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47 ワイ、エルフ王国でキャンプするンゴ

 さあ、いよいよエルフ王国の特産フルーツ食べまくりキャンプだ。

 まずはエルフ王国でも随一の景観だという湖畔へ移動した。

 木々に囲まれた側面と後方、そこそこ平らな地面、正面には開けた湖。しかもその水が非常に透明度の高いきれいな水だった。素晴らしい景観だ。ずっと遠くまであまり起伏がない地形なので、山が湖面に移りこむ「逆さ富士」的な美しさはないが、泳いでいる魚がまるで空中を飛んでいるかのように見えるほどの透明度だ。これを幻想的といわずして、なんというのか。船でも浮かべたら、自分が空を飛んでいると錯覚することだろう。風もなく、湖面には波1つないので、余計にだ。


「ここをキャンプ地とするッ!」


 この素晴らしい景色を楽しむために、解放感あふれるタープ泊といこう。

 2本の木にタオルを巻いて、その上からロープを結ぶ。ロープはタープに結び、洗濯物を干したような形になる。

 タープの、木に結んでいない側のループを使って、地面にペグダウン。このときタープが斜めになるように角度をつける。その角度はおよそ45度。荷物の量などに応じて最適な角度に調整すればいいが、要するにこれは屋根と壁とを1枚の板で兼ねる形である。

 後ろは見えないが、正面と左右は遮るものがなく、視界良好。つまり森の中にいる気分と、開けた湖の風景とを視界いっぱいに楽しめる。

 地面にはグランドシートを敷いて、その上にマットを敷く。マットの上に寝袋を広げれば、そこが寝床だ。しかしまだ寝る時間ではない。マットを敷けるだけのスペースを残しつつ、マットは折りたたんで座布団ほどの大きさにする。その上に座って、左右に荷物――燃料・食材・調理器具などを置き、正面には焚火台だ。さらに焚火台の左右にローテーブルを広げて、調理中に作業できるスペースとする。

 設営が終わったら薪割りだ。しかし今回は、薪割をしない。薪割りというのは、大きすぎる薪を火がつきやすい大きさにカットするのが目的である。ならば、森の中でそんなものは必要ない。焚き付けには枯葉が最適だし、薪と枯葉の中間燃料としては枯れ枝が最適だ。森を歩けばいくらでも手に入る。

 そうこうしているうちに、日は傾き、急速に夜が近づいてくる。


「それでは、火入れの儀……着火ッ。」


 マッチで枯葉に火をつけ、さらに枯葉を追加して火を大きくする。

 そこへ枯れ枝を追加して、火をさらに強める。

 暗くなるほど、火が美しい。

 何度も経験すると思うのだが、火には「勢い」と「強さ」が別軸として存在するようだ。

 枯葉や紙などを大量に燃やすと「勢い」は強くなるが、それで太い薪に火をつけられるわけではない。

 一方、枯れ枝や細い薪を燃やすと、火の大きさ「勢い」は弱まるが、そこから太い薪に火をつける事ができる。これが「強さ」だ。

 たぶん科学的にはもっと別の言い方があるのだろうが、直感的には「火の強さ」と「火の勢い」は別であるように感じるのだ。それは、火を直接食材に当てるか、炭火の遠赤外線効果でじっくり焼くか、という違いにも通じる。前者は表面だけが素早く焼け、後者は中までじっくりと火が通る。太い薪に火をつけるには、後者の加熱方法が必要なのだろう。


「さて、まずはパフェから作るか。」


 パフェなんてものは簡単だ。まずは容器。透明なグラスがいい。そこへ生クリーム、スポンジ、フルーツを盛り付け、上からチョコレートやベリーなどのソースをかけて完成だ。要するに盛り付けるだけ。

 問題は、生クリームの完成品が売ってないという事だ。牛乳パックみたいな紙容器に入った液体の生クリームをせっせと泡立てなくてはならない。それは面倒くさいので、今回は完成品で売っているホイップクリームで代用する。

 生クリームとホイップクリームの違いは、生クリームが動物性脂肪分だけでできているのに対して、ホイップクリームには植物性脂肪分も使われている事だ。色も生クリームのほうが少し黄色っぽい。味は生クリームのほうがコクがあって口溶けが良い。つまりホイップクリームは、さっぱりしていて口に残るのだ。けどまあ、そのぐらいは問題ないだろう。これで店を出すわけじゃないし。

 ついでにアイスクリームも召喚して、盛り付けてしまおう。同じクリームだし、パフェにアイスが乗っている事なんて珍しくもない。チョコ・ミント・ベリー・栗・芋・ナッツなど、アイスのほうが味の種類が豊富だ。

 スポンジには、カステラとウエハースを使う。代用品だが、これも作る手間を省くためだ。スポンジを作るなんて……工程を考えたら、キャンプでやるには面倒くさすぎる。ケーキ用のスポンジなら売っているから、それをちぎって盛り付けるのもいいだろう。今回は、底にザラメが残っている、しっとりタイプのカステラを使う。ザラメなしのふんわりカステラなら珍しくないだろうが、ワイはザラメありのしっとりカステラのほうが好きだ。だからスポンジも使わない。好きなものだけを厳選して盛り付ける。

 フルーツはもちろんエルフ王国の特産品を使う。名前はまだ覚えてないが、見たこともない形のフルーツばかりだ。うへへへ……じゅるり……!


「盛り付けて……完成っと。

 さて、次にパイを作ろう。」


 アイスクリームが解ける前に、手早くやろう。もちろん最大限に完成品の市販品を使って時短する。

 パイも作り方は簡単だ。パイ生地と具材だけ。乗せて焼いて冷ませば完成だ。パイ生地は、パイシートというのが市販されている。好みの形にカットして、2枚で具材を挟み、焼けばいい。上になったパイシートに溶き卵を塗ると、いい感じに仕上がる。

 焼くには、オーブンのような環境で200度を保ちながら15~20分。フライパンにふたをしてもいいが、今回はちょっと特別な焚火台を用意している。ピザ窯機能付きの焚火台だ。足が長い焚火台で、地面から距離がとれるために、地面に芝生や枯葉があってもそれらを焦がす心配がない。そして薪を入れる部分のすぐ下に、空っぽの引き出しがある。もちろん灰が落ちてこないように受け皿が間に用意されているが、この空っぽの引き出しにピザなりパイなりを入れれば、中でオーブンみたいな環境になって、いい感じに焼けるというわけだ。

 パイを焼いている間に、次へ移ろう。


「次はケーキだな。」


 これも作るのは簡単だ。スポンジは売っているし、ホイップクリームも売っている。フルーツをカットしてスポンジに盛り付け、ホイップクリームを塗ってデコレーションすれば完成である。

 ちょうどパイが焼けたので、焚火台から取り出して冷ましておく。

 さて、冷めるのを待つ間に、最後の調理に取り掛かろう。


「次はタルトだ。」


 タルト台というものが売っている。タルトの台の部分だけ、あるいは台の中にスポンジが入った状態のものだ。これにフルーツを盛り付けて、ホイップクリームやカスタードクリーム――カスタードクリームも完成品が売っている――を盛り付けて完成。要するに盛り付けるだけだ。

 20分と少しが経過したことで、パフェに使ったアイスクリームが溶け始めている。ちょうど食べやすい硬さになったところだ。


「よっしゃ! いただきまァ~す!」

「いただきます。」

「いただきますわ。」

「ご馳走になりますドワ。」


 パフェにスプーンを入れる。

 溶けかけたアイスにも抵抗なくスプーンが入っていく。


「あまァ~い!

 最高のフルーツを使った絶品スイーツ! そしてこの景色! 最高だな!」


 なんせ正面に広がる湖面には、満天の星空が映っている。

 地上に光が多い街周辺では見えない、すさまじい数の星々だ。圧巻である。


「エレナもミネルヴァも間に合ってよかった。

 これはなかなか贅沢な体験だぞ。」

「そうですね。

 頑張ってくださった旦那様に感謝を。」


 エレナがケーキにフォークを入れる。

 フルーツとスポンジとクリームをいい感じにまとめて口へ。


「う~ん! 絶品です!」


 ミネルヴァが切り分けたタルトをほおばる。


「さすがはエルフ王国の特産品ですわね。素晴らしい甘みと爽やかさですわ。」


 ゲルダがパイにかじりついた。

 とたんに動きを止めて泣き出す。


「甘味の概念が崩壊あそばしましたドワ。」


 それを見ていたエルフの王様とおつきの連中の、目つきが怖い。

 彼らも4号店で買った道具を持ってきて、近くにキャンプをしている。


「「じゅるり……!」」


 仕方ないので、なぜかついてきちゃった彼らにもご馳走する事にした。

 こいつら、野菜サラダしか用意してないじゃないか。

 振る舞ったら全員、放心しながら泣いていた。


「父上、私はこのお方に嫁ごうと思います。」


 エルフの女が、エルフ王にそう言った。

 つまり彼女はエルフの王女だ。立場が立場だけに断るのは難しそうだな……。

 ……ワイ、また嫁が増えるンゴ? てか、エルフ王女、スイーツ気に入りすぎ。

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