9:ワイ、王族から圧力を受けたンゴ
「ほら、これを使いなさい。」
王様が優しい声で差し出したのは、最高級の魔力回復ポーションだ。
しかし優しいのは声だけで、顔は険しく、ワイを射抜くような眼光を向けてくる。王様の隣にいる王女様も「早くしろ」と無言の圧力がすさまじい。なんか黒いオーラみたいなのが見えそうンゴ。
どうしてこうなったか?
王女様がキャンプ道具を好む理由は、実際に使ったら快適だったからだそうだ。2号店の話を進めたのは、視察に行ったらまだ知らない道具が大量にあったのと、知っている道具でも想像以上に種類が豊富だったことが理由だ。もしかしたら、もっと快適な道具や、もっと面白い道具があるかも、という期待を寄せている。たしかに、豊富な品ぞろえの中から色々探してみるのは楽しいよね。
「あるのか? あれ以上に快適な道具が?」
と、王様まで興味を示してきたので、
「ええ、まあ……あるにはありますが……。」
「すぐに出しなさい。」
答えるや否や、有無を言わせぬ迫力で命令が飛んできた。
左右から王様と王女様に手をつかまれて、引きずられるように庭へ連れていかれる。
「申し訳ありませんが、上等なアイテムの召喚には大量の魔力を必要とします。
今はスラム街の方々に物資の配給をしたばかりで、魔力の残量が乏しく……。」
引きずられながら伝えると、行き先が変わって医務室へ。
王城には王族の体調を管理する医師たちがいて、どんな状況にもすぐ対応できるように色々な医療品が備蓄されている。そして王様の命令で医師が魔力回復ポーションを取り出し、王様に渡した。
王様はそれを俺の前に置く。そして冒頭の状況だ。
「ほら、これを使いなさい。」
最高級のポーションなんて、平民には手が出せない代物だ。ワイなら巨大ショッピングモールが順調だから資金的には購入可能だが、休めば回復するのにわざわざ最高級のポーションなんて使おうと思わない。くれるからといって「じゃあ使おう」なんて気軽には思えないンゴ。
ただ、今回の場合は王様が「回復するのを待っている時間が惜しい」という判断でそうしているのだから、ここで遠慮するのは「自然回復するまで黙って待ってろ」と言うようなものだ。失礼である。無欲も時には相手を不快にすることがある。
「では、遠慮なく頂戴します。」
「うむ。」
ワイは最高級ポーションを飲んだ。たちまち魔力が最大まで回復した。
「よし、回復したな。」
そしてたちまち引きずられていく。今度こそ庭へ。
「それでは、まず現物をご覧いただきましょう。」
ワイはグランピングテントを召喚した。
「サイズの大きいテントですので、設営には少々お時間をいただきます。」
断りを入れながら、すぐにテントの設営を始める。
まずはグランドシートを広げるが、それだけで6mもある。ちょこまかと歩き回ってシートを広げていく姿を見て、王様がおつきのメイドたちに手伝うよう指示した。
やはり人数がいると早く設営できるもので、巨大なワンポールテントが出来上がった。正面から見た姿は三角形ではなく、五角形だ。ワンポールテントではデッドゾーンになりやすいテントの隅っこが、1mほどの垂直の壁になっていて、端まできちんと使える。
「基本このような代物ですが、お好みで様々なアイテムを配置していただきます。」
言いながら、いくつかのアイテムを出した。
まずは上品な絨毯を思わせるインナーマットを敷いて、キングサイズのベッドを1つ、ポールの奥に配置する。ポールに専用のパーツを取り付けて丸テーブルを作り、椅子の代わりにクッションを配置。テーブルに何もないのはさみしいので、コーヒーセットをイメージした食器とランタンを置いてみた。季節外れではあるが、薪ストーブも配置する。どうせ火は入れないし、完全に飾りだ。雰囲気が出るし、テントの天井部分には、それ用に煙突を出す穴もある。
テントの出入り口から、色を合わせたタープを張り、その下へソファとテーブルを置いて、ディナーをイメージした食器をならべる。タープからギリギリ外へ出したところに焚火台を置いて、火はつけないが薪を適当に配置する。焚火台に五徳をつけてもいいが……今回はトライポッドに鍋を吊るしてみよう。現地で木の枝でも拾って自作するならともかく、持っていこうと思うとトライポッドはけっこう荷物になるから、ソロキャンプではあまり使われない贅沢アイテムだ。
「……と、だいたいこんなところで、使い勝手をイメージしていただけるかと思います。」
どうぞ中へ、と招くと、王様と王女様が待ちきれない様子で駆け込んできた。
「おほー! まるで小さな城じゃ!」
「すごいですわ! これがセカンドさんの本気というわけですのね!?」
テンション爆上がりの王様、王女様。
そこでふと、今までどうしていたのか疑問が沸いた。
「当店から商品をご購入いただく前は、どのように過ごしておられたのですか?」
「それはのー……。」
と王様が苦い思い出を語るような顔で教えてくれたところによると、大抵は街の宿屋に泊まるらしい。もちろん最高級の宿を使うが、王侯貴族がそう頻繁に宿屋を使うわけもなく、最高級の宿屋といってもビジホ並だ。その客室はベッドがギリギリ置ける程度の広さしかない。まさに眠るだけの部屋。快適に過ごせるかと言えば、さすがに窮屈だと言わざるを得ない。ちなみに一般人が使う部屋は雑魚寝である。つまり個室という時点で最高級なのだ。
「それと思うと、すでに購入した道具でも十分すぎるほど快適じゃ。
すべてが手の届くところにあって、狭いのにゆったり過ごせるからのぅ。」
「ですわね。
でも、今回のこれはまた別格ですわ。そもそも広いですもの!」
グランピングテントに頬ずりする王様たちに、出したものは献上すると伝えると、上機嫌で解放された。ほっとして部屋を出ようとすると、
「まあ、娘をたぶらかした件は、これからの活躍次第でどうするか考えよう。」
と王様。
ぐは! 忘れてくれてなかったンゴ!
それから王都のスラム街が巨大ショッピングモール2号店に生まれ変わり、1号店以上に繁盛した。都市の人口がちがうから客入りが多いのは当然だが、それ以上に王侯貴族がよく来るのが大きい。王女が率先して入り浸っているのだから、ほかの貴族たちも無視できないわけだ。ゴマすりのためにも、話についていける程度の知識は必要だと一通り買っていってくれる。もちろん、そこからキャンプの魅力に目覚めてリピーターに早変わりである。
そんなある日、騎士以上に立派な鎧を身につけた青年がやってきた。
「セカンド殿はいるか!?」
何やらすごい剣幕だ。
今度は何事ンゴ……?




