44 ワイ、エルフ王に呼ばれたンゴ
とりあえず4号店をスタートさせた。
魔道具職人たちの下請けとして販売を開始。
しかし、予想通り、それ以外のエルフからは受けが悪かったンゴ。
まあ、4号店が赤字でも他の3店舗が黒字だから問題ないけど、さてどうしたものか、と思っているところへ、慌てた様子の足音が聞こえてきて、兵士が部屋に入ってきた。
ちなみに今、ワイらはエルフ王国の王宮に泊まっている。
「ノックもせずに、どういう事かな?」
「それどころではない。
緊急事態が発生した。そのため、陛下がお前を呼んでいる。」
「緊急事態?」
「いいから早く来い。」
ワイはエルフの兵士に引きずられるように連れていかれたンゴ。
王様の客人にこの態度はちょっといただけないな~……。
まあ、今の段階ではまだ実害はないけども。拘束時間が長いと営業妨害になるぞ?
「森林火災を鎮火してもらったばかりなのに、すまない。再び頼ることを許してほしい。」
兵士と違ってエルフ王の態度は丁寧だった。
実は……とエルフ王が話したところによると、ワイが消した森林火災の規模がけっこう大きかったので、森への影響を調査させていたところ、残火がくすぶっているような事はなかったのだが、燃えてしまった木々が枯死している事が分かったという。
「このままでは、エルフ王国の農業に大ダメージだ。」
「森の中に畑が?」
来るときはそんなもの見なかったが……。
ていうか、あったとしても生い茂る木の葉で日差しが遮られてしまって、畑としては環境が良くない。
「畑? なんだ、それは?」
「え?」
エルフ王の答えが、どういう事すぎるンゴ。
「えっと……エルフ王国では、農業というのは、どういうふうにやっているのでしょう?」
「どうって……森に生えている木々から木の実をとったり、野草をとったりする。
このとき、植物にダメージを与えないように、取りすぎない事が重要だ。」
「……なるほど。それで?」
「以上だ。」
「は?」
それは農業じゃなくて採集ンゴ。
そして理解した。森が焼けて木々が枯死。農業とは名ばかりの採集で食料を得ていたのなら、なるほどこれは緊急事態だ。
エルフ王国の農業は遅れている。いくら排他的な種族といっても、採集から農業に移行するぐらいの工夫は起きてもよさそうなものだが……。とはいえ、前世の世界でも、ジャングルの奥地に生活する原住民・少数部族の類だと、今でも昔から変わらない狩猟・採集の生活をしているという例はあるし……。
あまりの事にポカーンとしていると、エルフ王がさらに語りだした。
「そもそも、我が国は火災の経験がほとんどない。
我らは基本的に火を使わぬし、森が焼けるような事などもう何百年も起きていなかった。
今回の森林火災は、我が国にとって未曽有の大災害なのだ。ゆえに、対処法についても見当すらつかない。」
おいおい、言い切ったよ、この王様……。
「残念ながら、いくら支援金や復興計画の指示を出しても、それを実行できる人員がいない。
現場での作業のノウハウがないから仕方ないとはいえ……。
特に大変なのが、農業を復活させる方法が分からない事だ。焼けた場所に回復魔法を使えば、植物の新たな芽吹きを促進することはできる。しかし、どんな植物が芽吹くかは分からないし、焼ける前の状態まで戻るのに、5年はかかるだろう。座して待つだけでは、いくら我らが長寿の種族といえども飢え死にしてしまう。」
「なるほど。状況は理解しました。
それで、私を呼び出して何をさせようと?」
「君の店では食料も扱っているのだったね? 我が国に出した4号店では売っていないようだが。」
大使の部下に聞いたのか。
「それで4号店でも食料を扱ってほしいという事ですか。」
「うむ。どうだろう?
もちろん邪魔をしないようにお触れは出しておく。
できる事があるなら手伝おう。」
「1つ確認したいのですが、私を呼びに来た兵士、彼は陛下が私をどういう用件で呼び出したのか理解していますか?」
「うん? いや、『呼んできてくれ』としか伝えていないはずだが。」
「であれば、1つ実験してみましょう。」
「実験?」
俺を呼びに来た兵士を、この場に呼び出してもらう。
そして彼に、ワイがどういう用件で呼ばれたのかを伝える。
すると――
「他種族に頼るのですか!? お考え直しください、陛下!」
「だが、他にどうすると?」
「我が国の森は広大! まだ探索していない場所もあります! 未発見の農地を発見できれば、持ちこたえる事は可能でしょう!」
「発見できなかったら? 確かに我が国の森は広大だ。ゆえに、見つからない可能性が高いし、見つかったとしても輸送に困難な遠距離である可能性が高い。」
「ですが、他種族に頼るなど……!」
「彼に頼めば確実に必要な量の食糧が手に入るだろう。
未発見の農地を探しに行く人員も、見つけた農地から農作物を運ぶ人員も、不要になる。そしてその人員を森の再生に使うことができる。」
「ですが……ッ!」
もはや反論の方法もないらしいが、それでも兵士は反対している。
排他的な性質は、理屈で実行する隔離措置とは違って、感情に基づくものだ。
「もういいでしょう。実験は終了です。
やはり無理のようですね。邪魔をしない、協力する、などというのは、お触れを出しても実効性がありません。」
「…………。」
困った様子のエルフ王。
実験? 何のこと? と困惑する兵士。……彼には退場してもらうか。
「まったく……王といっても思うようにならないものだな。」
兵士を退場させて、エルフ王がため息交じりに愚痴をこぼす。
「まあ、それは仕方ない事です。
それより、復興計画の話に戻りましょう。
食料の供給は可能です。持続もできる。しかし、無料でというわけにはいきません。こちらも商売ですから、代金は頂かないと。そうなると、持続的に購入できる量には限りがあるでしょう。
お尋ねしますが、足りますか?」
エルフ王は「ふむ……」と考える仕草で、別のエルフを見た。大臣だろう。たぶん財務系の。
その大臣らしきエルフは、首を横に振った。
「なんとか安く売ってもらうわけにはいかないだろうか?」
「いえ、その必要はないでしょう。
食料の提供は、短期間に必要量を。
そして、その間に、森を再生させればいいのです。」
「だが、再生させる方法が……。」
「確認ですが、挿し木や株分けを考えていないのでしょうか?」
「……なんだ、それは?」
やっぱりだ。農業と称して採集しているぐらいだからな。




