27:コウリマンの末路
セカンドが落下した先はドワーフ王国軍の最前線。アースドラゴン相手に戦い、まったくダメージを与えられずにいた彼らの頭上から、にわかに血の雨が降って、セカンドが落下してきた。
状況が呑み込めないセカンドだが、その姿は全身血まみれで真っ赤っか。つい今しがた降り始めた血の雨を浴びてだんだんと赤く染まり始めているドワーフたちとは違って、すでに全身が真っ赤に染まってビチャビチャに濡れている。まるで赤い川にでも落ちたかのように。
そして出血多量で倒れるアースドラゴン。勢いを増して噴き出した血の噴水が、だんだんと勢いを失い、血の雨もおさまったところで、塔のように屹立していたアースドラゴンの頭部は、力を失って地面に倒れた。なお胴体はもともと地面から浮いていなかったために、微動だにしなかった。
血の雨、真っ赤に染まったセカンド、倒れたアースドラゴン。ドワーフたちはすぐにセカンドが何をしていたのか理解した。この大英雄は、ドワーフ王家からあれだけ気分を害されたにも関らず、国難の大災害になるはずだったアースドラゴンが復活したとみるや、これを単身で討伐してしまったのだ。剣鉈による技術供与だけでなく、国家滅亡の危機から救ってくれた大恩人――!
「「うおおおおおおおおおおおっ!」」
「すげえ! すげえぜ、あんた!」
「いったい何をどうやったんだ!?」
「アースドラゴンを倒しちまうなんて!」
湧き上がるドワーフたち。彼らが拍手喝采するのは当然だった。涙を流して感謝と感動にむせぶドワーフたちを、誰が責められようか。
彼こそが英雄だ。救国の大英雄だ。
その場にいた誰も彼もが、いまだにポカーンとしているセカンドに賛辞を送り、拍手を送り、感謝の言葉でほめたたえた。
もちろん即座に大宴会である。武器をしまって、ドワーフ王国軍はすぐに酒を大量に持ってきた。遅れて合流したエレナとミネルヴァが興奮したドワーフたちに戸惑いながらも、乞われるままにセカンドがあけた穴へ案内し、アースドラゴンの肉が切り出されていく。
肉と酒。これだけあれば、あとは何もいらない。宴会はそれから三日三晩も続いた。
◇
国際問題だと言われても政治の素人であるドワーフ王家は反省しなかった。それどころか王女ゲルダをけしかけて自分たちの都合を優先し、セカンドに迷惑をかけたが、これが救国の英雄となれば理解度がまるで違った。政治のことは分からなくて現実感がなくても、英雄ならばより身近に感じられる。なんとなれば、ドワーフ王国はアースドラゴンを倒せる英雄を、その英雄が使う武器を作り出そうとしていたのだから。自分たちの目標、あこがれ、夢、国是――常に肌身に感じて目指して来たものこそ、英雄なのだ。それが現実のものになって、ドワーフ王家も深い感慨にふけることになった。
そして同時に、とんでもない相手に今まで数々の非礼を働いてきたことを理解し、親子そろって土下座する。
「正直すまんかった。」
「お許しあそばせ。」
青い顔を通り越して、白い顔も通り越し、半死人みたいな土気色の顔をしてひたすら頭を下げ続けるドワーフ王家親子。土下座というより、五体投地というほうが正しい。宴会に混ざっていたセカンドたちの前へ駆けつけ、前方伸身6回宙返り4回ひねりからのジャンピング土下座を決めたのである。
本気で反省した様子の2人を見て、セカンドは「誰が相手でも次はないぞ」と念を押しながらも、王女ゲルダを奴隷としてそばに置くことを承知した。理解が進んだのはいい事だが、相手の地位が変わったから態度を変えるというのは、セカンドにとって面白くないことだった。2人がこれで本当に反省して自分本位の態度を改めてくれたら、と願うセカンドであった。
あと、気合を入れるところが間違っている気がしたが、それは黙っておくことにした。
◇
セカンドへの謝罪を終えたドワーフ王は、コウリマンに接触した。
その表情は険しいものだった。
「あんな素晴らしい剣鉈を隠しておいて、あまつさえアースドラゴンを倒した大英雄を、お前にそそのかされて危うく敵対するところじゃったわ! お前は我が国を滅ぼすつもりか!」
ドワーフ王国は通商条約を見直すとまで言い始めた。
「ちょ……! え? どういう事!? これ、どういう状況!?」
コウリマンはパチモンのキャンプ道具を流通させてセカンドの店の評判を下げる計画が失敗したばかりで、さっぱり状況が分からない。
まさかセカンドがドワーフ王国でアースドラゴンをうっかり殺してキャンプしていたなんて、知る由もないのだ。なお、知ったところで意味不明である。
コウリマンが事の次第を把握したときには、すでにドワーフ王からミネルヴァの父に向って、通商条約の見直しが通告されていた。事態を重く見た王様(ミネルヴァの父親)によってコウリマンは全国商工会連盟の総会長を引責辞任することになる。
藪をつついて蛇を出したというべきか、雉も鳴かずば撃たれまいにというべきか。コウリマンはこうして表舞台から姿を消すことになった。




