57 ワイ、キャンプしかしてないンゴ
場所はエルフ王国、その中でも「精霊の住処」と呼ばれる、森の最深部。ここには、精霊の強力な影響によって、季節を無視して草木の花々が咲き誇る。ワイに分かるのは桜ぐらいで、梅と桃の区別もつかないが、エルフ王やロシェルは植物に詳しいらしく、
「そこのピンクの花はゼラニウム、あっちの黄色の花は菜の花、こっちの紫と白と赤のもじゃもじゃしたのはヒヤシンスで……。」
「そこの奥にあるオレンジ色のはフリージア、紫と白が混じってるのがペチュニア、その隣の紫のブドウみたいになってるのがムスカリです。」
「この青いのは?」
「ワスレナグサですね。」
「これがそうか。名前だけ知ってる。」
「他に名前をご存じの花はありますか?」
「月下美人とか。」
「あれですね。あの白い花。本当は夕暮れから夜に、香りの強い花を咲かせ、朝にはしぼんでしまう神秘的な花です。」
「……昼間なんだが。」
「それが精霊の影響なんです。」
「あっ! あれは知ってるぞ。あれだ、あの~……ほれ。秋に咲くやつ。」
「コスモスですね。」
「そう、それ。」
「ちなみに、これは分かりますか?」
「タンポポ?」
「いえ、これは菊です。」
「ちっちゃいな。」
「そういう品種ですから。」
「冬の花はある?」
「クリスマスローズ、シクラメン、シャコバサボテン、プリムラ、オステオスペルマム、エリカ、パンジー、ノースポール、アネモネ、マーガレット、スノードロップなどが咲いていますね。」
1つ1つ指をさしながら教えてくれる。
正直覚えきれないンゴ。
花が咲く季節とかよく知らないから、すごさはいまいちピンチ来ない。けど、この一面に咲き誇りまくる圧倒的な花の数は、背の低いものだけでも絨毯のようで、森だから背の高い木もあって、まるで飾り付けまくったイベント会場みたいにきらびやかだ。
「美しい光景じゃな。
人間の手が入っていない事によって……というのが、なんとも皮肉じゃ。こういう光景を見ると、発展するばかりではダメだ、自然を大切にしなくては、と感じるのぅ。」
ミネルヴァの父が感慨深そうに言う。
ワイは椅子を召喚して、人数分ならべた。これだけきれいな花の絨毯が広がっているのだから、グランドシートなんて無粋だろう。タープすら邪魔になる。見上げれば青空に花が割り込んでくる美しい光景だ。タープなんか張ったら邪魔にしかならない。焚火も必要ない。火なんて燃やさなくても花萌えすさまじい光景だ。キャンプというより花見だけど、そこはどっちでもいいンゴ。デイキャンプなんてただのバーベキューじゃねーか、という意見もあるからね。キャンプと言い張る利点は、ソロでやっても寂しくないという事ぐらいだろう。
それから清酒を召喚する。こういう場合には、ビールやワインより清酒だろう。
全員に酌をしていく。
「花の良し悪しはよくわからんが、酒によくあう風景だというのは分かるぞい。
家の庭がこんな事になっておったら、1人でのんびり静かに飲むのもよかろうな。」
ドワーフ王が酒杯を眺めて目を細める。
その酒の水面に、上の方にある花が映っていた。ひらりと風に吹かれて、桜の花びらが酒杯に浮かぶ。
自宅でのんびり一人酒か。それも悪くない。それを屋外でやるとキャンプになるわけだ。
「ふ……なるほど、こいつは風流だ。」
いつも眼光鋭いエレナの父が、ほおを緩める。
「それじゃあ、ミネルヴァの体調が戻ったことを祝って、乾杯!」
「「乾杯!」」
ワイが音頭を取って、全員が酒杯を掲げる。
しおれた花みたいになっていたミネルヴァも、今や元気を取り戻している。
「私のスキルのことは、くれぐれも内緒にしてくださいね。」
「大丈夫です。あんな危ないスキルは口外できません。」
「ミネルヴァ奥様にはお体を大事にあそばせドワ。」
「そうですね。あれほどの負担がかかるスキルを、そう何度も使うわけにはいきませんもの。
……ま、それを強いた私が言えた義理ではありませんが。」
「それは言いっこなしですわ。
ロシェルだって一生に一度のスキルを使ってしまいましたし。」
嫁たちがワイワイやっているのを、ワイはのんびり眺めていた。
ふと気づくと、父親たちも同じような顔をしている。
エルフ王と目があった。
「セカンド殿。命を救ってくれたお礼を渡すと話しておいたが、覚えているか?」
「ああ、なんかそんな事言ってましたね。
人間電話機になっただけで、大した事はしてませんが。」
「いやいや、大した事だとも。
今日ここへ来てもらったのは、セカンド殿に祝福を与えるためだ。
さあ、受け取るがいい。
エルフ王の名において、セカンド殿に精霊の祝福を与える。」
ふわっと、何か光の粒のようなものが雪みたいに舞い降りた。
それはすぐに消えてしまったが、ワイは自分の中に新しい力が宿ったことを感じた。
「精霊の祝福によって、セカンド殿に魔法の才能が与えられた。
上位精霊が直接与えるような強いものではないが、初歩の魔法ぐらいなら一通り使えるようになるだろう。」
「おお……! ついにワイも魔法を覚えられるようになったのか!」
人間だと、魔法系のスキルがなければ魔法を使えない。
あ、でも、スキル自体が魔法みたいなものか。ワイのスキルも「キャンプ」と「召喚」が混じってバグって「キャンプ道具召喚」になってるが、「召喚」だけでも魔法だし、「キャンプ」というのも「訓練せずに上手にできる」という魔法だ。キャンプもそうだが、戦士とか剣術とかの適性系スキルは、それに応じてパワーやスピードも上昇するから、身体強化の魔法と考えてもいい。
まあ、それをいったらレベルだのステータスだのというのも魔法だが。
だが、だとしても、いわゆる「魔法」を覚えられるようになったのは嬉しい。あまり強くないという話だから、威力には期待できないが、マッチの火とかうちわの風とかぐらいだったとしても、ワイならキャンプに使えて便利だろう。
「セカンド殿。余からも礼を言う。
おとりになってもらったようで申し訳ないが、国内の風通しはよくなったし、他国との関係は改善するし、セカンド殿のおかげで非常に助かった。」
ミネルヴァの父が、酌をしてくれた。
王様にお酌をしてもらうなんて、なかなかレアな体験だ。
ドワーフ王にはさんざん飲まされたけど。
「そんな風に言われると恐縮ですが……。」
そんな大した事はしてないつもりンゴ。
月曜発売の少年漫画によく出てくるような、大けがしても無視して動く超絶熱血系主人公みたいなことはしてないし、国内の風通しが良くなったとかちょっと何言ってるか分からないンゴ。領主1人クビにしたぐらいで、そんな風通しよくなるかな?
よくわからないけど、とにかく目の前にある光景はすごい。なんせ王様3人と王女3人、マフィアのボスとその娘。どんだけ~。国際会議か? 首脳会談か? これがきっかけで国連とかできちゃう流れか?
「……どうしてこんなに成り上がっちゃったんだろ。
ワイ、キャンプしかしてないンゴ。」
このあと、ためしに火の魔法をつかったら、めっちゃデカい火が出てビビったンゴ。
ワイ、レベルが高くて魔力有り余ってるからね。




