神様から見た彼
side:???
誰かが私のいる空間にやってきた気配を感じた。
この空間に来れるという事は、残念ながら『死者』であるという事。
この空間に来れるという事は、嬉しいことに『資格』があるという事。
私はここに来る人物の前には、すぐには姿を現さないことにしている。
人によっては自分の死を理解できていない。
仮に理解していても納得できず、冷静でいられない者が多いからだ。
冷静でない者に説明しても理解できないだろうし、相手するのがちょっぴりめんどくさい。
どうやら今回やってきた成年は、冷静に状況を受け入れられているように見えた。
20歳前後に見える成年に私は良い意味で驚いた。
魂があまり汚れておらず、器が大きかったからである。
人が年を重ねていけば差異はあれど、成長につれて器は大きくなるし、魂は汚れていく。
魂の器については生まれながらの資質も大きいが、どんな人生を送ったかで決まる。
人間生きていれば誰かと比較し、比較されていく。
自分より優れた人間を見た時に、自分もそうなりたいと目標にできる人間もいるだろう。
でも大多数の人間は途中、あるいは最初から自分より下の人間を見ることで安心し満足する。
魂の器を大きくできる人間とは、簡単に言ってしまえば向上心の強い者だ。
魂の汚れについては更にわかりやすい。
他者を傷つけ、貶め、苦しめたり、自分の可能性を信じられず、鬱屈していると汚れる。
きっと彼はよほど困難な夢や目標に向かって努力してきたのであろう。
この空間に来る為の『資格』とは魂の器の大きさだけである。
悪事をしてでも、他者を追い落としてでもと、向上心が強ければ器は大きくなる。
だからこそ魂の汚れた悪い人間が来る事もあるし、むしろ多い方だ。
それはそれで必要な魂でもあるのだが、汚れているとできる事が少ない。
魂が奇麗な状態で、器の大きい存在は本当に希少なのだ。
可能な限り彼の願いを聞き入れる事で、異世界たる私の世界に来てほしいと思う。
多少ふざけつつも彼と会話していく中で、私は確信を持てた。
彼なら期待できると。
無茶な要求をされても、可能な限り叶えるつもりであったが、あまり要求はされなかった。
せっかくの夢を叶えられる可能性が高い異世界であるのに良いのだろうか。
だけど、欲望にまみれた無茶な望みが無いからこそ、奇麗な魂なのだろうなとも納得する。
彼に最後に頼まれた転生先の上流階級というのはよくわからなかった。
おそらく偉い人間の子供として転生させてあげればいいのだろう。
彼を気に入った私は、タイミング的に丁度いい転生先を選ぶ。
せっかくだから一番偉そうな人間を選ぶとしよう。
きっと彼も喜んでくれるはずだ。
必要そうな能力から喜ぶであろう能力まで授け、私の世界へと送った。
こうして色々能力を与えられるのも魂の器が大きく、奇麗だからである。
「彼の事も気になるし、魂の収集は一旦止めて私も自分の世界へ戻るとしますか♪」
そのセリフを最後に白い空間には誰もいなくなった。
神の一柱としてある程度の人間社会については理解していた。
しかし、貴族階級などの神からすれば細かい事に関しては興味も無いし、知らなかった。
こうして彼女からすれば善意であるのだが、彼は王族へと転生する事になる。
これまた善意ではあるが、大量の能力を付与された彼の物語が異世界にて始まるのであった。
はたして王族であり奉仕される側の人間が、奉仕する側である執事となれるのか。
大量のチート能力を持つと知られた際、周囲の人間が彼をどう扱うのか。
今後どうなるのかは神ですら知らない。