながら、私の意思で扉を開ける事はできません。それに可哀相だとは思いますが、
私のプライドが負ける事も、手加減してあげる事も許してくれません」
「ならば、全力で挑ませてもらいます!」
「ええ、私は例え敗北しても、卑怯とは思わず、文句を言わず、ただ勝者を祝福しましょう」
戦闘が始まると、ジャックは骨の右手をマントから出すが、手には大きな鎌を握っている。
どう考えても、マントの中にあんな大きな鎌が入っていたとは思えない。
不思議に思っていると、次は同じような骨の左手を出し、その手にはランタンが握られていた。
どうやら、マントの中身は骨の身体のようだ。
鎌は何となく分かるが、ランタンには何の意味があるのだろうか。
すると、答え合わせをしてくれるかのように、ランタンをこちらに向けて突き出してくる。
「では、いきます。殺すつもりなので、死んだら怨んでくださって結構です」
ランタンが光ると、ビームのような炎がニクスに発射される。
その速さにニクスは避けきれず、被弾して吹き飛ばされてしまう。
「ニクス!?」
「他者を心配している余裕があるのですか?」
「くっ」
ジャックが大きな鎌を右手で軽々と振り回し、こちらを切り裂こうとしてくる。
僕はとっさに腰の剣で受け止めたが、そのまま吹き飛ばされる。
もし、ガードが間に合わなければ、真っ二つになっていたか、そのままマグマに落ちていた。
だが、レベルの差か、武器の質の違いか、こちらの剣は折れてしまった。
……距離が離されたのに、ランタンで追撃してこない。
確信するのは危険だが、おそらく連続では撃てず、チャージ時間が必要なのだろう。
「諦めるなら、苦しまないように、一撃で終わらせてあげますよ」
「……その優しさは不要です」
ジャックはアンデッド系になるのだろうが、幸いにも物理が効くタイプだ。
僕は錬金術で地面から石の槍を生やし、ジャックを狙う。
ジャック相手なら、太さは必要ないから細くていい。
質量を減らす事で作成時間を短縮し、スピードを優先して攻撃する。
「悪くない攻撃ですが、まだまだ殺意がたりてませんね」
ジャックはバックステップで避けつつ、鎌の一閃で石槍を崩す。
もちろん40階層のフロアボスを相手に、こんな攻撃だけで倒せるとは思っていない。
石槍は囮で、本命は視認しづらいように、極細にして狙っていた魔糸だ。
僕はジャックを捕らえると、油断も躊躇もなく魔糸で身体を引き裂いた。
以前はレベルが低く、スケルトンも切断できなかった。
今はレベルが上がった事で、魔糸も強化されている。
ジャックの身体はバラバラになり、崩れる。
危険を感じた瞬間、僕は横に飛んで回避する。
さっきまで僕がいた場所を炎のビームが貫いていた。
「おや、外してしまいましたか」
「やっぱり、骨の身体では、バラしても意味はないか」
「いえいえ、自慢のマントがボロボロですよ。ちょっぴり怒っちゃいました」
「……逆にボロボロのマントの方が雰囲気があって良いと思う」
「……なるほど、これはこれで。……なら、素敵なマントのお礼という事で」
バラバラになった骨が集まっていくと、マント以外元通りに見える。
ジャックは撃てないはずのランタンをこちらに向けてくる。
今までは、チャージ時間を必要と思わせる為のフェイクだったのか?
「さあさあ、おいでなさい」
ジャックが呼びかけると、ランタンから青い光の玉が2つふわふわと出てくる。
最初は野球ボールくらいだったが、だんだんと、バスケットボールサイズまで大きくなる。
それは燃え上がると鬼火となり、クスクスと笑いながら襲ってきた。
「眷属召喚のスキルか!」
「正解です」
鬼火は体当たりしてきたり、火を飛ばしてきたりして、ジャックのサポートをする。
鬼火はそこまで戦闘能力が高いわけではなかったが、3対1という状況が負担になる。
何故か、有利なはずのジャックが激しく攻めて来ない。
……状況的に攻めるチャンスだというのに。
魔糸でバラしたのも、多少はダメージが合ったという事か?
鬼火を鑑定し、錬金術で分解しようとするが、不可能だった。
魂があるものは、分解できないようだ。
鬼火は魔法ではなく、魔力に魂が混じった魔物とも呼べない曖昧な存在だ。
苦戦していると、ニクスが良いタイミングで戻ってくる。
「ごめん、待たせたわね!」
「おや、戻って来れるとは思いませんでした」
「ふん、私に炎は効かないのよ……威力だけで吹き飛ばされて、ダメージは受けたけど」
「炎が効かない? ハッタリか。いや、それにしては回復が早すぎるか」
「ニクス、その鬼火、何とかできる?」
「任せなさい!」
「頼んだ!」
僕は鬼火をニクスに任せる。
離れてくれたので、ジャックに集中する。
「良いのですか? 大事なペットが今度こそ、死ぬかもしれませんよ」
「ニクスが任せろと言ったなら、信じる。それにペットじゃなく、助け合う仲間だ」
「それは失礼しました。ならば仲間の死を悲しむ事の無いように、先に終わらせてあげます」
僕は両手の指先から魔糸を出し、ジャックを捕らえる為に操る。
「それは先ほど見ました。見づらくとも、実態があるならば、ダークホール」
ジャックの前に闇属性魔法で空間が作られ、僕の魔糸が吸収される。
糸の先まで操る事はできるが、吸収する力がそれ以上だった。
「正面が駄目なら」
「多彩な攻撃手段をお持ちのようで。ファイアランス」
僕は地面に手をつき、下から魔糸を出して攻める。
ジャックは回避せず、炎で作られた槍を3本こちらに素早く飛ばしてくる。
僕が避けるか、防ぐ為に攻撃を中止すると思ったのだろうが、通常の魔法なら問題ない。
鬼火のように魂が混じっていないならば、錬金術で分解できる。
「なんと!?」
ジャックの隙を逃さず、今度は身体だけでなく、頭も魔糸で切断する。
頭の方には核となる物があったのか、魔糸越しに手ごたえを感じる。
つい、『やったか』と口にしそうになるが、フラグになるので口にしない。
だが、ニクスが鬼火を倒したのか、近づいてきてフラグを口にする。
「やったの?」
「……うん、鬼火は?」
「魔力喰いのスキルで、徐々に魔力を食べていったら消えたわ」
任せろと言うだけはあって、相性が良かったようだ。
ランタンから炎のビームが発射されるが、僕たちには当たらなかった。
「……おや、なぜ?」
「2度目にバラバラにした時、ランタンを持つ左手に魔糸を繋いでおきました。
動かす気配を感じたので、狙いがズレるように操作しました」
「なるほど。最後まで油断しないその姿勢見事です。今度こそ貴方の、いや貴方達の勝ちです」
「意思のあるフロアボスが倒された場合、どうなるのですか?」
「中身が違っても、同じ種が配置される場合もあれば、別の種になる場合もあります」
「………」
「悲しそうな顔をしないでください。ここはダンジョンで試練の場でもあります。
試練とは乗り越える為にあるのですから。私は貴方達の勝利を心より祝福します」
「ありがとうございます」
「良い人がいれば悪い人もいる。きっと意思のあるフロアボスも同じでしょう。
会話できるという事で、悪辣な手段を取る者もいるかもしれない。
あまり敵対者と会話するのは危険ですよ」
ジャックは魔物とは思えない程、誠実で、僕の身を案じてくれた。
「このスキルON/Offが切り替えれるので大丈夫です。良い人にしか使いません」
「ふははは、本当に愉快だ。まさか、ダンジョンの魔物それもフロアボスとして生まれ、
挑戦者に憎まれ、怨まれながら命と魂を奪ってきた私が人種に良い人などど呼ばれるとは」
「人が憎くて殺したのでも、殺す事に愉悦を感じていたのでもない。
貴方はフロアボスという自分の役割に誠実でいただけです」
僕が彼の何を知っているんだと、思われるかもしれない。
でも、彼は責任感が強く、真っ直ぐに向き合うタイプなんだと思えたのだ。
「まさか、人生いや魔物生か。その最大の理解者が人になるとは実に面白い。
大鎌に魂回収のスキルを付与しときました。使うでも売るでも好きにしてください」
「よりにもよって一番物騒なスキルですね。いえ、大事に使わせて頂きます」
「ええ、貴方の人生は波瀾万丈でしょう。少しでも役立ってくれるなら満足です。
さて、そろそろ時間ですね。まさかこんなに満足して消えれるとは」
「僕にとって初めてのフロアボス戦でした。きっと一生忘れないと思います」
「鬼火の魔力なかなか美味しかったわよ」
そうして魔石と大鎌を残し、「ジャック・オー・ランタン」は消えていった。
「ジャック・オー・ランタン」は、消えゆく意識の中で、少年達について考えていた。
少年の方はきっと、転生者か転移者か、どちらかなのだろう。
そうでもなければ、流石にあの幼さでダンジョンは攻略できない。
分からないのは、一緒にいる鳥の方だ。
炎が効かず、魔力を食らうなど通常の魔獣ではありえない。
信じられないが、可能性があるとしたら幻獣種であるフェニックスだ。
他者を嫌う幻獣種、それも人間嫌いで有名なフェニックスが人と共にあるなど。
彼らは初めてのフロアボス戦だと言っていた。
ならば、私は後世に名を遺すであろう英雄の、伝説の1ページとなれたのではないか。
もし、そうなら本当に面白い。
縁があるならば、次は仲間の末席にでも加わりたいものだな。




