3:ワイ、ボスの娘にきゃーきゃー言われたンゴ
スラム街の住人に、スキルで出した食料を配りまくってたら、マフィアのボスに呼ばれたンゴ。しかも気に入られて、支援を続ける見返りにボスの娘を嫁にくれるとか言い出したンゴ。拒否とか辞退とかできない流れなんですけど!?
「パパ、セカンドさんが来てるって本当!?」
「ああ、そこに――」
「きゃあ! 本物!」
アイドルを発見した女子高生みたいな超ハイテンションで駆け込んできたのは、金髪の巨乳美女だった。きゃあきゃあ言いながら跳ね回るので、たわわなアレがぶるんぶるんして非常に誉れ高い光景でございます。あまり直視してはいけないと思いながらも、目が吸い寄せられてしまうンゴ。
それにしても、マフィアのボス――パパさんとは似ても似つかないンゴ。母親に似たのか? 無理やり結婚させられる流れだとしても、パパさん似の怖い顔したいかつい女じゃなくてよかった。マジで心底ほっとしたンゴ。
ただ、本人はきゃーきゃー騒ぎまくるばかりで、まったく会話ができない状態ンゴ。面食らっていると、とりあえず挨拶ぐらいしろと前世の二郎がセカンドの肩をたたく。
「初めまして。セカンドと申します。」
「きゃー! 話しかけられちゃった! どうしよう!?」
「急なお話で驚いておりますけれども、大変光栄に存じます。」
「きゃー! 光栄ですって! きゃー! マジで!? きゃー!」
「ええ、本当です。
ですが、結婚というものはお互いの合意が必要かと思います。お嬢様のお気持ちはいかがでしょうか?」
「きゃー! 超紳士! きゃー! そんなの恥ずかしくて言えないわー! きゃー! どうしよう!?」
なんか半分ぐらい会話が成立している気がしてきたンゴ。
ていうか……うん……どうやらボスの娘も結婚には前向きっぽいな。
「おい、ちょっと落ち着け。
セカンドさんに名乗っていただいたのに、お前という奴は、名乗り返す礼儀も忘れたか。
セカンドさん、すまねぇ。
おい、もういい加減にしろ。俺から紹介しちゃうぞ?」
「待って、パパ! マジで! そこだけは! しっかりケジメつけたいし!」
「なら、さっさとしないか。」
「ごめんなさい、セカンドさん。
パパの娘で、エレナと申します。どうぞ私を嫁に貰ってください。不束者ですが、よろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
というわけで、マフィアなんて怖くて関わりたくないのに、ワイは断る勇気もなくて結婚する事になってしまった。
◇
式の準備はマフィアの人たちでやってくれるというので、ワイはそれまでの日常へ戻って、食料を召喚しまくり、スラムの人たちに配りまくった。
「いつもすまないね。」
「いえいえ。お気になさらず。」
「けど、だんだん人数が増えてるだろ? 大丈夫なのかい?」
「ええ、おかげさまで。」
実は、召喚を繰り返すことで経験値がたまり、レベルアップを繰り返している。レベルアップするたびに魔力の量が増えて、召喚できるものの種類や量が増えているのだ。だから食料の配布量も増えている。
「私はレベルが上がる、皆さんは食料が手に入る。
お互いに利益のある状態ですから、遠慮なく持って行っていてください。」
と、そんなことを繰り返しているうちに、結婚式の当日がやってきた。
◇
この世界の結婚式は、教会で神の前に愛を誓うという、前世でもよく知る形式だ。教会の建築様式とか神様の名前とかは違うが。
しかし、ワイとエレナの結婚式には、エレナの父がボスをしているマフィアの構成員の方々が出席する。従って、これを教会でやると、まるでマフィアが教会を占領したような光景になってしまう。しかもスラム街の中には協会がないから、スラム街を出て一般人のエリアに行かなくてはならない。これは絶対に誰かに通報されるやつだ。式の途中で兵士が乱入とか、雰囲気ぶち壊しンゴ。
どうしても一般の人たちには理解されにくい立場だから、人目をはばかって別の方式で挙式することになった。人前式とか言うんだっけ? 神の前で愛を誓うんじゃなくて、参加者たちの前で、人の前で愛を誓うスタイルだ。
そうすると、宗教上の手順とか制限とかが何もなくなる。当然場所も自由だ。
「おめでとう!」
「ボスの娘を貰うなんて、大出世だな!」
「さすがスラムの救世主だぜ!」
場所はスラム街、ボスの屋敷の庭。
いつもは固く閉じられて門番まで立っている門も、今日だけは解放され、スラムの住人は自由に出入りできる。それで普段からワイが食料を配っている人たちが、お祝いに駆けつけてくれた。
それはうれしいし、嫁自体は美人で文句もないんだけど、嫁の実家がマフィアなんだよなー……。
あと、スラムの住人まで自由に出入りしているのに、ワイの実家だけ誰も呼ばれてないの、ちょっと草。まあ、呼んだところで来るような連中じゃないけど、もし来たら来たで嫁の実家に驚くんだろーなー。それはそれでちょっと見てみたかったンゴ。
ところで、前世の世界では「キャンプウェディング」なんてものまであるから、ワイのスキルでウェディングドレスやタキシードさえも召喚できる。マフィアの方々には白いスーツを配って、着てもらっているのだが、黒いのよりマシとはいえ、顔の怖さと迫力ある雰囲気は少しも隠せていない。もうちょいマイルドになると思ったのに残念だったンゴ。
なお、スーツそのものは好評だった。数を用意しなければならなくてコストを抑えたものを召喚したが、それでもこっちの世界では貴族が着るような服にしか使われないレベルの生地だと絶賛された。レベルが上がって魔力量がギリギリ足りたので、安いウェディングドレスも1つ召喚したが、エレナにもボスにも泣かれてしまった。
「娘にこんなすごいドレスを着せてやれるなんて……!」
「王女様のドレスでも、ここまですごいレースじゃないと思うんだけど……。」
特にレースが素晴らしいそうだ。製造に高い技巧を必要とするレースは、「糸の宝石」と呼ばれて貴族の間でも珍重される。しかし前世の世界では、どんなに職人技を凝らしたレースでも、機械によって簡単に安価に再現できてしまう。それを召喚できるわけだから、この世界では国宝級のレースでも、ワイのスキルを使えばあっさり出せてしまうのだ。なんかちょっと謎の申し訳なさを感じるンゴ。