43 ワイ、商品の良し悪しを考えたンゴ
大使の名義で店舗を用意した。
ハーフエルフを雇った。
そしたら次は、雇ったハーフエルフたちを訓練しなくてはならない。具体的には、商品説明ができるように。それと接客のノウハウだ。
ただし接客については、あまり心配していない。基本的には客の顔色をうかがっていればいいので、迫害される立場のハーフエルフたちにとって、そんなのは身にしみついている。情報共有――いわゆる報告・連絡・相談と、品出しなどの作業さえ覚えてもらえば、何とかなるだろう。
というわけで、研修大会である。1号店を出した時と同じように、ハーフエルフに商品を無償提供して、しばらく使ってもらう。商品説明ができるように、実際に使って体験してもらうのだ。
そうしてみると、ハーフとはいえエルフの血を引く彼らは、一部の商品を使いたがらなかった。
たとえば
「オーナー。これ、あんまり使いたくないんですが。」
マッチだ。
「どうして?」
「面倒くさいんです。」
取り出して、こすって、発火する。非常に手軽で、負担になるようなものではないはずだが、ハーフエルフたちいわく、魔法を使って火を出したほうが早い。
「火を出すのに、そんな違うか?」
「火を出すまでは同じですが、そのあとが。」
「うん?」
「つまり――」
マッチで火をつけるには、フェザースティックや枯葉などを用意して、それをたきつけとして使用し、徐々に太い薪へと火を育てていく必要がある。着火剤もいくつか売っているが、結局いきなり太い薪は燃やせないという点は変わらない。
「魔法を使えば、いきなり太い薪を燃やせるので、手間がかかりません。」
火を育てるのはキャンプにおいて楽しみの1つでもあるのだが、ハーフエルフたちがやりたいのは、キャンプではなく日常生活。そして魔法を使えば、いきなり太い薪に火をつけることも可能。そりゃ、マッチに人気が出ないのは無理もないンゴ。
「なるほど……。」
これはワイとしても考えるべきポイントだった。
たとえば冒険者や兵士が、冒険中・作戦中に野営し、火をおこすとき。魔物や敵に襲われないうちに、さっと調理して食べて片づけてしまいたいはずだ。火を消すには、土でもかけてやればいい。だが火をおこすとなると、マッチの火から焚火へ育てるのは時間がかかる。まあ、慣れてしまえば5分もかからないが、火が育つまでの初期段階で煙が大量に出るというのも、敵に見つかりやすくなる欠点だ。
それを魔法でやれば、バーナーで一気に着火するような感じになるわけだ。燃料が現地調達の場合、湿っていてなかなか火がつかないという事もあるだろうし、そうしたらやっぱりマッチより魔法のほうが具合がいいだろう。
既存店でそれでもマッチが売れているのは、火打石よりも便利だからだ。魔法で火を出せる冒険者ばかりではない。兵士だって部隊によっては魔術師が組み込まれていない。
とはいえ、バーナーを売り出すつもりはない。使用済みのガス管を処分するのに困るからだ。ポイ捨ても大量発生するだろうし。自然環境に悪影響を与えるのは、ワイの本意ではない。
「ん~……どうしたものかな……。」
一方で、既存店よりも人気が出た商品もある。たとえば保冷バッグと保冷剤だ。ハーフエルフはほとんど誰でも冷却系の魔法が使えて、魔力量も人間より多く、保冷剤という補助があれば保冷バッグを冷蔵庫並の保存設備として使える。
肉の保存方法として、エルフ王国では干し肉にするより凍らせるのが一般的であり、肉をあまり大量に確保しておく習慣はない。そのため、冷凍した肉を集めてお互いの冷気で保冷効果を狙うという事もできない。なので保冷剤や保冷バッグは大人気になった。
ちなみに、今までは溶け始めたら冷凍魔法をかけ直していたそうだ。寒さ厳しい冬場ならともかく、夏場だと30分に1回は冷凍魔法をかけ直さないといけない。夜も1時間に1回はやらないといけないから、これはなかなか大変である。家族総出で、交代で冷凍魔法をかけていくらしい。
なお、冷凍魔法が使えない者は、エルフ王国産の冷凍用魔道具を使う。人間の、特に民間人にとって、魔道具の使用は魔力の消費量的にそれなりの負担だが、ハーフエルフやエルフは魔力量が多くて苦にならないそうだ。
「ああ、そうか。」
そこでワイはひらめいた。
大使の部下を通して、エルフ王にかけあってもらい、エルフ王からエルフの魔道具職人たちを紹介してもらう事に。
すると、エルフ王が紹介してくれたのは、開放派の魔道具職人だった。
「たとえばエルフの冷凍用魔道具を、こちらの保冷バッグに組み込んで、バッグのふたを開けずに中を冷やせるようにする。保冷バッグの中に保冷剤も入れておけば……。」
「なるほど……! 両方のよい所が合体した商品になる……!」
「それから、魔法の威力を高める補助具があるそうですね? 杖のほかにも、腕輪やペンダントなどがあると聞きました。
それと同じように、すでにある火を大きくする魔道具というのは、作れないものでしょうか?」
「作るのは可能ですが、それにどんな意味が? 火を大きくする魔道具があっても、火の魔法を使わなければ火が出せないのですから、それなら火の魔法を覚えてから既存の強化補助具を使ったほうが……。」
「魔法を使わずに火を出す道具があります。」
実際にマッチを使ってみせる。
そして、その欠点を伝えた。
「なるほど……であれば、マッチ箱の外側に装着するような形で……うん。それなら火を出す魔道具よりも魔力の消費が少なくて済む……これなら他国向けに、いや、もしかするとエルフ王国内でも売れるかもしれません。」
「うちから商品を提供しましょう。改良が成功したら、そちらで売ってください。」
「こちらで? つまり、エルフ名義で、という事ですか?」
「そうです。そのほうがエルフ王国内に普及しやすいでしょう。
しっかり普及して『便利なもの』と認識してもらってから、材料の一部をうちから仕入れていると発表すれば、開放派の勢力拡大につながるのではないでしょうか?」
「なるほど……!
いや、素晴らしい。それならシェアを失った職人たちも再び腕を振るえます。」
「であれば、うちへの反発も小さくなると期待しても?」
「そうなるでしょう。特に、仕入れていることを公表する段階にまでなれば、認めざるを得ないはずです。使っている人が反発して使わなくなる事はあっても、作っている人は作るのをやめたら生活に困る。そして他国には間違いなく売れるとなれば、職人たちは事実上の開放派にならざるを得ない。」
4号店は客を確保でき、エルフたちは経済的に立て直せる。win-winというやつだ。
ワイらは、がっちりと握手した。




