炎のダンジョン
僕たちは全員で11人いる。
1パーティーは6人までと、冒険者ギルドの方針で決まっている。
ダンジョン内には2パーティーに別れて入り、中で合流する事になる。
ちなみにニクスは人では無い為、パーティーの数には含まれない。
ダンジョンの入口付近にいる、冒険者ギルドの人間にカードを見せる。
「はい、確認しました」
「今日はグランファーレル王国の伝統であり、ユーリオン様にとって大事な日だ。
無関係の者は立ち入ってないだろうね?」
「もちろんです。前日までに潜っていた者は帰還していますし、本日は誰も入ってません。
ごねる冒険者もいましたが、何かあればギルドだけでなく国が敵になりますからね」
「なら結構だ。入場制限をかけねば、暗殺者が来るかもしれないのでね」
シフリーの確認が終わると、僕たちは洞窟のようなダンジョンへと入っていく。
入り口は1つで、最初は1本道となっている為、先に入っていた5人とはすぐに合流した。
陣形は先頭に3人、僕を囲むように前と左右に1人と、僕の後ろにピエリス、
そして少し離れて、後ろに3人の形となっていて、僕の安全が最大限に配慮されている。
油断するつもりは無いが、道中の戦闘は全て周囲が行う為、見学しかやる事がない。
中も洞窟のようになっているが、ここは炎のダンジョンで灯りがある為、暗くは無い。
ダンジョンによっては真っ暗だったりもするので、自分で灯りなど用意する必要がある。
戦闘も先頭にいる3人だけで終わり、1階層は思ってたより広くなかった。
体感になるが10分ほどで2階層へと降りていき、その後も特に問題も起きず順調に進んでいく。
現在、5階層目まで来たので一旦休憩を取る事になった。
今のところ、真面目に僕の護衛をしている。
襲撃される事を警戒しているのだが、このまま杞憂で終われば良いな。
ここまでで魔物は「スライム」と「ワイト」、魔獣は「トカゲ」「コウモリ」「アリ」など。
全てレベル5以下だったが、魔獣の方はサイズが1mくらいで大きさに驚いた。
死体の解体はしないのかと思って聞いてみたら、護衛が最優先であると言われた。
それに駆け出し冒険者ならともかく、たいした金額にもならないので放置するそうだ。
ちなみにダンジョンでは死体が残ると、いずれ吸収されるので不衛生にはならないらしい。
ダンジョンについて考えていると、護衛のリーダーであるシフリーが声をかけてくる。
シフリーが近づくと、ニクスは警戒するように睨みつける。
「ユーリオン様、体調などに問題はありませんか?」
「はい、僕自身は歩いているだけなので、問題ありません」
「それは何よりです。ハハハ、しかし、レッドホークには嫌われてしまったようで」
シフリーは特に嫌悪感を出さずに苦笑している。
「すみません、基本的に僕以外には懐かないもので」
「いやいや、誰にでも懐くようでは護衛にはなりませんからね。それでは」
爽やかに笑いながら離れていく。
「ピエリス、どう思う?」
「何か仕掛けてくるなら、フロアボス戦辺りですかね」
「なら戦闘中は特に警戒が必要だね」
「そうですね。少なくとも壁を背にしていれば背後は心配せずに済みます」
「そうしとくよ」
休憩が終わり進行を再開する。
10階層に近づくほど、モンスターの襲撃は増えたが、誰もケガする事も無くたどり着いた。
そこは行き止まりとなっていて、大きな扉が1つあるだけであった。
「ユーリオン様、この扉の先がフロアボスとなります」
「我々で倒しますので、万が一に備えてピエリス殿はユーリオン様の側に」
「わかった」
「では入ります」
ボスを倒せば、後は帰還するだけとなる。
ピエリスと僕を離すどころか、戦闘に参加させず一緒にいさせるとは。
……何かあると深読みしすぎただろうか。
30階層以降のフロアボスだと、部屋に入れる人数制限などの条件が付く場合もある。
10階層のフロアボスには制限は無いので、11人全員で入った。
中は上にも横にも広く、中央に全身赤茶色で高さ3mはありそうな「ゴーレム」が立っていた。
フロアボスである「ヒートゴーレム」は、ゆっくりとした動きでこちらへ移動を開始する。
「散開!」
リーダーのシフリーが叫ぶと、僕とピエリスを除く9人でゴーレムを囲む。
指示を出すシフリーを除いた8人で4つのペアとなり、それぞれ攻撃と盾役になる。
「水よ 集まり 塊となりて敵を撃て ウォーターボール!」
攻撃役が水属性の魔法で「ヒートゴーレム」を四方から攻める。
「ヒートゴーレム」も動きは遅いが、的となっているだけではない。
回転するように両腕を振り回す。
単純な攻撃に思えるが、熱した岩が振り回されているのだ。
盾役が防御に専念していようと、脅威でないはずがない。
盾役は殴り飛ばされても、戦線に復帰し、守るという己の役目を果たす。
「ヒートゴーレム」の弱点は水属性であり、温度が下がる度に動きが更に鈍くなっていく。
全身の水分も蒸発熱できない程に熱が奪われたタイミングで、シフリーが次の指示を出す。
「総攻撃に切り替え!」
盾役も攻撃に加わり、その後は「ヒートゴーレム」が一方的にやられて終わった。
フロアボスが死亡すると、宝箱が出現する。
中身は武具や魔道具だったり、宝石や金貨だったりと色々ある。
フロアボスで出現する宝箱に罠は無いが、何人で倒しても出現する数は1つなのだ。
なので、パーティーで討伐すると、中身によっては揉める場合もある。
10階層では、そこまで良い物は出ないし、今回は揉める事も無かった。
こうして今回の目的である10階層の攻略が完了した。
「後は帰るだけだね」
「ボス戦でも仕掛けてきませんでしたが、念の為、屋敷に戻るまでは油断しないでくださいね」
「わかりました。ニクスも警戒ありがとう」
「ピィー!」
シフリーがこちらへと近づいてくる。
戦闘後なのに、とくに疲れてもいないようだ。
「ユーリオン様、目的達成の証ともなる魔石を回収しますので、もうしばらくお待ちください」
「わかりました。よろしくお願いします」
「回収が完了次第、帰還します」
「帰りは転移装置を使用するんですよね」
「はい、入り口付近まで転移できますので、安心してください」
ダンジョンには、神が用意してくれた挑戦者の為の転移装置がある。
1のつく階層へと、フロアボス攻略後に進める部屋から転移可能なのだ。
この装置のおかげで冒険者は来た道を歩いて戻らずに済む。
例えば10~20階層まで攻略していれば、1階層と11階層と21階層を自由に行き来できる。
「シフリー様、ここは戦闘の余韻で暑いですし、先にユーリオン様と戻られては?」
「確かに暑い。ユーリオン殿下、気が利かずに申し訳ございません。先に戻りましょう」
サウナとはいかないまでも、暑さは感じていたので、ありがたい申し出だった。
「では、お願いします」
「では後の事は任せる。我々6人は先に帰還しましょう」
僕らは転移装置である魔法陣の上に乗った。
転移先が絶対に安全とは限らないので、僕が一番奥だった。
魔法陣が光始めたその時、騎士団の3人がピエリスを掴み、4人で魔法陣から降りた。
「ユーリオン様! く、放せ!!」
「ピエリス!?」
僕とニクス、そしてシフリーだけとなり、転移装置は起動した。
そして移動先は1階層の入り口付近などでもなかった。
「最初から転移装置で仕掛けるつもりだったのか」
「ええ。道中やダンジョン内、フロアボス戦でも、仕掛けるつもりはありませんでした。
そこは信用してもらう為の準備期間だったのですが、結局信用してもらえませんでしたね」
「ここは?」
「31階層ですよ」
「僕は10階層までしか進んでいないのに何故……」
「同じパーティーに登録し、その半分以上が到達していれば、未到達の者も連れて行けます」
「……それは知らなかったよ」
勝利を確信しているのか、質問にも素直に答えてくれる。
「そして私がいなくては、30階層のフロアボスを攻略していない貴方は、この転移装置が使えない」
「ここまで一度も僕に戦闘させなかったのはレベルを上げさせない為か」
「さすが聡明でいらっしゃる」
「ここで僕を直接殺すつもりか?」
「それは違います。貴方はここでモンスターに殺されるのです」
「良いのか? 僕が生きてダンジョンから戻るかもしれないよ」
「レベル1の貴方が、何も持たずにですか?」
いつの間にか僕が持ってきていたカバンが奪われていた。
「それではさようなら。フラッシュ!」
僕が魔糸を使用するよりも早く、光属性の魔法で視界を奪われた。
なるほど、会話に応じていたのは、魔法を発動する準備をしていた為か。
油断していたつもりは無かったのだが、結果はこの通りだ。
転移装置でピエリスとは分断され、31階層に1人で置き去りとなり、荷物も奪われた。
ここまで戦闘をしていないので、体力はあるがレベルは1のまま。
ピエリスはあの場で8対1の状況なのだ。
助けを期待するのは難しいだろう。
「さて、どうしたものか……」
「……ピィー」
へこむ僕をニクスが慰めてくれる。
落ち込んでいる時間も、助けを待っている余裕もないだろう。
冷静になり、今、自分にできる事を考えるのであった。




