55 エルフ王の復活
エルフ王国の王宮では、宮廷医務官が集められ、交代でエルフ王に回復魔法をかけ続けていた。
ちなみにエルフ王国の宮廷医務官は、名前が「王宮神官団」というのだが、そんなのは日本で言う国会が、中国では全人代と呼ばれているという程度の、些末な違いだ。どうでもいいだろう。
とにかく彼らの献身的な回復魔法を受けて、エルフ王は毒素の排出に努めた。
「おお……これは極楽であるな。」
とマッサージを受けたり、
「うぐっ!? こ、これは、わりと強烈な味であるな……。」
と薬膳料理を食べたり。
とにかく代謝を活発化させるため、4号店から風呂も取り寄せて、あの手この手を尽くした。
排出そのものを促すために、大量に水分をとるので、エルフ王は腹がちゃぽんちゃぽんになったが、治るとわかったからには早く治して娘を安心させてやろうと、がぶがぶ飲みまくり、じゃーじゃー出しまくった。
そうして何度目……いや、十何度目かの排泄を終えたところで、エルフ王は急に体が軽くなったように感じた。
そこからは早かった。わずか一晩、ぐっすり眠っただけで、翌朝には元気いっぱいにピンピンしていたのである。
「治ったぞ!」
即座にセカンドへ念話を飛ばした。
これのおかげで命拾いしたのだから、セカンドをエルフの盟友に認定しておいた自分の慧眼が誇らしい。というか、やはり他国との融和は重大な国益をもたらす優先事項なのだ。
『治りましたか。おめでとうございます。』
「うむ。セカンド殿には、またも助けられてしまったな。念話ゆえ言葉しか贈れぬが、感謝しておる。いずれまた会いに来てほしい。またあの時のようにキャンプでもしながら、じっくり語ろうではないか。お礼に渡したいものもあるしな。
ああ、そうだ。ロシェルにもう心配ないと伝えてくれ。」
『分かりました。言ってみます。』
上機嫌に話すエルフ王だったが、セカンドから帰ってきた言葉にはどこか硬いものがあった。
「……どうしたのだ? 何か悩み事か?」
『ええ、まあ……そうですね。
1度こちらの親類を集めて、エルフ王国に向かいましょう。』
「おお、そうか! 待っておるぞ。」
◇
というわけで、セカンドが親類を集めてエルフ王国にやってきた。
それは、エルフ王の予想よりもそうそうたるメンバーだった。
まずは筋骨隆々のドワーフが1人。その髭には、王を表す5つの三つ編みがなされている。
「お初にお目にかかる。ワシが今代のドワーフ王じゃ。
セカンド殿にご迷惑をおかけした縁で、娘のゲルダがセカンド殿の奴隷をやっておる。」
次に荘厳な雰囲気の人間が1人。頭には宝石をちりばめた赤い冠、サンタクロースかよと言いたくなる赤白カラーのマント、金銀をあしらった派手な服、手にはこれまた宝石をあしらった錫杖。ミネルヴァの父、国王その人だ。
「久方ぶりじゃ。隣国というのに、なかなか会えぬものじゃな。
娘のミネルヴァが、セカンド殿の嫁をやっておる。結婚式には、我が国に駐在している大使が出席してくれたのじゃったな。」
さらに、眼光鋭い恐ろし気な人間が1人。今にも呪い殺しそうな目で、エルフ王を見ていた。
「エレナが世話になったのぉ。同じ男に嫁いでおいて、殺されるとは思わんかったわ。」
さらに、セカンド、エレナ、ミネルヴァ、ロシェル、ゲルダが続く。
このとき実際にエルフ王国を訪れたのは、彼らの護衛を含めて100人規模になる。エルフ王国始まって以来と言ってもいい規模の、他種族の大規模入国だった。
「まずは事実の説明を。
かくかくしかじかで、エルフ王に毒を盛った犯人に対して、こちらも無関係ではなくなりました。」
セカンドが冷静に起きたことを並べていく。
時系列でいうと、最初にエルフ王が毒を盛られ、ロシェルが脅され、そのあとエルフ王国でセカンドがキャンプして、ロシェルが脅された通りに嫁いだ。そしてエルフ王の容体が悪化し、セカンドを通して治療法は伝えたものの、不安に駆られたロシェルはセカンドを暗殺しようとして失敗。このときエレナのスキルが発動して、セカンドをかばい、代わりに死亡した。そしてミネルヴァが隠していたスキルを使ってエレナを復活させた。
なお、大量の生命力を失ったミネルヴァは、頭が白髪になり、頬がこけている。まるで枯れる寸前までしおれた花のようだ。
エレナはすっかり元気になっているが、その胸元には傷跡が残った。
「なんと……ロシェルが……それは……エルフの大恩人と仰ぎながら、なんたることを……。」
エルフ王は、謝る言葉も見つからない様子でうろたえるばかりだった。
膝から崩れ落ちるようにその場にへたり込み、セカンドに深々と頭を下げる。土下座だった。
「いえ、私はエレナのおかげで無傷でした。
素晴らしい妻を得たと思いますが、それだけにエルフ王に毒を盛り、ロシェルを脅した犯人を、なんとしても探し出さなくてはなりません。」
「エレナ殿も、エレナ殿のお父君にも、娘が大変申し訳なく……。」
エルフ王は、エレナとエレナの父にも頭を下げる。
「申し訳ございませんでした!」
ロシェルが飛び出し、エルフ王に並んで頭を下げた。土下座である。
すでにロシェルは、ここへ来るメンバーを集めて回るときに、個別に頭を下げている。しかし自分のせいで父が頭を下げているのを、ただ見ている事はできない。
そうして頭を下げる2人に、エレナが声をかける。
「頭を上げてください。
私はセカンドさんを守って死ねたことを誇りに思っています。
蘇生できたのは望外の喜びですが、同じ被害者同士、ロシェルやエルフ王を恨む気持ちはありません。」
「娘もこう言っとる。
あんたらを恨むのは筋違いじゃ。
しかし、エルフ王陛下に毒を盛り、ロシェル王女を脅した犯人には、きっちり落とし前をつけさせてやらにゃならん。」
と、そこで最も関係性の薄いドワーフ王が、ため息交じりに腕を組む。
「問題は、どうやって犯人を見つけるかじゃ。」




