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40 ワイ、エルフ王に会ったンゴ

「すみませんでしたぁーっ!」


 土砂降りの中、木っ端役人どもが土下座する。

 肩をすくめるワイらと、苦笑するエルフ王。

 事は、ワイが消火活動から戻ったときに遡る。

 ずぶぬれになりながら街の入口へ戻ると、ほぼ同時に豪華な衣装に着飾った連中がやってきた。


「おお……! この魔力……間違いない! この雨は、そなたの魔法か!」

「ええ、まあ……。あなたは?」

「貴様、こちらのお方をどなたと心得る!」


 付き添いのエルフがいきり立つ。

 しかし、リーダー格のエルフがそれを手で制した。


「お前、ちょっと黙れ。」

「はっ。申し訳ありません。」


 付き添いエルフがすごすごと下がる。


「私はこのエルフ王国の王だ。

 消火活動に派遣した部隊が、消火に失敗して戻ってきたばかりだというのに、そなたの魔法で森の火災は鎮火された。この雨がもうしばらく続けば、再燃する心配もないだろう。

 エルフ王国を代表して、礼を言う。」


 エルフ王か……。ふーん……。

 エルフが排他的な種族といっても、王はある程度ワイらを受け入れる気があるらしい……と見ていいのかな? この態度は。


「はぁ……? でも、どうしてこの雨が私の仕業だと?」

「魔力を感じ取れば分かる。

 魔力は1人1人違うからな。声を聴き分けるようなものだ。

 それにしても、エルフの精鋭が足元にも及ばぬ凄まじい魔力を放ってくれたな。」

「そうですか? 恐縮です。」


 まあ、レベルが違うからね。というのが事実だが、実際にはあまり実感がない。

 スキルというものになじみのない前世の世界の記憶があるから、スキル自体が「神様からの借り物」「自分の能力ではない」という感覚があるし、レベルにしても同様だ。自分が持っている魔力も特に感じないし……って、それは呼吸や脈を意識しないのと同じか。とにかく自覚しにくい。

 しかし、エルフ王は魔力を感知できると……。しかも個人の識別までできると……。そうなると、鎮火に成功した功績を「エルフで協力してやりました」とか嘘をついてもすぐバレるわけだ。

 ちらりと木っ端役人を見ると、焦った顔をしていた。

 そこへエルフ王が追撃する。


「それで、この状況はどういう事かな?

 これだけの恩恵をもたらした御仁の、その仲間たちが街にも入らずこんなところでテーブルゲームに興じているというのは……順番待ちでもあるまいし?」


 行列とかも見当たらないが? とエルフ王はわざとらしく周囲を見回す。

 木っ端役人が青い顔で平伏していた。

 そして冒頭のセリフである。


「じゃあ、街に入ってもいいですか?

 大使の要請で店を出しに来たんですが。」

「店? どのような?」

「こんな店です。」


 とワイは説明する。もちろん大使がエルフ王国の技術開発を狙っている事も伝えた。

 王まで拒否するなら、もう4号店は諦めるしかない。そしたらエルフ王国には近寄らなくなるから、次からは助けない――というか気づかないな。

 他者を拒絶する方針は、よそからの害悪をはねのける効果が高いというメリットがある反面、よそからの救援を得にくいというデメリットもある。店舗経営でいうなら、店を閉めてしまえば万引き被害に遭わないで済むが、売り上げもなくなるというわけだ。

 今回「来客」の立場にあるワイとしては、どっちでも構わない。拒絶されるなら帰るだけだ。別に損もしてないし。無駄足にはなっても、林間サイトにキャンプしに来たと思えばいい。


「なるほど。了解した。もちろん出店は許可しよう。街へも入ってくれて構わない。

 消火活動に対するお礼を用意するから、あとで王宮へ来てもらいたい。準備ができたら使いを出すから、そちらの居場所をはっきりさせておきたいのだが……エルフ王国は初めてかな?」

「そうですね。」

「であれば……すでに聞いているかもしれないが、我々エルフは排他的で、よそからの旅人を受け入れていない。そのため宿屋というものもないし、飲食店というものもない。食料品店などはあるがね。」

「なんと……それは初耳です。」


 しかし排他的な性質を極めていくと、そういう事になるか。

 田舎の農村みたいなものだ。

 田舎の農村なら、よそからの行商人でも来ないことには生活物資に困ることになるが、エルフの場合は国全体がそういう鎖国みたいなことをやっているので、何でも自給自足できるのだろう。


「まあ、困らないのですがね。うちは商品が商品なので。」

「さもあろうが、お礼かたがた王宮に泊まってもらいたい。」

「では、お言葉に甘えます。」


 キャンプ道具は召喚できるから、野営をやろうと思えばいくらでも野営できる。宿屋も商店もいらない。

 ただし、ここに定住するわけではないから、最後は撤収することを考えなくてはならない。アイテムボックス的な能力とか、出した道具を消す能力とかはないので、あまり荷物になるような道具は出せない。つまり快適性には乏しい。

 焚火ができないから料理の幅が限られるし、風呂も入れない。ちなみに、キャンプ中に風呂に入るための道具というのも存在する。浴槽にコイル状の水管がついていて、そのコイルの中で焚火をすると、水管の中にある水が加熱され、熱による対流で浴槽の水全体が加熱されていく。ただし当然、浴槽なんて持ち運ぶには巨大すぎるし重すぎる。

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