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37 ワイ、エルフの街に入……れないンゴ

 ようやくエルフの街に到着した。

 建物は木造建築が多い。木造建築っていうか、太い木の幹をくりぬいたような感じだ。あるいは外見を木に偽装した建物といえばいいのか……。

 見える範囲では、人口は低密度。田舎の農村みたいだ。他種族は見当たらず、100%エルフである。

 国境には見当たらなかった警備兵らしきエルフが、街の入り口に門番みたいに立っていた。


「とまれ。

 そっちの男は人間か? 女はドワーフだな?

 他種族の立ち入りは許可できない。帰れ。」

「こちらの御仁は、大使の依頼を受けて来ていただいている。」


 大使の部下が、警備兵のエルフの前へ立つ。


「大使だと? ふん。あんな慮外者の依頼を受けたからなんだというのだ。」


 警備兵のエルフは馬鹿にするように言った。


「ん? どういう事?」

「ああ、すみません。実は――」


 大使の部下が説明してくれたところによると、エルフは全体的に排他的な民族で、異種族を受け付けずに生活している。ところが中には、他種族に対する興味とか、エルフの生活圏にはないものを見てみたいとか考える連中もいる。

 前者を「保守派」とか「伝統派」とか言い、後者を「開放派」とか「自由派」とかいう。大使も開放派の1人で、門戸開放主義を掲げて他国・他種族との自由貿易を推進するべく、大使という仕事についているらしい。

 ワイらにとって残念なことに、エルフは大半が保守派で、開放派は少数である。だから木っ端役人に過ぎない警備兵が、いくら本人のいない所でとはいえ、大使を小馬鹿にしたような事を言うのだ。つまり、保守派にとって開放派は、少数の愚かな連中が馬鹿なことを言っている、というような認識らしい。エルフは全体的にそういう風潮があるのだそうだ。


「ん~……分かったけど、これじゃあ4号店を出せないな。

 まあ、エルフのみで生活物資のサイクルが完結しているほど排他的なら、他国への輸出なんてどうでもいいのかもしれないが。」


 4号店はもともと、大使の要望で出店計画が出たものだ。エルフ王国の技術に新たな進歩をもたらすため、大使はワイの店の商品を研究用のサンプルとして欲しがった。

 けど、この様子だと他国の商品を仕入れてまで研究しようなんて考えているのは、開放派のエルフだけなのだろう。


「思ったよりも想定来客数が少なくなりそうだが、本当に4号店が必要か?」

「是非にと考えております。

 何とか手を考えてみます。」


 大使の部下が焦っている。

 ここまで来て、木っ端役人に足止めされるとは思わなかったのだろう。大使の権力で押し通れると、ワイでもそう思ったンゴ。まさか通用しないとは。


「でも大使の要請で来た相手まで拒否するんだから、これ以上どうすると?」

「ご主人様、いったんお戻りあそばして、国王に派遣された正式な国家の使者として入り直すというのは、どうでしょう?」


 ゲルダが言う。

 さすがドワーフの王女だ。


「権力の上乗せか。それで押し通れるかな?」

「可能性はありますが、また往復するというのはご面倒では……?」


 大使の部下が恐縮する。


「とはいえ、こっそり侵入したんじゃ、バレたときに余計面倒なことになるし……。」

「そのセリフを我ら警備兵の前で言うとは、呆れた奴だな。」


 木っ端役人が勝手に呆れている。

 本気で侵入するつもりなら、こんな場所では言わない。ここで言うのは、そんなつもりがないから聞かれても困らないだけだ。つまりは潔白の証明であって、呆れるところじゃない。木っ端役人の態度にこっちが呆れるンゴ。


「まあ、こっちの王様からエルフの王様に、何か用事でも作ってもらおう。

 そうすれば木っ端役人程度には足止めされないだろう。」

「木っ端役人だと?」

「木っ端役人だろう? それとも何か? 国際関係が悪化して戦争のきっかけになるかもしれない事を覚悟してやっているのか? そんな権限がお前にあるのか?

 大使の要請で来ている相手を追い返すというのは、そういう事だぞ? 国際関係がどうなるか分かっててやってるんだろうな?」

「ふん。我らはその程度の脅しには屈しない。

 だいたい、エルフの大使の要請で来た相手を追い返したところで、エルフ国内の問題だ。」

「馬鹿なこと言うな。」


 大使の部下が割って入った。


「お前が今言ったのは、エルフ同士でのみ通用する話だ。

 要請に応じてわざわざお越しくださった相手の顔に泥を塗るような真似をして、それがエルフの品格だとでも言うつもりか? あざけるにせよ、相手を選べ。こちらの御仁は、人間の王女を妻にもち、ドワーフの王女とも懇意にしておられる。そんな御仁が、エルフの顔を立ててお越しくださったのだぞ? 直ちに戦争にはならなくても、本当に国際関係が悪化してしまう。」


 大使の部下は、きっと青い顔をしているのだろう。ワイからは後姿しか見えないが、声がだいぶ焦っている。

 しかし木っ端役人は、バカバカしいと言わんばかりに「ふん」と鼻で笑った。


「やはり出直すか。

 自分が認めている権威にしか従わない手合いだ。国王同士の用事でも運ばないと通さないつもりだろう。」


 やれやれとため息をつくワイら。

 そのとき、けたたましく何かをたたく音が響いた。これは……半鐘?

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