21:ワイ、新しい道具を召喚するンゴ
キャンプなう。
カレーを作るンゴ。
「ここで新兵器の登場! たらららったら~♪ 高周波ブレード~!」
「なんですか、それ?」
「剣鉈とは違いますの?」
嫁2人が首をかしげる。
「ふっふっふっ……これはな……。」
ワイは近くにあった石を拾って、高周波ブレードを押し当てた。
石がまるで豆腐のようにあっさりと切断される。
「えええっ!?」
「ど、どういう切れ味ですの!?」
残念。詳しいことはワイも知らないンゴ。
ただ、高周波ブレードというのは、その名の通り特殊な高周波を利用しているらしい。分子結合や分子運動に干渉し、ブレードの強度を高め、切りつけた相手の強度を弱める。要するに、ブレードは頑丈になるが、相手は脆弱になるという謎の機能がついている。
前世では、これ1本でスーパーカーが買えるほどの値段だった。高級車なら数台買えるほどの金額だ。宝くじで1等を当てない限り、普通のサラリーマンには手が出せない。
しかし今は魔力さえあれば召喚できる。そして、1号店と2号店の繁盛により大量召喚を繰り返したことでレベルが爆上がり。最大魔力量もアホみたいに増えている。しかも、ドワーフ王に巻き込まれてここしばらくほとんど召喚していなかったから、魔力が有り余っているのだ。
というわけで、ついに憧れの最高級ナイフを召喚してしまったンゴ! ワイ、大興奮! 前世の世界の技術力に感謝ンゴ!
「こういう切れ味ンゴ。」
普通の包丁ではちょっと抵抗を感じるジャガイモやニンジンなんかも、ナスのようにスパスパ切れてしまう。う~ん、気持ちいい!
「うわぁ~……! さすがセカンドさん! そんなすごいナイフも出せるんですね。」
「ちょっとそのナイフ貸してくださいませ! ちょっとだけでいいですわ! ちょっと頬ずりして舐め回したら一応満足しますから……! ハァハァ……!」
「やめなさい、ミネルヴァ。
本当に顔とか舌とか切れちゃうから。」
普通の刃物なら、当てて引かなければ切れないが、高周波ブレードは当てるだけで切れてしまう。
触れるもの全てを切り裂いてしまうので、細かい彫刻とかみじん切りとかには適しているが、これを武器として使うのはお勧めできない。切りたくないものまで切ってしまうだろう。たとえば相手の攻撃を防御しようとして切り裂いてしまったら、そのまま通過してきた攻撃を食らってしまう。
「刻んだ具材を鍋に入れて、水を適量……あとは召喚したカレールーを入れて、具材が柔らかくなるまで煮込めば完成。やっぱりキャンプといえばカレーだな。」
「お手軽簡単な絶品料理ですね。」
「豊かなスパイスの味と香りが口に広がりますわ。宮廷料理人が裸足で逃げ出すレベルですわね。」
カレーといえばライス。これも抜かりない。
米1合というのは、容器で測れば180mlである。それに180mlの水を加えて炊けば、ほかほかごはんの出来上がり。俗に第1関節まで水を入れるとか言うが、指の長さなんて人によって違うのだから、もっと固定的な数値を使うべきだろう。使う米の量が変わっても「同じだけの水を使えばいい」と覚えておけば簡単だ。
フライパンでも鍋でもいい。ふたをしたまま10分ほど火にかけ、沸騰しても吹きこぼれても放置。チリチリと焦げるような音がしたら、火から外して、さらに10分放置すると、いい感じに蒸れてほかほかごはんが完成している。
メスティンと固形燃料を使うとさらに簡単だ。固形燃料がちょうど10分で燃え尽きるので、完全にほったらかすだけでいい。熱伝導率の違いがあるので、メスティンはアルミ製を使うのがベストだ。固形燃料で放置炊飯をやるなら、チタン製は使ってはならない。十分に炊けずに芯が残ってしまうくせに、底は焦げ付いて真っ黒になってしまう。
「このご飯というのは不思議ですね。ほのかな甘みと独特の触感が、何に合わせても調和してしまいます。」
「ですわね。特にカレーとの相性は抜群ですわ。」
「今度はもうちょっと辛くしてみようかな。とりあえず唐辛子をかけて辛味をプラス……。」
「さ、さすがセカンドさん……。宝石ほどの値段がするものを、惜しげも無くドバドバと……。」
「スパイスの使い方が豪気すぎて、狂気の沙汰ですわね。」
嫁2人にちょっと引かれた。解せぬ。
さて、食べ終わったら後片付けだ。ワイのスキルは「キャンプに使うものを召喚できる」という能力だが、召喚したものはスキルを解除して消すなんて事はできない。
そこで前世のワイがやっていた方法を再現する。スクレーパーというゴムベラの親戚みたいな道具があって、これで汚れを集めてゴミ袋へ。次にキッチンペーパーで拭けば、これでだいたい奇麗になる。霧吹きで水を吹きかけて再度キッチンペーパーで拭けば、乾燥して固まったような汚れさえも奇麗に落ちる。ゴミ袋からは多少生ごみの匂いがするが、焚火で出た灰や消し炭を一緒に入れると消臭できる。
「さあ、寝るか。」
焚火は動物除けになるという迷信があるが、あんなのは嘘だ。
むしろ焚火に寄って来る動物が多い。
山火事ほどの火なら動物も逃げるが、焚火ぐらいなら恐れるよりも明るさに引き寄せられるのだ。
よって、野営の際は早めに火を消したほうがよい。
「おやすみなさい。」
「おやすみなさいませ。」
「おやすみ。」
安全の保障がない場所でのキャンプ中にサカるほど馬鹿ではない。ワイらはすぐに眠った。
スヤァ~……。
走行中の車って、適度に揺れてとても眠くなるンゴ。これ、きっとワイだけじゃない。
目が覚めた時、ワイらは何か巨大なものに揺られていたンゴ。




