29 ワイ、起きた事故に手を差し伸べる(ための準備をする)ンゴ
エルフ王国に向かうために準備していたところ、恐れていたニュースを聞くことになった。
コピー品のテントを使っていた人が、火災を起こしたンゴ。ワイが召喚するテントなら、火を浴びても溶けるだけで燃えないが、コピー品のテントは普通に燃える。防水性能がないので、そのうち油を塗り込んでくるだろうと警戒していたが、それより前に火災が起きちゃった……。
ちゃんと組み立てられない焚火台とか、雨漏りするテントとか、コピー品は劣悪だという話を聞いたから警戒していたんだが……。そもそも、ちゃんとキャンプを愛する人が開発したのなら、どういう状況で使われるのか理解しているはずだ。であれば、燃えるようには作らないはず。燃えちゃったということは、単に金儲けしか考えてない人が「はやりに乗ろう」と考えた結果だ。
他店の商品で焼け死んでも知りません。
そんな宣伝をしてきたわけだが、実際に知らんぷりをするのは忍びない。キャンプを愛する仲間として、何かできる事はないだろうか。
「オーナー。何か救済措置をやったほうが、店のイメージがよくなるんじゃねぇですかい?」
店長として雇っているマフィアの人が提案してきた。
手続き的には、マフィアのボスを店長にしているのだが、その実際の仕事は構成員に丸投げされている。構成員を直接雇うより、ボスの名前を借りることで裏社会的な防御力を高めた形だ。
1号店と2号店は、スラム街に出店して、スラムの住人を従業員として雇っているため、管理職としてスラム街を牛耳るマフィアの構成員を使っている。スラムの住人に管理職をやらせるよりは、マフィアのほうが管理職に慣れているだろう。協力者を悪く言うのはアレだが、マフィアなんて他人の上前を撥ねて生きている連中だ。それは見方を変えたら管理職そのものだ。
「そういう事もあるか。」
それなら店の金を使おう。個人資産でやるより大規模にできそうだ。
あ、ちなみに、こっちの世界では、店はみんな個人事業だ。そして店主の個人資産と店の資産とが分離されていない。店のものは店主のもの、オーナーのものだ。
これは、たとえば店主が別の店もやっている場合に、A店の利益を使ってB店の事業拡大の資金にするといった方法がとれるメリットがある。個人資産を使って店の資金を強化できるわけだ。ところが、その逆に赤字になるとデメリットになる。A店の借金に対する取り立てが、B店にも及ぶのだ。
まあ要するに、「オーナーが店を私物化している」なんて批判は、こっちの世界では存在しない。それが当然だから。
「よし、じゃあ、見舞金を出そう。
それと、燃えた道具をこっちから無償提供しよう。被害者がまだ使える状態なら、だが……。」
火災を起こした人が、どの程度の怪我なのか、あるいは生きているのか死んでいるのかも、まだ情報がない。ただ、同様の事故は、この先も起きるだろう。
「分かりやした。
んじゃあ、火事になった奴の状況を調べさせやす。」
マフィアの構成員がみんなワイの店の管理職になっているわけではない。従来通りにマフィアをやっている構成員のほうが多い。
今回のことで、そっちの人員を使って、キャンプ中に起きた事故の調査チームが発足することになった。
これは1号店にも通達して、エレナのパパさんにも頼んでおいた。
余談だが、ワイからのお願いが届いたときには、もう2号店の後ろ盾になっているマフィアのボスから、エレナのパパさんに連絡がいっていた。マフィアの情報網すげー!
もちろん、今回火事になった人のことは、すぐに調査結果が出た。
そして、他にも事故が起きていたことが分かった。
やはり大規模なことになるようだ。
「ちょっと本腰入れて取り掛かる必要があるなぁ。
見舞金は、出すケースと出さないケースの線引きを明確化する。」
ちょっと手を切っただけで「事故だ。見舞金」なんてやってられないンゴ。
「得意な連中に草案を作らせやす。」
法律の悪用とか得意な構成員がいるンゴ。
「それと金額の上限も決める。」
100人でキャンプ中に事故が起きました。その場にいたから全員被害者です。みたいなことを言われても困るンゴ。
「虚偽申請への対策ですね? 罰則も用意しときやす。」
わお。早速制度の悪用方法を提案されたンゴ。
「あと、道具の無償提供は制限なしで。
失ったものと同数・同サイズ・同品質……あー……サイズと品質は『なるべく近いもの』ってことで。」
コピー品と同じ品質じゃ困るだろう。
「さすがです!」
虚偽申請からの転売とか許すわけにゃいかねぇですからね、と店長。
またそういう……。
ただ、まあ、確かにこの国に2店舗しかないから、離れた場所で転売されても分からない。いっそマフィア同士のつながりをたどって、全国展開を急ぐか? 事故へのお見舞いもアレだが、スラム街の救済も進めるべきだ。人道的に。




