24:ワイ、ドラゴンステーキを堪能中ンゴ
「うンまァ~い!」
あふれる肉汁! 口いっぱいに広がる旨味! 脂の甘みが肉の野性味を包み込み、ワイは今「贅沢」という言葉の意味を理解したンゴ。ドラゴンステーキ最高!
この世界を薄い板から見ている神様から、「調理法次第では刺身でもイケる」と教わったンゴ。マジ感謝(-人-)ナムナム
ただ、寄生虫とか怖いから、火は通して食べることにするンゴ。こんな山のような巨体に住み着く寄生虫なら、さぞかしデカいだろうから、うっかり遭遇しないように祈……あるぇ? 肉を食い荒らして体内に入っている……今まさにワイが寄生虫?
「……それにしても、すごい切れ味ですね。」
「まったくですわ。高周波ブレード……アースドラゴンの甲羅さえたやすく切り裂くその切れ味には、驚くばかりですわね。」
エレナとミネルヴァは、高周波ブレードに驚きながらも、ドラゴンステーキを食べる手が止まらない。
焼いても焼いてもすぐに食べきってしまうので、そのたびにまた地面を掘った穴から肉を切り出してくる。穴が深くなるにつれて、往復にかかる時間が長くなってしまい、ワイ1人では切って焼いて盛り付けてという作業が追いつかなくなる。そこでエレナが焼く作業を担当し、ミネルヴァが盛り付けを担当する。
ステーキなんて、たかが肉を焼くだけの簡単料理……などと思っていたら間違いだ。おいしいステーキを作るなら、ただ焼けばいいというわけにはいかない。しかも、そこにキャンプ特有の難しさが加わるから大変だ。
まず難しいのは火力調整だ。焚火台で薪を燃やして、その火で調理するわけだが、火力調整の方法が薪の投入量とタイミングしかない。順調に火が燃えているように見えても、可燃ガスが出なくなると急に火が消える。
そのあとは「おき」といって、火が付いた炭みたいになる。きちんと作った炭と違って、薪の燃えカスだから、常に風を当てておかないと簡単に火が消えてしまう。
なので、火が消える寸前を見定めて薪を追加してやらなくてはならないのだが、薪を入れすぎると空気の流れが阻害されてなかなか燃え始めないし、燃えたら燃えたで火力が強くなりすぎる。かといって少なすぎても、うまく薪に熱が伝わらず、なかなか燃え始めなかったり、ちょろちょろと小さな火が出るばかりで調理に使えるような火力にならなかったりする。
肉が生焼けになったり焦げたりしないように、エレナは細心の注意を払って火力を調整し続ける。適度な火力を保つためには、薪を3種類ぐらいのサイズに割っておく必要もある。細い薪はよく燃えるがすぐ燃え尽き、太い薪はなかなか燃えないが長い時間燃え続ける。だから2~3種類のサイズを用意して、火の様子に合わせて適度な比率で混ぜて追加していくと、火力のムラが小さくなって調整しやすい。
今までさんざんワイのやり方を見てきたエレナは、もう火力調整を心得ている。慣れているとはいえないが、ワイのやり方だと初心者でもわりと簡単に調整できるから大丈夫だ。失敗しても、それはそれでキャンプの醍醐味である。
エレナがそうやって忙しく肉を焼いたあとは、ミネルヴァが盛り付ける。もちろん、ただ皿に乗せて終わりではない。アルミホイルで包んで熱を逃がさないようにすることで、余熱で肉に火が通っていく。待っている間に、エレナがまだ焼く前の肉にも下処理をしていく。影包丁を入れて肉を柔らかくしつつ、下味がしみこみやすいようにするのだ。下味をつけた肉をエレナに渡し、焼いた肉をエレナから受け取ってまた処理していく。王女とは思えないほど、ミネルヴァは忙しく働いた。
「実家に帰ったら、料理人と給仕係のメイドたちにしっかりと今までのお礼を言いますわ……!
こんなに忙しくて大変だなんて……!」
「上に立つ者は、下に支える者がいてこそという事ですね。
私も帰ったら構成員のみんなをねぎらう事にします。」
「どんどん切り出してくるから、いっぱい焼いてほしいンゴ!」
ワイは穴と地上と往復し続けた。ちなみに山頂に向かって掘り進んでいる。すでに山頂付近だから傾斜は緩いが、それでも少しは掘り進みやすい。少なくとも、下り坂を掘っていくよりは。
やがて穴がかなりの深さになったところで、何やら白っぽい物体に行き当たった。食べるには、ちょっと硬すぎるようだ。
「……骨? かな?」
ドラゴンの体内にある、白っぽくて硬いもの。骨だろう。たぶん。どこの部分かは知らないが、位置的にたぶん背骨だろう。もしくは、背骨から近い場所の肋骨?
しかし、骨もすごい大きさだ。まるで巨大な岩でできた絶壁である。
「けどまあ、甲羅だって切れたんだし。」
高周波ブレードで骨を切断していく。
予想通り、たいした手ごたえもなく簡単に切断できた。大きさがものすごいので、少しずつ切り出していく感じになるが……まるで採石場だな。
あとで煮込んでみるか? 豚の骨を煮込んだら豚骨スープになるんだから、竜の骨を煮込んだら竜骨スープになるのか? あ、ラーメンか何か作ってみたいな。うへへへへ……! なんというファンタジーラーメン。煮込むのに時間はかかるが、他の具材は召喚できるな。
そしたらチャーシューも作らないと。大雑把にいえば、豚肉を醤油ベースの調味料で煮たらチャーシューになる。鶏肉や馬肉を使ったチャーシューもあるぐらいだから、竜肉を使ったチャーシューを作ったっていいだろう。うへへへへ……ファンタジーチャーシューだ。
たしか、バラ肉が一般的だが、肩ロースを使うこともあるんだったな。バラ肉が一般的なのは、値段が安いからだと聞いたが……じゃあ、肩ロースを使ってみよう。せっかくだから贅沢に。いや、どうせ贅沢にやるなら、両方試すか。
「……しかし、どこが肩なんだ? もっと頭の方だろうが、そもそもどういう骨格なんだ?」
ロースというのは肩から腰までの背骨まわりの肉だ。バラ肉はあばら骨の周りの肉である。あばら骨と背骨はつながっているが、背骨に近いところは、そこにあばら骨があってもロース肉である。バラ肉ではない。
では、アースドラゴンの場合は? 亀のような甲羅があることから、骨格も亀に近いことが予想される。亀の場合、甲羅はあばら骨の変形したもので、その内側に背骨がくっついている。肩甲骨や骨盤も甲羅の中にあるので、それらがあばら骨の外にある人間や牛や豚などの骨格と比べると、まるで袋を裏返したような構造だ。とにかく位置や形が違っても、同じような骨がある。ということは、そこに接続する筋肉もあるはず。場所や大きさは変わってもロース肉に相当する部位となる筋肉はあるだろうが、その肉質は果たして……?




