39 ワイ、遊んでたンゴ
トランプでは勝敗が偏りすぎるので、別の方法で暇をつぶすことにした。
テーブルトークRPGだ。ルールブックと必要なアイテムを召喚して、ルールを説明する。この世界にはテーブルトークRPGがないのか、誰もルールを知らなかった。しかし、やってみると盛り上がる。なんせ本当にファンタジーな冒険が存在する世界だ。そして誰もが「こんな大冒険をしてみたい」と英雄を夢見るもの。ノリノリである。
「ゴブリンキングへ、スキル『連撃』で攻撃。」
サイコロを転がす。
出た目は「3」「6」「2」「4」「5」。
ルールでは「1」以外が出たら攻撃成功。つまり攻撃成功だ。
「戦士の連撃。ダメージ5点の5回攻撃。全段命中。
ゴブリンキングの防御力4点を引いて、1点ダメージ5回で、合計5点ダメージ。
断末魔の悲鳴を上げて、ゴブリンキングが倒れた。
残敵なし。戦闘終了。
スタンピードから街を守った君たちは、英雄としてもてはやされ、領主から報奨金として100万ゴールドを贈られた。
また冒険者ギルドのギルド長に呼び出され、ランクアップを告げられた。ランクアップにより、君たち全員の全ステータスが1点追加される。
マップクリアだ。」
ルールを知らない連中が遊んでいるので、ゲームマスターはワイが務めている。
「次のマップはこれだ。
君たちが先へ進むと、道は洞窟へと続いていた。このトンネルを抜けなければ、目的地にたどり着けない。しかし、洞窟にはモンスターが住み着き、もう何年も通行人はおろか討伐もされていない。どこにモンスターが潜んでいるか分からない。
このマップでは、サイコロを振って、出た目の数だけ進める。そして、止まった場所でサイコロを振り、3以上が出たらモンスターと遭遇、5か6が出たら奇襲を受ける。奇襲を受けた場合、モンスターから一方的に1ターン分の攻撃を受ける。」
さあどうぞ、とサイコロを差し出す。
冒険者パーティーのリーダーを務める大使の部下が、サイコロを振った。
出た目は「5」だ。
「うわー!」
「いきなりかよ!」
「サイコロを振るぞ。……『4』だ。モンスター4体が暗闇から飛び出し、君たちを奇襲した。
狙われたのは……『6』だ。メンバー表の6番目……魔術師だな。
モンスターの攻撃。
……『2』、攻撃失敗。魔術師はひらりと攻撃をかわした。
……『3』、攻撃失敗。魔術師はひらりと攻撃をかわした。
……『5』、攻撃成功。魔術師にダメージ4点。防御力1点でダメージを減じて、3点ダメージ。」
「魔術師の体力は6だから、のこり3点か。
くっ……! 次の攻撃を食らうわけにはいかねぇ!」
「つづけて攻撃判定……『4』だ。攻撃成功。モンスターの攻撃で、ダメージ4点。防御力1点で減じて、3点ダメージ。魔術師は死亡した。」
「くそー! 何もしないうちに死んだァ!」
「魔術師ィー!」
「もしかして、魔術師への攻撃を戦士がかばっていたのでは?」
「ふむ……『3』。庇うことには失敗した。魔術師は死亡だ。」
「ぎゃー!」
「魔術師ぃぃぃ!」
などと遊んでいると、消火活動に出ていた部隊が戻ってきた。
「ダメだった……! 逃げろ! 消せるような規模じゃない!」
今度こそエルフたちはパニックを起こした。
「……どうやら、だいぶ大規模な火災のようですね。」
「消火活動の部隊が失敗するほどとなると、よほどの規模です。
我々も逃げたほうがいいかと。」
「うーん……でも、要するに火を消せばいいんでしょう?」
「そうですが……何か手が?」
キャンプで使うものなら何でも召喚できるのが、ワイのスキルだ。
当然「水」だって召喚できる。
しかも召喚を繰り返して、ワイの魔力はとんでもない量になっている。レベル上がりまくったからね。
水といっても色々な形態で召喚できる。ペットボトル入りとか、ウォータータンク入りとか、あるいはもっと大量に召喚することもできる。
「まあ、どうなるか分かりませんが……。」
津波や鉄砲水みたいになっても困るので、ワイはエルフの街から距離をとって、火災の最前線へ向かった。巻き込めないから消火部隊が撤退するまで手が出せなかったんだよね。
そこで魔力を全部使って、水を召喚。
急激に疲労感が襲ってきて崩れ落ちそうになる中、雲行きがにわかに怪しくなり、ぽつぽつと降り始めた雨がたちまち滝のような土砂降りになっていった。
火災は、この豪雨を受けて10分ほどで鎮火した。
しかしワイの全力を注ぎ込んだ雨は、その後も降り続け、丸1日降ってちょっと地盤が緩むぐらいの勢いだった。




