49 ワイ、新しい嫁を歓迎したンゴ
4号店が安定し、キャンプも楽しんで、ワイらはエルフ王国から自宅へ帰った。
なんか自宅の登場が久しぶりかもしれないけど、1号店のある元スラム街の区画に、ワイの嫁1号エレナの実家がある。その近くの空き地にテントを建てて、そこを自宅にしているンゴ。極地の観測隊とかが使うような球体に近い感じのテントで、同じタイプのテントと連結して内部を拡張できる。
このタイプのテントは、設営や撤収が面倒くさい。その代わり、球体に近いので形状力学的に雨風に強く、倒壊しにくい。まあ、ものはテントだから、ちゃんとペグダウンしないと強風が来たら飛んでしまうけどね。
「久しぶりの自宅ンゴー!」
とりあえずベッドに身を投げ出してリラックス。
このまま眠ってしまいたいが、頑張って体を起こし、テントをもう1つ召喚して連結する。新しくワイの嫁になったエルフ王女ロシェルの部屋だ。1人で設営するのが難しいテントなので、エレナやミネルヴァにも手伝ってもらった。ゲルダは頼むまでもなく手伝ってくれた。
作業に慣れている度合いはエレナが一番だった。やはり最初からワイのそばにいるだけの事はある。
このタイプのテントを見たことがないロシェルと、道具自体を偏愛して作業に身が入らないミネルヴァは戦力外だった。
「それじゃあ、歓迎会のティータイムといくか。」
「そうですね。」
「まずは薪割りですわね。」
「お任せあそばせドワ。剣術に通じるものがありますドワ。」
まあ、基本的には刃物を振り下ろすだけだからね。そういう意味では剣術も薪割りも包丁も一緒ンゴ。変に力を入れて振り下ろさないで、重さに任せて落とすようにしたほうが奇麗に割れる。これは剣でも包丁でも同じだ。
ちなみに、両手斧で薪を割る場合には、右足を前、左足を後ろにするといい。振り下ろす動作にプラス補正がかかる。なぜか知らないけど、人体はそういう風にできてるンゴ。だから剣術でも、基本的には右足が前になるように構える。
逆に、ノコギリを引くときは、左足を前、右足を後ろにするといい。引く動作にプラス補正がかかる。これもなぜそうなるかは知らないけど、人体はそういう風にできてるンゴ。だから、槍は必ずそう構える。突くのには力がいらなくて、体ごとぶつかっていく感じにすればいいが、突き刺さった穂先を抜くのには力がいるからだ。刺さった刃物は、相手の筋肉が緊張することで抜けにくくなる。
……ま、残酷な話はおいといて、クッキーと紅茶でも召喚するンゴ。
「んじゃ、ゲルダ、薪。」
「お任せあそばせドワ。」
召喚した薪を渡すと、ゲルダがさっそく外に出て薪割りを始めた。
「エレナは焚火台を。」
「はい。組み立てておきます。」
エレナは倉庫代わりにしている部屋へ向かい、折りたたんで収納している焚火台を引っ張り出した。
「ミネルヴァは、ティーセットの用意。」
「お湯が沸くまで大したことはできませんわ。」
ミネルヴァは食器をしまっている箱から、ティーセットを取り出した。
配置だけすると、ワイが召喚したクッキーを受け取り、配っていく。
そのころにはエレナも焚火台の組み立てを終えており、ゲルダもとりあえず焚き付けに使うフェザースティックと細めの薪が数本ぐらいは準備できていた。
ワイが自分でやるのと比べると、ゲルダの薪割りだけが異常に早い。剣術スキルでプラス補正でもかかっているのだろう。
エレナがすぐに焚火台に火を入れ、その火が育つ間にゲルダがさらに薪を用意する。だんだん割る回数が少なくて済む形になるので、火をおこしながら薪を割るのは意外と簡単である。
「んじゃあ、水召喚っと。」
本当ならタンクか何かに水を入れて運んでくるところだが、ワイは召喚できるので便利だ。いきなりヤカンに水を召喚できる。
湯を沸かすだけならフライパンのほうが熱効率がいい。底面が広いから、効率よく熱を受け取れるのだ。しかし、焚火でそれをやると、ススが大量につく。フライパンは浅いので、湯を注ぐときにススまで一緒に入ってしまうンゴ。だからインスタントラーメンを作るなら、煮るタイプを使うべきだ。お湯を注ぐタイプを使うなら、せめて鍋を使うといい。今回はヤカンを使うけども。やはり1つの機能に特化した道具というのは、使い勝手がいいものだ。
「あとは任せた。」
「ええ。お任せください。」
ミネルヴァに丸投げ。
紅茶のおいしい淹れ方というのがあるらしい。カップにお湯を注いでカップを温めたあと、そのお湯は捨てて、改めて紅茶を淹れるんだとか。今は正直ワイにはそこまで違うように思えないけど、ミネルヴァの紅茶に慣れてから自分で適当に淹れたら、マズイと思うかもしれないンゴ。
「それじゃあ、準備もできたところで、ロシェルの歓迎会を始めるンゴ。
ようこそ、わが家へ。」
「仲良くしましょうね。」
「歓迎しますわ。」
「よろしくお願いしますドワ。」
「は、はい……皆さん、よろしくお願いします。」
「緊張してますか? 楽にしてくださいね。」
「遠慮は無用ですわ。同じ妻同士ですし、ここには王女が2人いますし。」
「そのうち1人は奴隷ですドワ。」
「は、はぁ……。
なんだか圧倒されてしまって……。というか、自宅までテントなのですね。」
「ワイはキャンプが大好きだからしょうがないンゴ。」
「スラム街を救ってくれたのは、セカンドさんが召喚するキャンプ道具ですから。元スラム街の住人にとって、キャンプは遊びではなく日常生活なのです。しかも従来より豊かに過ごせるようになりました。」
「兄上を救ったのもキャンプ道具ですわね。近衛騎士団の護衛任務用にも購入しましたし、我が国にとってはセカンドさんのキャンプ道具は軍需品ですわね。」
「ドワーフ王国は、それに目がくらんでご迷惑をおかけしてしまいましたドワ。」
う~ん。なんだか懐かしい。




