26:ワイ、竜骨チャーシューメンを作ったンゴ
肩ロースなのかバラ肉なのか、あるいはもっと別の名称がふさわしいのか分からないが、とにかく頭の方向へ向かって適当に進んだところから切り出した肉を使い、タコ糸で縛って煮崩れないようにしたうえで、醬油やみりんなどを混ぜた液体に漬け込みつつ煮込んでいく。
先に切り出していた骨は、もうすでにグラグラと煮込みまくっている。エレナとミネルヴァにも手伝ってもらって、下茹でやアク取りは完了しており、ちょっと手抜きで鶏がらスープの素なんかをぶち込んで、ネギやショウガなどを加えてさらに煮込む。乳化して豚骨スープみたいな色になってきたら完成だ。ザルでこして固形物を取り除き、スープだけにする。
ついでに半熟卵と白髪ねぎも作ろう。それから麺をゆでて、チャーシューを切り分け、全部をどんぶりにぶち込めば竜骨チャーシューメンの完成だ。
「うンまァ~ッ! 何コレ!?」
「ふふふ……自分で作っておいて『何これ』は大げさではウマァァァ!?」
「確かにいい匂いがしますけど、そこまで絶叫するようなものですノォォォォォゥ! 疑ってごめんなさいですわ! 私の馬鹿馬鹿! あっ!? ほっぺたが落ちてどっか行っちゃいましたわよ!?」
なんていうか……想像以上にウマかった。ウマかった、馬勝った、牛負けた、なんていうけど、馬勝ったなんてもんじゃない。ぶっちぎりの優勝って感じ。もう、とにかくウマすぎてウマイしか言えない。語彙さんがどっかいったンゴ。
「はぁ~……ごちそうさまでした。」
「ごちそうさまでしたわ。」
「お粗末様。
さて、ちょっと寄り道してしまったが、肉料理に戻るか。
今度はステーキじゃなくて焼肉にしようかな。」
味の薄いものから濃いものへ、脂身の少ないものから多いものへ、というのが基本の流れだ。焼肉に限らず、寿司でも通用する。牛肉なら、最初はタン塩からというのが定番だろうが、さっぱり系でいえばハツも候補に入ってくるだろう。すでにロース肉やらチャーシューやら味の濃い脂の多いものを食べてしまっているが、それはそれ、これはこれ。焼肉はこれからだ。
アースドラゴンの背中にキャンプしてしまったワイら。甲羅に穴をあけて、地面を掘るように肉を切り出しているが、ここからだとタンよりハツのほうが近い。ちょいと切り取ってこよう。
そうと決まれば、肉を切り取って掘り進むより、内臓の隙間へ入り込んで進んだほうが早いだろう。なぜなら、内臓というものはすべて骨や筋肉から隔離された「空洞」の中に収納されている。焼き魚を食べたときの事を思い出してもらえば分かるだろう。筋肉を切り取って掘り進むより、この空洞に入って内臓と内臓の間にある隙間を進んだほうが簡単で早いに違いない。
「……と思ったけど、これは……ちょっと嘗めてたんゴ……!」
隙間はある。
肉を切り取る手間はかからない。
しかし、ぬるぬるしていて滑りやすく、思う方向へ進むのが難しい。
仕方ないので、剣鉈を2本召喚して、突き刺しながら進むことにした。内臓は剣鉈でも簡単に刺さるほど柔らかい。だからこそ、硬い甲羅で守っているのだ。内臓が甲羅のように頑丈なら、そもそも甲羅で守る必要がない。
もう1つ。呼吸が困難なのも厄介だ。内臓同士がとても柔らかく変形して、移動してもぴたりとワイを挟み込む。まるで水中にいるような気分だ。レベルが上がってステータスも上がっているから耐えられるが、そうでなければ窒息している。
しかし、しばらくそうやって格闘しながら進んでいると、次第にドクンドクンと脈拍が聞こえてきた。音のする方向へ進んでいくと、ワイはついに拍動する心臓にたどり着いた。
「よっしゃー! いただきまァ~すッ!」
ぶすっ! 高周波ブレードを心臓に突き刺し、くるりと円を描いて肉を切り取る。
直後、ワイは吹き飛ばされた。
「ぶへあ! がぼぼぼぼぼ!」
心臓に穴をあけたんだから、こうなるのは当然だったンゴ。
噴き出した大量の血液で、ワイはまるで津波に飲まれたみたいに押し流されてしまった。
そして、その大量の血液はどこへ向かうか――本来密閉されているはずのその空間に、出口は1つしかない。ワイが侵入してきた穴だ。
キャンプ地のすぐそばから赤い噴水が噴き出し、周囲に文字通りの血の雨が降る。しかもそれは、次第に勢いを増していった。
血の雨が土砂降りになった頃、ワイは血液に運ばれてアースドラゴンの体内から飛び出し、しばし宙を舞ったあと、地面に墜落した。
「ぶへあ! ぺっ! ぺっ! ひどい目に遭った……!」
体を起こして、周囲を確認。
キャンプ地はどっち……? おや……? なぜか周囲に武装したドワーフの集団がいる。
「何やってるンゴ? これ何の集まり?」
尋ねた直後、後ろでズシンと大きいな音がした。
振り向くと、アースドラゴンが倒れたところだった。
一瞬遅れて、ドワーフたちが叫びだす。
「「うおおおおおおおおっ!」」
「ファッ!?」
突然のことに、ワイは理解が追いつかなかった。




