7:ワイ、貴族のご令嬢っぽい女にクレームを入れられたンゴ
「どういう事ですの!?」
騎士たちを引き連れたどこぞのご令嬢は、なぜかご立腹だった。
市民でにぎわう巨大ショッピングモールに、ぞろぞろと騎士なんか引き連れて乗り込んできた挙句、どう見ても貴族のご令嬢っぽいドレス姿の女に怒鳴り散らされたのでは、店の評判に影響しかねない。「あの店、貴族の反感を買ったらしいぞ」「利用したら俺たちまで貴族に目を付けられるかもしれん」なんて噂になった日には、売り上げが激減すること間違いなしだ。
クレーム対応――前世が営業職の二郎だったワイには、そのノウハウがある。今回の場合だと、バックヤードに連れて行って詳しい話を聞こうとかするのは愚策だ。ほかの客の迷惑になるからとか考えたのだとしても、見た人からは「外聞が悪くて隠そうとしている」と勘違いされかねない。この場で対応しよう。まずは、相手の立場になって、寄り添った態度をとるのが基本だ。
「お客様、どうなさいましたか? 店の者に何か不手際がございましたでしょうか?」
クレームの理由なんて、大別したら2つしかない。
1つは「商品自体に欠陥があった」というものだ。不良品だとか、注文通りの品ではないとか、サイズを間違えたとかである。
もう1つは「店員の対応に問題があった」というものだ。態度が悪いとか、商品説明ができないとか、待たせすぎているとか、そういうやつだ。
これらは、どちらにせよ「店にとって改善できるポイント」であり、今まで気づいていなかった改善点を指摘してくれるという意味で、金言である。受け入れて改善すれば、サービスの向上による収益の増加が見込めるだろう。
例外的に「単なる客のわがまま」という場合もあるが、その場合は責任者と交代して、毅然と断ってもらうのがいい。ちなみにワイの場合は自分が責任者だから本来は交代できないのだが、相手が裏社会の後ろ盾をにおわせてきた場合のみ、パパさんを頼るという手が使える。
「どうもこうもありませんわ! この店はどうしてこんなに立派で、にぎわってますの!?」
ご令嬢から予想外の言葉が飛び出した。
騎士を連れた貴族のご令嬢かと思ったら、私兵を連れた大商人の娘だったのか? ライバル店の偵察に来たとか、そういう事だろうか?
「お褒めにあずかりまして、光栄に存じます。
店舗が立派になりましたのは、国王陛下からの資金提供という望外の幸運を賜ったことが大きいかと存じます。あとは工事を頼みました業者の腕がよく……。
それから、ご好評をいただいておりますのは、商品の品質と豊富な品揃え、そして従業員の教育によるところが大きいかと思います。当店の従業員は、一通りの商品を実際に使って、使い方や良し悪しなどを承知しておりますので、お客様のご要望に合わせて最適な商品をご紹介できます。」
巨大ショッピングモールどころか、スーパーマーケットだってこの世界にはまだ存在しないンゴ。それは、株式会社みたいな「大勢で資金を出し合って1つの店を作る」という発想がまだないからだ。店という店がみんな個人商店なのである。その意味ではワイの巨大ショッピングモールも個人商店なのだが、ワイみたいに王様から大金もらった上に地価が暴落しているスラム街を使ったのじゃなければ、個人で巨大ショッピングモールを作るのは無理ゲーすぎる。建設予定地からの立退料を吊り上げようと居座るマフィアや住人もいなかったし。他じゃ真似できない幸運がいくつも重なった結果だ。
店を建ててくれた大工たちについても、たまたま腕前が良かったのではない。マフィアの情報網で、業者の良し悪しを把握していたから、パパさんに勧められたところを使っただけだ。
そして、事前にキャンプ道具を配布して使ってもらっていたスラムの住人を従業員にするという発想。これだけはワイの手腕だと誇ってもいいだろう。説明とか手続きとかはマフィアの皆さんに手伝ってもらったが。
使い慣れている道具をレビューするだけなので、接客業に慣れていない人でも割と簡単に商品説明ができる。しかも実際に使っているという事実が、その語り口に真実味や説得力を与え、必要以上に詳しい説明を可能とする。微に入り細を穿つというやつだ。勉強して覚えただけの従業員とは一線を画する。ほかの店がいくら従業員に研修を受けさせても、これはまず真似できないだろう。
商品の品質と品揃えについては、完全にスキルのおかげだ。この世界のアイテムではなく、前世の世界のアイテムを召喚できるので、圧倒的な技術力の差によって、召喚したアイテムが高品質と評されることになる。異なる世界を比べるわけだから一概には言えないが、この世界は前世の世界よりも500~800年ぐらい遅れている。
以上が、我が巨大ショッピングモールの強みだ。
まあ、あまり詳しくしゃべると自慢話みたいになってしまうから、簡潔にまとめておこう。
「非常に優れた経営手腕をお持ちという事ですのね。よくわかりましたわ。でも!
それだけの手腕があって、どうして王都に出店しないんですの!?
おかげで、この街まで来ないと買えないじゃありませんの!」
おっと……。これはまた、なんとも嬉し困ったクレームが来たものだ。
周囲のお客さんも「貴族に反感を買ったんじゃないのか」「むしろ気に入られたっぽいぞ」と、見る目が変わってきた。とりあえず評判は落とさなくて済みそうだ。
「そうですね。2号店を出す計画はあるのですが、実現はまだ先になりそうです。」
「手を貸しますわ! できるだけ早く、王都に店を出してほしいですの!」
「……であれば、詳しいお話を伺いましょう。
経営の話になりますので、事務所へお越しいただけますか?」
ここから先は一般のお客さんに聞かせる内容ではない。
ワイは、ご令嬢と騎士たちをバックヤードに連れて行った。