22:ワイ、竜の背中に乗っていたンゴ
新しい朝が来た。ドワーフ王家の親子から解放されて迎える希望の朝だ。
喜びに胸を開き、大空を仰ぐ。いい青空だ。わずかな白雲と青く晴れ渡った空のコントラスト!
ラジオでもあれば、健やかな胸をこの香る風に開くところだ。それ、イチ、ニィ、サン!
新しい空の下、眼下に輝く緑。
「……あれ?」
眼下に輝く緑……?
いつの間にこんな高い所に来たンゴ?
さわやかな風を感じながら、パップテント風に設営したタープを出て、手足を伸ばしてみる。う~ん、のびのび~!
さて。
土を踏みしめてみる。どうという事もない土だ。
体調も万全。健康そのものだ。健やかな手足を、この広い大地に伸ばして……ズシン、ズシン、ズシン!
「ファッ……!?」
いきなり地面が揺れた。
それも1回の揺れが1秒未満で、何度も連続して揺れる。
真下から突き上げられるような揺れだ。
地震……ではないな。地震だったら、これだけ強く揺れているのに1回の揺れがこんな短いわけない。こんな短い揺れなら、もっと弱い揺れであるはずだ。
「何事ですか?」
「どうしましたの?」
エレナとミネルヴァも起きてくる。
2人を振り向いたワイは、その方向のはるか遠くに、何か巨大な塔みたいなものを見た。
「ファッ……?」
ワイの表情から何かを感じ取った2人も、後ろを振り向く。
「えええ……!?」
「なんですの、あれ……!?」
毛むくじゃらの巨大な塔。その頂上部分には、毛のないつるっとした円錐みたいな部分がある。サイズを無視していえば、ネズミの顔のような……いや、ネズミというより、モグラか? ひげや目玉や耳が見当たらない。
「知らないのですか、ミネルヴァ?」
「エレナは知っていますの?」
「ええ。実物を見るのは初めてですが、知っている特徴には一致します。
あれは……アースドラゴンです。」
「アースドラゴン……!
そういわれれば、確かに……モグラと亀を足して2で割ったような姿で、山のように巨大だと……。」
2人が勝手に納得している。
アースドラゴンが、モグラと亀を足して2で割ったような姿? ドラゴンなのかモグラなのか亀なのか、はっきりしてほしいンゴ。
「えっと……つまり、ワイらは今、アースドラゴンの背中……甲羅の上に乗っていると?」
「そういう事です。」
「甲羅の中に引きこもったまま長い年月を過ごしていたのですわね。
甲羅の上に土がつもって、本物の山と区別がつかなくなっていたのですわ。」
なるほど。
そうとは知らずに乗ってキャンプをしていたわけか。
「アースドラゴンって、ドラゴンなんだよな?」
「そうですね。非常に頑丈で、どんな攻撃にもびくともしないそうです。」
「我が国に残る歴史書の中にも、討伐できた例がありませんわ。
ドワーフ王国は、アースドラゴンに襲われて何度も滅亡していますの。
そのたびに生き残ったわずかなドワーフが王国を再興していますけれど……ドワーフの鍛冶技術をもってしても、アースドラゴンには傷1つ付けられないのですわ。」
おお……! 姿がもこもこしていて無駄に可愛らしいわりに、しっかりドラゴンらしいイカツイ話もあるじゃないか。
「そうか。つまり、アースドラゴンはドラゴンなんだな?」
「……? そうですが……?」
「ドラゴンである事が重要なのですの?」
「もちろんだ!
ドラゴンといえば、ドラゴンステーキだろう!?」
ファンタジーと言えばドラゴン! ファンタジー飯といえばドラゴンステーキだ!
ドラゴンの肉を厚切りステーキにして食す! これぞファンタジー飯の王道!
そしてステーキといえば、キャンプ飯の王道の1つでもある!
これはもう、やるっきゃない!
「スコップ召喚! あ、そーれ! ざっくざく!」
トイレのない場所でのキャンプには、スコップが必須だ。何に使うかって? トイレだよ。穴掘って、出すもの出したら埋めるんだ。目印を置くのを忘れるな? 次に掘るときに同じところを掘っちゃうと、スコップが残念なことになるぞ。
もちろんどんなスコップでも構わないが、男のロマンを求めるなら多機能の変形するスコップがおすすめだ。スプーン部分のふちがナイフやノコギリになっていたり、柄が折れ曲がって鍬のように使えたりする。柄は伸縮可能で、折りたたんでコンパクトに携帯できるのも魅力だ。
……とは言うものの、即座になんでも召喚できるのなら、多機能ツールよりも1つの機能に特化したツールのほうがいい。断然、性能が違うからだ。折りたたみ式の多機能スコップは、スコップとして使おうと思うとスプーン部分が小さすぎるし、柄が短すぎる。ノコギリ機能も微妙な切れ味だ。トイレ用の穴を掘ったり、枝を落としたりするぐらいならいいが、ゴミを埋めるような大穴を掘るとか、木の幹を切るとかには適さない。
「おっと。意外と浅かったな。」
30㎝ほど掘ったところで、硬いものに当たった。
広く掘っていくと、岩ではなく、甲羅に当たっていたことが分かった。
見た目や質感が、完全に亀のそれだ。岩との違いは一目瞭然である。
「ふっふっふっ……! この下にドラゴンの肉が……!」




