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【異世界転生】理想の執事を目指します  作者: 夜空のスピカ
第1章 プロローグ~誕生日パーティー
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異世界なら夢を叶えられる


 世の中何かを得るには、時間や労力、タイミングなど必要なものが多い。

 なのに、逆に何かを捨てたり、失ったりするのは一瞬であったりする。


 目に見えるものならば「金品」、見えないものならば「信頼関係」なんかが分かりやすく、

 イメージもしやすいだろう。


 得る事は難しいのに、失うのは簡単な事ばかりだ。


 だけど『夢』はどうだろうか?


 時間が経つにつれて妥協したり、諦めたりするのが普通で当たり前の事だ。

 それでも『夢』に対して本気であれば本気であるほど妥協できず、諦める事なんかできない。


 『夢』ほど自らの意思で捨てるのが難しいものは無いだろう。


 僕は子供の時から【執事】に憧れ、『夢』として目指した。


 きっかけは今でも明確に覚えている。

 5歳の時に見た執事が主人公のアニメだった。

 その執事は料理や掃除などの家事から主のスケジュール管理、雑学も豊富で文武両道。

 主であるお嬢様の無茶ぶりにも、笑顔で完璧に対応していた。

 まさにアニメだから可能な無敵の存在だった。


 一番好きな戦闘シーンでは、普段使いの白い手袋から、戦闘用の黒い手袋に切り替える。

 その指先から「鋼糸」を出して自由自在に操り、敵を翻弄し縛り上げていた。

 敵は剣や銃のような分かりやすく強い武器を使っているのに、執事が「鋼糸」という謎の武器で敵を圧倒する姿に強く憧れた。


 当時友達の間で流行っていた戦隊やライダー、ウルトラな巨人もカッコいいとは思っていた。

 でも、知らない誰かの為に戦うヒーローよりも、大切な誰かの為に活躍する執事の方が僕にとっては理解しやすく、執事が一番カッコいいヒーローに思えた。


 それからは執事が活躍する漫画やアニメは僕にとって教科書となった。

 参考になる部分は真似をしつつ、最高の娯楽作品としても楽しんだ。


 執事という『夢』を得てからは、僕の生活は変わった。

 積極的に家の手伝いをして料理や洗濯、掃除などの子供の自分でもできる家事を覚えた。

 料理だけは幼かった事もあり、なかなか包丁を触らせて貰えなかったので不満だった。


 小学校から中学校までは勉強や運動を中心に頑張りつつ、習い事も始めた。

 色々な人に係わる事で自分とは違う考え方も学べたし、苦手な人に対する我慢も覚えた。


 高校生になってからはアルバイトを始め、学ぶ為の資金を稼ぎつつ、社会勉強にもなった。

 成長するにつれて出来る事も増えるが、学びたい事が多すぎて追いつかない。


 人一人が自由に使える時間など限られているし、簡単に物事は覚えられない。

 アニメで見た執事のように、全てを完璧に行うのは現実では難しい。


 頭では分かっているのだ。

 アニメキャラのように完璧な存在には、なれるはずはない。

 「鋼糸」を自在に操るアクションなど、フィクションだから可能な動きだ。


 高校生にもなって、アニメキャラクターのような存在になりたいなどと。

 まして本気で目指しているなどと、自分が少し普通ではないと自覚はしている。

 それなのに高校を卒業する頃になっても『夢』は変わらず、幼き日に憧れた執事のままだった。


 高校を卒業し、大学へ進学した。

 子供の頃から学校の勉強も頑張っていたので、それなりの大学に入れた。

 大学では自分が受ける講義を自由に決められる為、時間の調節がしやすくなった。


 大学入学を機に、時給が良く執事服も着れるので、執事喫茶のアルバイトを始めてみた。

 執事服を着て働けるのは嬉しいし、楽しさも感じられたのだが、どこか虚しさもあった。

 やはりコスプレでは満足できず、本物になりたいという意思は、より強まった。


 大学3年生になり、本格的に将来を決めなければならない。

 いまだ夢を諦める事ができず、どうしたら良いのか悩んでいた。


 バイトからの帰り道であったその日も、目前へと迫っている将来について考えていた。

 今にして思えば、考え事をしながら歩いていたのがいけなかったのだろう。


 信号は青であったはずだし、歩きスマフォをしていたわけでもない。

 それでも僕は交通事故にあってしまい、残念ながら夢を叶えられず命を落とした。


 気が付くと明るくて白い空間にいた。

 車にぶつかったような記憶はあるが、死ぬような痛みの記憶はなかった。

 きっと即死できたのだろう。

 これは不幸中の幸いと思っても良いのだろうか。


 死んだはずなのに、どこか冷静に考え事をしている自分に少し驚く。

 普通は死んだ事に泣いたり、慌てたりするものではないか。

 今回の事で言えば事故である為、加害者に対して怒り、なんなら怨んでもいいはずだ。

 親より先に死んだ事に対する申し訳なさの気持ちも大きい。


 自分が冷静でいられる一番の要因は、あのまま生きていても夢を叶えられないと、頭のどこかで納得できずとも、理解していたからだろうか。


 そんなふうに色々考えていると、白い光がどこからか現れた。

 その白い光から、女性の声が聞こえてくる。


「お待たせしましたか?」

「……大丈夫。今、来たところです」

「デートの待ち合わせか!?」

 

 白い光からツッコまれた。


 ……なるほど、ふざけたつもりはなかった。

 だが、ツッコまれるという事は、コミュニケーションが取れる存在なんだろうと思った。


「……まぁ、いいわ。自分が亡くなった事は理解している?」

「はい」

「あなたには選択肢が2つあるわ。

 一つは全ての記憶を忘れて、この世界で生まれ変わること。

 二つ目は別の世界に記憶を引き継いだまま、生まれ変わること」

「別の世界ですか?」

「そう。

 あなたの魂は汚れておらず、サイズも大きいので、別の世界に送ることが可能なの。

 文明レベルは地球よりも低いけど、この世界には存在しない魔法があるわ。

 ……簡単に言うと、ラノベのテンプレみたいな世界ね!」

「大事な説明なのに端折った!?」


 これには、ツッコまずには、いられなかった。

 この存在は、めんどくさがりな性格なのだろうか。


 執事が活躍しない作品を読んだりする事はあまりなかった。

 でも、ラノベ好きな友人や、店のお客様におススメされて貸された作品は、読んでいる。

 なので、テンプレと言われれば何となくはイメージできた。


「私としては、別の世界に転生してほしいのよね」

「……テンプレ的には勇者となり、魔王を倒せとかですか?」

「いいえ。特に使命のようなものは無いわね」

「では、何故ですか?」

「……今はまだ、言えないわね」


 白い光からは、表情なんか分かるはずもない。

 それでも、こちらを騙して利用しようとするような悪意も感じなかった。


「すみません。 魔法には多少興味は惹かれますが、さすがにそれではちょっと」

「別世界でならば、あなたの夢が叶えられるかもしれないわよ」


 ……その言葉は僕には抗いようがなく、悪魔の甘い囁きのようにも感じられた。

 優しくて本当に良い家族だったが、日本の平凡な家庭に生まれたので、何のコネもない。

 勉強やスポーツだけでなく、武術やサバイバル知識なども学んだ。

 これまで様々な知識を幅広く得てきたが、極められたものは1つも無い。


 言ってしまえば、全てが中途半端で終わっている。

 何か一つの道を究める。

 あるいはプロと呼ばれる程度まで挑戦するのにも、莫大な時間が必要なのは当たり前の事である。


「別世界でならば、僕は夢を……理想とする執事のようになれるのですか?」

 

 こんな質問をしている時点で、僕の心の天秤は片方に傾いているのだろう。


「さすがに、夢が絶対に叶うとは約束できないわね。

 でも、貴方の夢を叶える為に必要な能力……ラノベ風に言うならばチートを授ける事ができるわ」


 ……この白い光はちょいちょいラノベを口にするが、ラノベ好きなのだろうか?

 選択肢があるとは言われたが、実質僕にとっては無いようなものだ。

 何か思惑があるのかもしれないが、夢を叶えるチャンスを貰えるのだ。

 少し恐ろしくはあるが、悪魔との契約だったとしても構わないだろう。


「わかりました。別世界への転生でお願いします。それと質問をいいですか?」

「いいわよ。答えられる範囲であれば」

「使命のようなものは無いとの事でしたが、逆にしてはいけない行動のようなものはありますか?」

 

 これは転生後の行動方針に大きくかかわるので大事な情報だ。


「細かいところでは無いわね。

 さすがに与えたチートで、戦争以上の無意味な大量殺戮や、

 各国の主要な女の子を大量に集めて、ハーレム無双とかは困るけど」

「……いえ、快楽殺人鬼でもなければ、女性に対してそこまでの欲望はありませんよ」

 

 理想とする執事のように戦闘ができるようにはなりたいが、殺しがしたいわけではない。

 女性に対しても、常に紳士的に振舞いたい。

 若く紳士な執事から最終的には好々爺とした〈爺や〉と呼ばれる執事のようになりたいのである。


「つまり女性ではなく、男性ハーレムを築きたいと!!」

 

 ……短い付き合いではあるが、これまでにないほどテンションが上がっている。


「少年からオヤジまで集めてホモいことするんでしょ!? エロ同人みたいに!!」

 

 ……白く光り輝いているのに、残念ながら腐っているのかもしれない……。

 とら〇あな辺りに帰ってほしいと心から願ったが、まだ転生させられていないので耐えた。


「いえ、ハーレム願望が無いという意味であって、僕はノーマルです」

 

 僕自身はノーマルだが、同性愛に対する偏見は特に無い。

 だからといって、自分がそういう対象に見られるのは嫌だ。

 性欲は薄い方かもしれないが、勘違いもされたくない。


「男の娘でハーレムを築いた場合はホモい事になるのかしら?」

 

 ……特定の層に戦争を仕掛けるような発言をしてきた。

 それにしても白い光は日本文化に詳しすぎではないだろうか。


「話がズレてきていますが、世界に大きく影響を与えなければ行動制限も無いのですね?」

「そうね。無いとは思うけど、控えてほしい行動をしそうな場合には連絡するわ」

「転生後に連絡可能なのですか?」

「そちらからは不可能よ。何かあれば寝てる時に、夢の中でこちらから連絡するわね」

 

 頻繁に連絡が来る事もなさそうだし、多少の睡眠妨害くらいならば良いかと思える。


「文化ハザードは発生しても大丈夫なんですか?」

 

 【文化ハザード】とはラノベ等でよくある現象だ。

 異世界に転移や転生した者が、知識によって世界の文化レベルに大きく影響を与える行為だ。

 僕が転生する予定の異世界の文化レベルがどの程度かわからない。

 先ほど現代社会よりは低いと言っていたし、確認しとくのは重要であろう。


「再現可能かは別として、核兵器みたいに生物だけでなく世界の環境を壊すものや、

 宇宙ロケットのように、世界に大きく影響を与えるようなものでなければ問題ないわ。

 これまでにも、転移や転生した人はいるし、一部の地域では地球の影響を受けているわよ」

 

 とりあえずパッと思いつく質問には答えてもらえた。

 後は転生後の環境次第であろう。


「わかりました。いろいろ教えて頂き、ありがとうございます」

「いいのよ。転生後の世界で、自分が与える影響について考えるだなんて、むしろ感心したわ。

 『ファンタジー世界だヒャッホー!!』みたいな方が多いし……」


 まぁ、異世界転生+チート=自分が世界の主人公と勘違いするのがいても仕方ないかとは思う。


「最後にひとつ能力とは別にお願いがあるのですが、よろしいでしょうか?」

「無茶な事でなければ、構わないわよ」

「ありがとうございます。

 転生先なのですが、上流階級や上級階級に近い中流階級にして頂きたいのです。

 それと家を継がなくていい様に、次男か三男辺りだと助かります」


 良い所に転生させてほしいというのにも理由がある。

 もちろん、スラムや下手な農民の所に転生してしまうと、自分を磨く暇も無いだろう。

 それどころか、生きていくのすら難しいだろうという打算もある。


 それに執事というと、男性の使用人というイメージが強い。

 だが、本来はある程度の家格がなければ就けない職業なのだ。

 現代知識もあり、チート能力も貰える予定である為、優秀な執事になれる自信はある。

 だが、家格が低ければ、せいぜい優秀な使用人として便利に使われて終わる可能性が高い。


「いいわよ、それくらいなら大丈夫」

「ありがとうございます。それではよろしくお願いいたします」


 最初に確認すべき大事な事であろうに、今更確認していない事に気づいた。


「今更なのですが、あなたは神様なのですか?」

「たしかに今更ね。私はあなたが今から転生する世界の神の一柱」

 

 表情なんか分からないのに、白い光が笑ったように感じられた。


「お名前を伺ってもよろしいですか?」

「教えても良いけれど、秘密にしとく。せっかくだから、転生後に当ててみて♪」

 

 どうやら僕を転生させてくれる神様は、神秘的で厳かなイメージの神様ではなかった。

 良い意味でどこか人間臭く、悪戯っぽい親しみやすさを感じる神様のようだ。


「わかりました。転生後に色々と調べてみます」

「では、転生させるために魂を向こうに送るわ。痛みや不快感は無いはずだから、安心してね」

「はい。お願いします」

「それでは良い人生を」


 その言葉を最後に段々と意識が遠のいていく。

 白い光だったので、顔を見て話せたわけではい。

 人とは呼べないのだろうが、それでも人を見る目はあるつもりだ。


 使命は無いらしいが、もしも何か頼み事をされたならば可能な限り協力しようと思う。

 そんなふうに考えながら僕は異世界へと送られていくのであった。







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