初めてのレベルアップ
焦りはあるが、人生最大のピンチだ。
こういう時こそ、冷静にならなければ。
今、僕がいる場所は、シフリーの言葉通りなら31階層。
30階層と20階層のフロアボスは倒していない為、ここから転移装置で1階層へは転移できない。
ピエリスの救援を期待するのも難しいだろう。
むしろ、敵に囲まれているピエリスの方がピンチかもしれない。
下手に動かずに他の冒険者がやってくるのを待つべきだろうか。
今日は貸し切り状態で無理でも、明日か明後日なら期待できるのでは。
しかし、王族相手にここまで大胆な事をしたのだ。
何か人が入ってこないように手を打っている可能性の方が高い。
来るか分からない救援を、安全地帯でもない場所で待つのも危険行為だろう。
シフリーは、僕がストレージのスキルを所持している事を、当然知らなかった。
だからレベルを上げさせず、さらに荷物を奪った事で安心している事だろう。
レベルが低く容量は少ないが、ストレージ内には水も食料も入れてある。
ダンジョンという事で「水」「食料」「ポーション」は普段より多めに入れてあり、
5日前後は問題ないはずだ。
この世界のポーションの効果は飲めば体力が回復し、切り傷程度なら傷を塞げる。
漫画のように骨折を即座に直したり、失った部位を再生する事はできない。
ストレージの中身を再確認する事で少し、心の余裕を取り戻せた。
帯剣が放置されたのは、剣一本じゃ何もできないとの判断だろう。
敵はモンスターだけではない。
洞窟内の温度が10階層までに比べ、31階層はかなり暑い。
さすがは「炎のダンジョン」と言うべきか、深くなるほど温度も上がっていく。
フェニックスのニクスはむしろ快適そうだが、僕はそうはいかない。
この暑さでは、予定より水の消費が早まりそうだ。
闇雲に動くのは危険だが、ひとまず周囲の様子を確認する為にも動くことにする。
「ニクス、モンスターに気づかれないように、静かにね」
やはりニクスは賢く、鳴かずにうなずく事で了承を示す。
31階層は温度も違うが、10階層までと比べると、広く感じる。
離れた位置で飛んでいる30~40㎝くらいのオレンジ色の鳥が見えた。
これまで出会っていない魔獣である為、僕は鑑定を使用する。
【名:フレイムバード】【レベル:26】
レベル差もあり、名前とレベルくらいしか情報を得られなかったが、十分だろう。
自分と比べ、あまりにもレベルが違い過ぎる。
試しに挑んでみようという気すら起きない。
レベルは絶対ではないが、1つしかない自分の命で試す気にはなれない。
見つからないうちに移動しようと判断したその時だった。
岩から白い何かが高速で飛び出し、フレイムバードを撃ち落とした。
僕が勝てないであろうフレイムバードを一撃で倒す存在が気になり、様子を窺う事にする。
岩だと思っていたそれは、1mはあろう蜘蛛の魔獣であり、白い何かは糸のようだ。
蜘蛛の方も鑑定すると、フレイムバードより、更にレベルが上だった。
【名:ロックスパイダー】【レベル:29】
そして撃ち落とされたと思っていたフレイムバードが燃え上がる。
ロックスパイダーが何かしたのかと思ったが、違った。
フレイムバードが自分を縛る糸を燃やす為、自ら燃え上がったのだ。
フレイムバードは飛び上がると、逃げずにロックスパイダーに敵意を向ける。
フレイムバードとロックスパイダーが互いに睨み合う。
自分が敵意を向けられたわけでもないのに、余波だけで気分が悪くなる。
ロックスパイダーは地面から、拳くらいの石を魔法で複数飛ばす。
さっきと違い、ロックスパイダーを認識しているフレイムバードは軽々と避ける。
お返しとばかりに、フレイムバードが炎の塊を嘴から飛ばすと、ロックスパイダーに当たる。
蜘蛛の丸焼きかと思えば、ロックの名の通り、岩のように固く、少し焦げた程度だった。
これは勝負が着かないのではないかと思えた。
ロックスパイダーがまた石を飛ばすが、フレイムバードには、やはり当たらない。
次にロックスパイダーが、糸を口から飛ばすが、これまた当然かわされる。
しかし、かわされた糸が飛ばしていた石にくっつく。
その糸を巻き取る事で、石がフレイムバードの背後から迫る。
反撃に移ろうとしていたフレイムバードは気づけず、石が直撃する。
今度こそ撃ち落とされたフレイムバードはそのままロックスパイダーのエサとなった。
あのロックスパイダーはヤバい。
Aという攻撃とBという攻撃を合わせる事で、Cという戦術を生み出したのだ。
ただ、本能のままに生きているならともかく、あれは知恵を持って戦っている。
もし見つかれば僕もエサになってしまうだろう。
そのまま食事に夢中でいてくれと願い、音を立てないようにその場を離れた。
31階層には鼻の効く獣系がいなそうで助かった。
もしいれば、隠れながら移動していても、臭いですぐに見つかってしまうだろう。
暑さと、見つかるかもしれない緊張感とで、汗も止まらず、想定よりも疲労してきた。
鎧のような金属音が聞こえてきたので、岩の陰に身を隠す。
(……騎士団が僕を確認しにきたのか? いや、それにしては早すぎるか)
視界に入ってきたのは、アンデッド系の魔物「スケルトン」だった。
少しボロボロの鎧を着たスケルトンが1体と、剣だけを持ったスケルトンが2体。
鑑定してみると良い意味で驚かされる。
【スケルトンナイト(Lv.18)】【スケルトン(Lv.16)】【スケルトン(Lv.15)】
僕よりも当然格上ではあるが、この階層で見た中では、最もレベルが低かった。
おそらく死亡した冒険者の成れの果てだ。
言い方は悪いが、生き残る為に戦うなら、彼らが最適だろう。
戦う意思を決めると、次は戦法を考えなければならない。
スケルトンには肉が無い為、剣や槍は有効ではなく、武器なら殴打系の方が効く。
つまり、腰の剣はあまり役に立ちそうにない。
アンデッド系には光魔法が有効だが、僕は残念ながら覚えていない。
得意の魔糸を使えば、捕らえる事はできそうだが、スケルトンを切断して倒せそうにはない。
となると、周囲を利用して罠で倒すしかない。
作戦をニクスに伝え、協力してもらう。
僕は罠を用意すると、他の敵が参戦してこない事を祈りつつ作戦を開始する。
まずは、スケルトン達にわざと見つかる。
これで追って来ないだけならいいが、見た目に反して魔法攻撃を使用されたらと思うと怖い。
彼らは真っ直ぐに僕を追って来てくれた。
動きは骨だからか、それほど速くない。
人型だし、落とし穴でも用意できれば良かったのだが、僕の土魔法のレベルでは無理だ。
代わりに用意したのはシンプルだが、足を引っかける罠。
岩と岩の間に、見づらいように細く、切れないように固くした魔糸で用意した。
僕は逃げる速度を調節しながら誘導し、ギリギリのタイミングでジャンプし罠を避ける。
先頭のスケルトンが足を引っ掛け転ぶと、後のスケルトンも転ぶ。
僕はその隙を逃さず、3体を魔糸で拘束する。
レベル差があるので、数秒もあれば力づくで拘束を解かれるだろうが、十分な時間である。
「ニクス!」
「ピィー!」
高所にある大岩を、ギリギリで支えていた魔糸を、ニクスが燃やす。
支えが無くなり、スケルトン達の上に大岩が勢い良く落下する。
ズドーンという大きな轟音と共に、土煙が舞う。
ニクスが僕の方へと戻ってくる。
僕はこれでダメだった時、直ぐに撤退できるように警戒を強める。
これがゲームなら敵のHPが分かったり、戦闘終了のBGMが鳴るのだが、そうはいかない。
土煙が晴れると、大岩に押し潰されたスケルトン達はピクリともしていなかった。
油断せずに鑑定すると、「スケルトン」ではなく、「人の骨×3」と表示される。
こうして正々堂々とはいかなかったが、初めての魔物討伐は成功した。
自分のステータスを確認してみると、レベルが「1」から「10」になった。
低レベルで高レベルを倒したおかげか、一気に上がっている。
もし、これでレベルが「1」ずつしか上がらなかったら、絶望していたかもしれない。
スキルのレベルアップと追加、EXスキルにあった「???」が1つ正常に表示されている。
【名:ユーリオン】【種:ハーフエルフ】【性:男】【年:5】【レベル:10】
【魔法適正】『光/10』『闇/10』『火/10』『水/20』『土/10』『風/25』『無/30』
【称号】『???の加護』『王族(グランファーレル/フォレスティア)』
【スキル】『魔力操作Lv7』『魔力具現化Lv7』『魔糸操術Lv8』『身体強化Lv2』『格闘術Lv3』
『剣術Lv3』『槍術Lv2』『弓術Lv4』『火術Lv1』『水術Lv3』『土術Lv1』『風術Lv3』『算術Lv6』
『家事技能Lv3』『気配察知Lv3』『危険感知Lv3』『傀儡化Lv3』『傀儡操作Lv3』
【EXスキル】『記憶継承』『言語理解Lv5』『ストレージLv3』『鑑定Lv6』『隠蔽』『錬金術Lv3』『???』『???』
重要なEXスキルから確認していく。
「言語理解」がLv5に上がり、意思のある魔物や魔獣の言葉を理解できるようになった。
これはON/OFFの切り替えが可能なようで、助かった。
OFFにできないと、戦闘があれば、毎回意味の分かる悲鳴を聞く事になるかもしれないのだ。
「ストレージ」もLv3に上がり、容量がスーパーのカゴ程度から、コンビニサイズまで増えた。
以前は直接手に持てる物しか収納できなかったが、手で触れれば収納できるようにもなった。
これで特に思いつかないが、持てないような重い物でも収納できる。
「鑑定」はLv6になり、魔力を持った者を鑑定しても、前よりは情報が得られるはずだ。
新しく増えた「危険感知」のスキルと合わせれば罠とかにも対応できるだろう。
「錬金術」は、今まで「???」だったスキルの1つである。
おそらく、レベルが上がった事で解放されたのだが、かなり使えそうだ。
対象の詳しい情報があれば分解したり、素材があって結果を知っていれば、過程を飛ばせる。
例えば、いきなりポンとポーションを出す事は出来ない。
だが、薬草と水という材料を用意すれば、作る工程を行わず、簡単にポーションが作れる。
合成だけでなく、海水から塩分を分解する事で塩も作れる。
レベルが上がれば、金属を加工した武器や、人工宝石とかも作れるかもしれない。
次に増えた4つのスキルを確認する。
『気配察知Lv3』
自分の周囲で動作するものをレベルに応じて知る事ができる。
『危険感知Lv3』
危険が迫っている時にレベルに応じて知る事ができる。
似たようなスキルだが、これがあれば安全に移動できるだろう。
この2つは今後も助けになってくれそうだ。
『傀儡化Lv3』
自らの魔力を相手に送る事で対象の意識を奪い、傀儡にする。
対象の意識が無いほど成功率は高く、レベル差に応じても成功率が変わる。
『傀儡操作Lv3』
傀儡となったを対象を自由に操る事ができる。
対象の構造的に不可能な操作はできない。
……なんだか物騒で、敵側が使いそうなスキルを覚えてしまった。
自分が正義だなんて考えていないけど、こういうのは悪役が使うイメージだ。
魔糸ばかり鍛えていたから、糸に関連しそうなスキルを覚えてしまったのかもしれない。
僕が若干禍々しいスキルについて悩んでいると、ニクスに声をかけられる。
「ねえ、私を鑑定してみて」
「わかった。鑑定させてもらうね」
確かに一緒に戦ったニクスも、レベルが上がっているはずだ。
僕の鑑定レベルも上がっているから何か分かるかも。
【幻獣種:フェニックス】【名:ニクス】【レベル:3】
【魔法適正】『光/10』『闇/0』『火/100』『水/0』『土/0』『風/10』『無/15』
【スキル】『火術Lv3』『自己再生Lv2』『魔力喰いLv3』
前に比べると、見れる情報は増えたが、まだ見れない方が多く、さすがは幻獣種だ。
「レベル3なのに火の適正『100』って凄いな。スキルとかは少し見れたけど、ぜんぜんだよ」
「あら、抵抗も妨害もしてないんだけどね。まあ、見れなくても、私が教えればいいか」
「やっぱりEXスキルがたくさんあるの?」
「当然よ。フェニックスですもの」
「頼りにしてるよ」
「任せなさい♪」
「……めっちゃ喋ってるーーーーー!?」
普通に会話してしまったが、レベルが上がったからか、ニクスが喋れるようになった。
「そんな叫ぶと、気づかれて襲われるわよ」
「ごめん。……でも急になんで?」
「私のレベルが上がった事で色々思い出せたのよ。後、貴方「言語理解」持ってるでしょ?」
「うん、さっきの戦闘でレベルが上がって5になった」
「たぶん、今見たら6になってるはずよ」
「え」
確認してみると確かに『6』になっていた。
「幻獣種は基本的に不死ではないけど、不滅な存在なの。死んでも世界のどこかで蘇る。
レベルやスキルはリセットされて弱体化するし、生まれ変わるから記憶も最初は失う。
で、レベルが上がった事で自分自身を取り戻せたわけ。
まだ全部を思い出したわけじゃないけどね。
これまでは、寝てるみたいに意識が曖昧だったけど、今は意識がはっきりしている。
だからこれまで世話してくれた貴方と、話したいと思ったの」
どうやら、幻獣種と話せるようになったから『6』に上がったようだ。
「ごめん、今更なんだけど、女の子だった?」
性別を気にせずに名付けてしまったので、可愛い名前にしとけば良かったかと心配になる。
「ほとんどの幻獣種に性別は無いわ。不滅であり、例外を除けば、交配で増える事もないもの」
「そっか、なら良かった。女の子っぽい名前の方が良かったのかなって」
「……大丈夫なの? ネーミングセンスの無い貴方に、可愛い名前が付けられるの?」
「うっ、それは……」
「だって、最初はピーちゃんって、名付けようとしてたじゃない。
フェニックスにピーちゃんって……威厳が無さすぎるわよ」
「ごめんね」
「別にニクスで良いわ。どんな名前かじゃなく、誰に付けられた名前かが大事なのよ」
「……なら、ピーちゃんでも」
「それはなんかイヤ」
ニクスと普通に話せるようになったおかげで、心が落ち着いていく。
僕もニクスもレベルが上がったとはいえ、この階層では最低レベルだ。
油断すれば、すぐにでも死ぬかもしれない。
だけど、1人じゃないんだと。
頼っていい存在がいるんだと思えるだけで元気が出てくる。
まだまだ絶望的な状況だが、2人でなら何とかなる気がしてくるのであった。




