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28 ワイ、エルフに出会ったンゴ

 3号店はドワーフ王国で「商売」のスキルを持ったドワーフを見つけて、店長として雇うことにした。他にも接客に役立ちそうなスキルや、在庫管理に役立ちそうなスキルなどを持っているドワーフを中心に従業員を雇って、ワイが常駐しなくても大丈夫な状態になっている。

 そんなわけで、久しぶりに1号店を視察しつつ在庫を補充し、今日は2号店を視察・補充する予定だ。


「ゲルダ、セカンドさんを頼みますわ。」

「はい、ミネルヴァ様。どうぞご実家をご堪能あそばせ。」


 エレナは1号店の視察後、実家に戻っている。ドワーフ王国で言っていた通り、マフィアの構成員たちをねぎらうらしい。

 そして2号店を視察する今日、ミネルヴァも同じ目的で実家に戻る。

 2人とも構成員や家臣が多いから、一通りねぎらうのに時間がかかることだろう。

 ワイはゲルダと一緒に2号店へ。ゲルダは性的な誘惑をしなくなったので、遠ざける理由もなくなった。どうやら本当に反省したらしい。


 2号店は相変わらず繁盛していた。

 最近はコピー品が出回って、一時的に売り上げが落ちたらしいが、コピー品が粗悪すぎて客足は戻ってきているという。どんなコピー品が出回っているのか尋ねたところ、ちゃんと組み立てられない焚火台とか、雨が降ったらすぐ水がしみて雨漏りしてしまうテントとか、とにかく性能が悪いらしい。

 まあ、雨漏りに関しては、すぐに防水性のあるテントが出てくるだろう。ただし、この世界で雨具として使えるレベルの布材といったら、コットンなどの普通の生地に油を塗り込んで防水性を付与したものになる。重たいから携帯性が悪いし、油が使われている以上、その近くで焚火なんかできない。火の粉がついただけで一気に全体が燃えてしまう危険すらある。

 そんな事故が起きないことを祈るばかりだが、キャンプなんて焚火をしてなんぼだ。堂々たる火遊び。それがキャンプだ。ゆえに、必ず不幸な事故は起きるだろう。


「せめて予防を呼びかけ……ああ、いや、ついでに宣伝文句にするか。

 他の防水素材より燃えにくい……ん~……『他店の商品で焼け死んでも知りません』ぐらい言ったほうがインパクトがあるかな。」


 ワイが召喚するテントやタープなら、溶けることはあっても燃えることはない。


「では、そのように宣伝しておきます。」

「頼みます。」


 それから在庫の補充をしていると、店長が少し慌てた様子でやってきた。


「エルフの方が来ています。大量に定期購入したいと。」


 事務所に案内して話を聞くことにした。

 会ってみると、相手はエルフの大使だった。

 話を聞くと、エルフ王国はこの国に魔道具を売っているという。ところが、着火装置や保冷装置を中心に、野営用の魔道具が売れなくなった。それで調べたところ、ワイの店が原因らしいという事で、調査のために来店したらしい。


「それで分かった事は、こちらのお店で売っているものは、魔力を使わずに魔道具と同じことが……いえ、それ以上のことができるという事です。それに値段も手ごろで……これでは魔道具が売れるわけがない。」


 魔道具というのは魔力を注ぎ込んで起動する道具だ。たとえばライターのように簡単に火を出すことができる魔道具や、冷蔵庫のように保冷できる道具があるのだが、魔力を注ぎ込まないと使えない。火や冷気を出すための機構として、火や冷気を出す魔法を使っているからだ。ちなみに、注ぎ込んだ魔力を使わずにためておく事はできない。

 その使用する魔力が気にならないほど少量なら問題にならないのだろうが、魔法を使うにはそれなりの魔力を消費する。もちろん攻撃魔法をバンバン使えるような人なら問題ないが、一般人だと1回使うだけでけっこう疲れるらしい。ライターの魔道具ならまだしも、保冷の魔道具だと30分とか15分とかのペースで繰り返し魔力を注ぎ込まないと、すぐに中身がぬるくなってしまう。

 その点、ワイの店の商品なら魔力は不要だ。ちなみにマッチは売っているがライターは売っていない。そこらに捨てられると困るからね。マッチなら自然に帰るけど。

 んで、保冷バッグも最近になって売り出した。保冷剤もだ。どうやって保冷剤を冷やすのかという問題があったから最初は売っていなかったが、魔法使いに頼めばいいという事が分かって、軍用と冒険者向けに売り出したンゴ。魔道具よりも魔力を温存できると好評だ。安いやつでも数時間は保冷できるからね。この商品展開は近衛騎士団に納品するようになってから、相手の要望で取り入れたンゴ。


「実に素晴らしい商品をそろえていらっしゃる。悔しいと思うよりも、感動しましたよ。魔法も使わずにこれほどの物が作れるのか、とね。

 それで、技術開発のためにサンプルとして定期購入をしたいのですが。」

「分かりました。では、量や納品先などはどうしましょうか?」


 そう簡単に同じ素材を用意できるとは思えないンゴ。

 ただ、この世界にはミスリルとかオリハルコンとか魔物の素材とか、前世の世界にはなかったものがあるンゴ。だからワイの店の商品と同じだけの性能を出そうと思ったら、不可能ではない。ただ、かなり高級素材を使わないといけないから、同じ値段では売れないだろう。逆に、もっと高性能なものを作り出せる可能性はあるけど。

 ……と、そこでゲルダが口をはさんだ。


「ご主人様、意見具申よろしいでしょうか?」

「なんだ?」

「エルフ王国までは距離がありますし、1号店や2号店から運搬あそばすよりも、いっそ現地に4号店を出店あそばしてはいかがでしょうか?」

「ふむ……一理あるが……。」


 ドワーフ王国でのことがあって、あまり乗り気になれないンゴ。

 あの国でやった事といったら、飲みたくもない酒を飲まされて酔っぱらった事と、ドワーフ王家から逃げ出した事ぐらいだ。アースドラゴンの背中でキャンプしたのだけは、いい思い出だけど。


「その節は大変失礼をいたしました。

 しかし、エルフとドワーフでは文化がまるで違いますから、同じような事におなりあそばす心配はないと思います。」

「……そうか……。それなら大丈夫か……?」


 エルフについて知らないせいもあるけど、いまいち信じられないンゴ。

 自分と同じグループ以外を信じられない排他的な性質は、前世の影響かな……?


「我が国に出店していただけるなら、非常に助かります。

 土地や人員は用意しましょう。

 それと、個人的な贈り物も用意しています。」


 エルフの大使が呪文を唱えると、テーブルの上に魔法陣が現れて、そこから電球みたいに白く輝く光が生まれた。そして急に魔法陣も光も消えたかと思うと、テーブルの上に箱が置かれていた。

 今のは召喚魔法だ。召喚獣と呼ばれる怪物を呼び出して使役する魔法だが、アイテムを手元へ取り出す転移魔法として使ったらしい。


「これは、我が国の特産品です。他国では栽培していないと思います。」


 箱を開けてみると、見たことのない果実が入っていた。

 これはちょっとそそられるンゴ。現地の特産品たる食品を楽しむのもキャンプの醍醐味だ。果実があれば、召喚できる食料と合わせて、いくつもスイーツが作れるンゴ。パフェにしたりパイにしたり、ケーキやタルトにしてもいい。


「4号店か……うん。いいかもしれない。」

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