8:ワイ、王都のマフィアに睨まれたンゴ
「てめぇ……若造のくせに、いい度胸じゃねーか。おお?」
あれから数日後。
ワイ、王都のスラム街を仕切るマフィアのボスに、めっちゃ睨まれてるンゴ……! ちなみにボスは白髪頭のおじいさんだ。目が隠れるほど眉毛が長い。体格はただのやせっぽちの老人だが、やたらと迫力がある。特に眼光の鋭さがヤバイ。何人殺せばあんな目になるンゴ? あと、構成員の皆さんにもぐるりと取り囲まれて、刺さるような視線が浴びせられてるンゴ……!
こ……怖いっ……! でも態度には出しちゃいけないンゴ。それは危険だ! 堂々としてろ! と前世のワイが全力で警告してくるッ……!
ワイは必死にボスのまつげを数えたンゴ。あたかも相手の目を見ているようで、実は目を合わせていないという、ビビりなワイが堂々と振る舞うための妙技。できるだけ視界をせばめて、余計なものが見えないように集中するのがコツだ。まつげ以外は何も見えない、まつげ以外は何も見えない……! すぐ横にある黒い眼玉がぎょろりとワイの目を射抜くように鋭い眼光を向けているのなんて絶対に見えないンゴ!
どうしてこうなったか?
あの貴族のご令嬢っぽい女の仕業だ。王都に2号店を出してほしいから手を貸すといわれて、あのあと事務所で話し合った。
ワイも2号店を出す計画はあるが、出せない理由がある。
1号店は、色々な幸運が重なって実現したのだ。最初にスラム街の住人を懐柔してキャンプ道具を使わせていたから、従業員として雇っても商品説明ができる人材になっていた。王様に大金をもらったので、初期費用も賄えた。スラム街に建設したから、地価が暴落していて初期費用が安く済んだ。しかもマフィアのボスに気に入られていたから、地上げの邪魔も入らなかったし、腕のいい大工も紹介してもらえた。
しかし、だからこそ、他の街に2号店を出そうと思うと、これらの要素が1つもないのだ。唯一、資金だけは1号店が売れまくっているから、それなりに用意できるかな。まだ開店してから期間が短いから、十分な資金が集まっているとは言えないけども。そしてとくに重要なことは、別の街に行けば、スラム街を仕切るのは別のマフィアだ。住人にアイテムを配布しているわけでもないから、ワイ自身も人気とかない。
「それなら手を貸すぜ。」
と、そこへパパさんが登場。都合よく登場したのは、パパさんのスキルが「機敏」だからだ。ちょっとした変化に敏感になるというスキルで、危機が発生する前に異変を察知したり、チャンスを逃さず掴んだりできる。だからマフィアのボスとして組織のかじ取りに手腕を発揮しているのだ。
そしてパパさんはスキルによって「これはチャンスだ」と察したのだろう。そのまま王都のマフィアに話を通してくれちゃったので、2号店の出店計画が進みだしてしまったのだ。だから、事の起こりはご令嬢の仕業だ。ちなみに、ご令嬢は足りない分の資金提供をしてくれるらしい。
そして実際に王都のマフィアのボスと面談することになり、実際に商品を見せたり店舗の図面を見せたり1号店の状況を記した書類を見せたりしつつ、2号店が成功するための計画を説明することになった。
もちろん、人相風体だけで怖がるなんて失礼がないように、堂々たる態度をとった。
そしたら、これだ。
「見たとこカタギのあんちゃんなのに、これだけワシらこわもてに囲まれていても堂々としたもんだ。
てめぇ……若造のくせに、いい度胸じゃねーか。おお? いやはや、大した肝っ玉だ。感心感心。」
「当然です。セカンドさんのやり方には、すでに立派な実績がありますから。」
ついてきたワイの嫁、エレナがいいタイミングで俺をどんどん持ち上げてくれる。そのバックアップを受けて、2号店出店計画はとんとん拍子に進んだ。エレナのワイを持ち上げる話術が巧みすぎて、マフィアの方々はすっかり乗せられ、何度も「ほぉ~」とワイに向かって感心していた。
エレナのスキルは「話術」なのか? でも、それなら恥ずかしがって秘密にするようなスキルじゃないと思うんだが……。
ま、とにかく、これでマフィアの協力は取り付けた。このあと王都のスラム街にもキャンプ道具や食料を無料配布して、しばらく使ってもらい、慣れさせた。そしてスラム街の住人がキャンプ道具に慣れてその快適さの虜になったところで、2号店の計画を打ち明け、従業員として働いてほしいことを伝えた。
もちろん満場一致で大賛成され、「これで人並みの生活が送れる」と泣く人までいた。
ここでワイに2号店出店を進めたご令嬢が再び登場。ワイを王城へ連れ込んで、王宮御用達の大工を紹介してくれた。
「王宮御用達の大工ってことは、王城の修理とかする感じの……?」
「その通りですわ。」
「どうしてあなたがそんな方と面識を?」
「それは、私が王女だからですわ。」
「ファッ!?」
王女? マジ? ……てか、王女の肝いりで出店する2号店って……。これでコケたら王女の顔に泥を塗ったことに……や、やばい……! 何としても成功させないと……!
「うふふ……これで王都にもあの店が……すごく楽しみですわ。必ずや成功させてくださいましね。」
がしっとワイの手を両手でつかみ、王女は期待しまくった目でワイを見てくる。
すごいプレッシャーなんですけど!?
「おやおや? これは驚いた。
余の娘をたぶらかすとは……王都のスラム街まで改善してくれるのはうれしいが、ちょっとじっくり話し合おうか、セカンドくん。」
なんかいいタイミングで王様まで出てきたンゴ!?
は、ハメられた……!? これ、ワイ、どうなるの!?