33 ワイ、店長会議を開くンゴ
思った以上に事故が多く、補償する対象者が多かった。
ワイ1人では回り切れなくなったので、対応部署を作ることにした。
誠心誠意を尽くすとはどういう態度のことを言うのか、これは一般人やスラム街の住人よりもマフィアのほうがよく知っている。彼らは過剰なぐらいに誠意を求めるからだ。そこでマフィアの構成員に講師をやってもらい、補償部門の従業員の研修をおこなった。
そして、いよいよ補償部門が動き出した頃、問題が起きた。
ワイの店に対するいやがらせが始まったのだ。ワイは各店の店長を集めて、これらのいやがらせに対する対処法を決める会議を開催した。ちなみにゲルダも同席している。参加してもらう必要はないが、参加を控えてもらう必要もない。
「内容は、大別して2種類です。
1つは落書きなどの器物損壊。
もう1つは、直接クレームを入れてくる。」
そのクレームの内容が、要約すると、こういう事だ。
ワイの店が補償サービスを始めたために、他店にも同様のサービスを求める声が増えている。しかし劣化コピーしか作れない他店では、商品を売るために値段を安くするしかない。薄利多売でやっている以上、利益はそう多くないから、補償サービスをやる余裕がない。補償サービスをやらないと客がよそへ逃げてしまう。この影響による損失を補償せよ、という訴えである。
マフィアの構成員に調べてもらうと、確かにそういう傾向があるらしい。そして実際に補償サービスを始めた店もあるそうだ。
となれば、補償サービスによる無償提供は、店にとって損失になる。ワイみたいにタダで召喚できるなら別だが、他店はそうじゃないからね。製造コストというのが、かかるわけだ。これを回避するためには、最初から補償の必要がないしっかりした商品を売るしかない。ワイとしては喜ばしい流れンゴ。
「このクレームに対する答えは、もちろんノーです。他店の損失をうちが補償する必要はありません。
ただ、落書きにせよクレームにせよ、他のお客様にご迷惑がかかりますから無視して好き放題やらせるわけにはいきません。かといって、無益ないやがらせに対処するために時間をとられる事は好ましくありませんので、何とかしなくてはいけません。
そこで、具体的にどうすればいいか、という話をするために、今回の会議を開きました。」
こういうのは、前世のワイが修羅場スレやそれ系の動画を面白がって大量に見ている。
だから、だいたいどういう対策が効果的かも分かっている。
ワイは資料を配布した。店長は3人しかいないから簡単だ。そのうち2人がマフィアで、もう1人がドワーフ(特に鍛えてなくても屈強な体にいかつい顔をしている種族)だから、見た目がかなり怖い会議になっているが……ちょっとだけチビりそうなのは内緒ンゴ。
「我々の勝利条件は、いやがらせをやめさせる事です。
まず前提として、まともな神経をしている奴ならいやがらせなんかしない、という事を念頭に置きたいと思います。」
他店がどういうサービスをやろうが、よそはよそ、うちはうち。それで利益が出るなら真似すればいいし、損をするなら放っておけばいいだけだ。まともな神経をしているのなら、補償サービスをマネするなり、別の独自サービスを始めるなり、利益を出すために工夫するだろう。どうにもならないなら撤退すればいい。事実、そういう店が多数ンゴ。
「従って、落書きをする連中も、クレームを入れてくる連中も、まともな神経ではない。そういう相手には、道理を言って聞かせても効果がないので、別の方法を考えなくてはなりません。従って、対策方法としては割と強硬手段のような感じになるでしょう。
ただし、同時に『周囲に対するアピール』も必要です。」
いきなり強硬手段に出るような店だと思われたら、恐ろしくて『まっとうなクレーム』も入れられなくなる。基本的にはクレームは改善すべき点を教えてくれる金言だから、それを失うことは損失だ。恐怖政治がやがて反乱によって終わるように、クレームに対して威嚇するような店ではお客様に逃げられてしまうンゴ。
「周囲に対するアピールというのは、何をするんですかい?
この資料には『今まで通りの対応』と書いてありやすが、どういう事ですかい?」
1号店の店長が尋ねた。
「つまり、道理を言って聞かせてお断りするという事です。
クレームを言ってくる相手には効果が期待できませんが、周囲でそれを目撃している他のお客様には、うちがクレームに対してどういう対応をする店なのか、どういう基準でどういう判断をする店なのか、という事をアピールできます。」
「クレームに対していきなり威嚇するような店じゃない、クレーム自体はありがたく受け取る、というアピールですかい?」
2号店の店長が確認した。
「その通りです。
あくまで低姿勢で、そして『ご意見ありがとうございます』から始まって、『改善点をご指摘いただけるのはありがたい事ですが、当店が他店の損失をカバーする道理はありませんので』とお断りします。
落書きに対しては、現状、誰がやっているのか分かりませんので、やめるように張り紙をしておきましょう。
ここまでを、第1段階とします。」




