34 ワイ、有効な対策を考えるンゴ
1~3号店の店長と、ワイ、そしてゲルダの5人で、いやがらせに対する対策会議を開いたンゴ。
「ここまでが第1段階です。
そして、第2段階ですが、こちらが相手に対して効果を期待できる対策となります。」
資料には「2:有利属性の人物」と書いてある。
「この『有利属性の人物』とは、どういう意味じゃ?」
3号店の店長が尋ねた。
「いやがらせをしてくる相手というのは、それが子供だろうが大人だろうが、平民だろうが貴族だろうが、すべて共通の特徴を持っています。
要するに、より強い立場にある人物に対して弱いという事です。自分が正当性のない事をしているわけですから、立場の弱い相手から『やめろ』と言われても『誰がやめるか、バーカ』という話になりますが、立場の強い相手から『やめろ』と言われたら、同じようには返せません。」
なぜなら権力や腕力では圧倒できないから、いやがらせという手に出ている。いやがらせやイジメというのは、当事者同士のパワーバランスが「どんぐりの背比べ」に過ぎない場合にしか起きないのだ。圧倒的な権力があれば、いやがらせではなく搾取になる。圧倒的な腕力があれば、いやがらせではなく力ずくで強制すればいい。それができないから、いやがらせなのだ。
余談だが、イジメに対する対抗手段として「手強い抵抗」が有効である理由は、まさにこれだ。イジメる側とイジメられる側には、実はそれほど大きな実力差がない。ゆえに「圧倒できない」と認識させれば、イジメる側はイジメるのを諦める。毎回「手強い抵抗」を制圧してまで――つまり自分がダメージを受けてまでイジメることに利点がないからだ。イジメというのは、圧倒できてこそ、やる意味がある。
閑話休題――資料には、「2:有利属性の人物」と書いた、その下に、さらに例を挙げている。
「そこに例を挙げた通り、訴訟を起こすというのが一般的に使用可能な有効打だと思います。
つまり国家権力を味方につけるわけですね。」
こっちの世界にはいないが、弁護士とか警察官とかを連れてくるのが効果的だ。
こっちの世界でいえば、兵士だろう。
「訴訟には、証拠が必要です。
クレームを入れてくる連中に対しては、大勢のお客様が目撃者として証言を得られるでしょう。
問題は、落書きのほうですが……。」
キャンプに使う道具なら何でも召喚できるワイは、カメラも召喚できる。
監視カメラは無理だが、ビデオカメラやスマホなら可能だ。キャンプで使うかどうかが可否を分けている。
キャンプ場を経営するには監視カメラをつけてもいいだろうが、それはキャンプをする側ではないからスキルの範囲外だ。
一方、ファミリーキャンプやグループキャンプでは撮影もする場合がある。ソロキャンプでも、動画配信者などは撮影をおこなう。これらは、いずれもキャンプする側だ。
しかし、召喚したカメラを使った場合、まず証拠能力の証明から始めなくてはならないのが面倒だ。カメラは店で売り出していない。どういう道具なのか、この世界の人たちは知らないンゴ。そしてこの世界には魔法がある。魔法は、念じるだけで効果が変わる。光を出して周囲を照らすだけの魔法があるが、その光の色・サイズ・形は自由自在。テレビ画面が映像を映し出すのと同じことをすれば、どんな映像でも作れる。つまり、カメラを召喚しても、それが「起きた事実を記録する装置」であるのか「念じた通りの映像を作り出す装置」であるのか、一般人には区別がつかないのだ。区別がつくのは専門家だけだが、ビデオカメラやスマホを作れるほどの機械の専門家はこの世界にはいない。
「エルフから魔道具を買いましょう。」
カメラと同じ機能をもつ魔道具は存在する。
この会議を開くと決めてから、すでにエルフの大使に確認済みだ。
「発注はすでに終わっています。
設置場所と設置方法、それと使い方ですが――」
各店の店長たちに一通りの説明をした。
そして会議は再び「対抗手段」の話に戻る。
「問題は、訴訟に勝っても相手がいやがらせをやめなかった場合です。
人を殺してはいけないという法律があっても殺人事件は起きるもの。たとえ『店に近づいてはいけない』という判決をもらっても、それを無視する相手はいるでしょう。
そこで、そのような場合に効果的だと思われるのが、次の2つの方法です。」
再び資料を示す。
そこに「1:心理的な攻撃」「2:物理的な隔絶」と記してある。
「心理的な攻撃とは、たとえば国王陛下を頼ってみるというのも有効な方法の1つだと思います。
一般的には兵士を派遣するとかの対応になると思いますが、うちの場合は『たまたま買い付けの現場を視察にきていた』なんて事が起きるかもしれません。」
ワイの嫁2号ミネルヴァは人間の王女で、奴隷のゲルダはドワーフの王女だ。国王を動かすツテはある。
「もちろん、マフィアの皆さんにとって得意な方法でもありますね。
要するに脅せばいいわけです。」
なるほど、と1号店・2号店の店長たちがうなずく。
「そうすると、物理的な隔絶というのは、どこぞに拉致するということで?」
「まあ、埋めるか沈めるかしちまえば手っ取り早いですからね。」
「いえいえ、そこまでしなくても、遠方の親戚を呼び出して預けてしまうとか、落書きの損害賠償を求めて高額の借金を負わせるとか、方法はあります。
特に、相手が『個人的に頭が上がらない人物』がいれば、その人に預けるのが効果的でしょう。親戚の厳しいおじさんとかね。」
そんな人物がいるかどうかは、マフィアの皆さんに調べてもらうとしよう。
会議が終わると、ゲルダがぽかーんとしていた。
「どうした?」
「……あ、いえ……なんというか、よくもあのような手段をお考えあそばすものと感心しておりました。」
あのような手段というのは、有効な対策として打ち出したからめ手のことだ。
ドワーフは無遠慮に人を巻き込むことをなんとも思わないようだから、気に入らなかったら相手に直接そうと告げるのだろう。
とはいえ、王女であるゲルダがからめ手を考え付かないというのは――
「意外だな。
王侯貴族なんて、陰謀だらけの魑魅魍魎の世界だろう?」
「人間ならそのようにお過ごしあそばされるかもしれませんが、ドワーフはそうでもありません。
王侯貴族そのものが数年で入れ替わりますし。」
そういえばドワーフは、数年ごとに鍛冶の腕前を競って、上位者が王侯貴族になるらしい。
王侯貴族になれば政治を担当しなくてはならず、鍛治の腕も鈍る。結果、次の競技大会では上位に食い込めず、王侯貴族から転落することも多いのだとか。




