20:ワイ、ロリはお断りするンゴ
ゲルダを奴隷商人に売り払うことには失敗したが、ワイが本気だと理解したゲルダはそれ以降おとなしくなった。といっても、隙あらば色気を見せて誘惑しようとしてくるので、鬱陶しくてたまらない。マセた子供のほほえましいイタズラだったらまだいいが、ゲルダの場合は本気だからな。
ロリが悪いわけではない。子供や妹・弟のように可愛がる紳士的なアレなら問題ないのだ。しかし、ロリを性の対象としてしまうのはダメだ。ゲルダの場合は年齢的なアレもクリアしている合法ロリだが、それでもワイの守備範囲外。ワイのストライクゾーンは、30代のぼん! きゅっ! ぱーん! な色っぽいお姉さんからプラスマイナス10歳ぐらいンゴ。洗濯板にも満たないカマボコ板はお呼びじゃないンゴ。
しかしゲルダからのアピールは続く。鬱陶しいが、ゲルダは王女なので、王城では誰もゲルダを止められない。
「もういい! ワイが出ていくンゴ!
主人として命令する! ゲルダはワイの半径200m以内には近づくな!
エレナ、ミネルヴァ、行くぞ。3号店の出店計画は白紙撤回だ。ドワーフ王国からの謝罪は、償いどころか迷惑な邪魔にしかならない最低なものだった。もうドワーフ王国とは取引しない。」
「分かりました。従業員には即時撤退を指示しておきます。」
「残念ですわね。いくら政治の素人とはいえ、常識的なふるまいぐらいは期待できると思いましたのに。」
慌てるゲルダを無視して、ワイらはドワーフ王国を出ることにした。
きっちり200m離れてついてくるゲルダ。王女の奇行に、道行く人々が何事かと振り返る。
ワイは、協力的にしてくれたドワーフの鍛冶師たちに挨拶して、状況を説明し、撤退することを伝えた。
「じゃあ、そういうわけで。お世話になりました。」
「なんてこった……。」
「マジかよ……。」
「何してくれてんだ、あのクソ親子……!」
絶望し、憤慨する鍛冶師たちに、ワイはさわやかな笑顔を向けて出発する。
きっちり200m離れてついてきていたゲルダが、職人たちに囲まれて詰問されていたが、ワイの知ったことじゃないンゴ。そのまま置き去りにした。
徒歩での旅は、休憩をはさみながら1日あたり正味8時間ほど歩く。
平均4㎞/hとして、32㎞進むわけだ。
ただし、これは最大値である。実際には1日に30㎞以上歩くと、徒歩の旅のベテランでも翌日に疲れが残ってしまう。
ましてや、徒歩の旅は素人のワイら、1日に8時間も歩けるわけがなく、午前10時ごろに出発して、午後2時頃には野営の準備を始める。
「このあたりにしようか。」
まずはタープを張って日陰を作り、一休み。
テーブルとイスを出してくつろぎながら、冷えたジュースで乾杯する。いつもならチューハイを飲むところだが、もう酒はしばらく飲みたくない。
「今夜のテントはどうしましょう? せっかくですから、いつもと違うものがいいと思いますが。」
「タープ泊がいいと思いますわ。テントですと、どうしても出入り口を開けたり閉めたりしますもの。
不意の襲撃に即応することを考えると、出入り口にドアがないタープ泊がよろしいですわ。」
「そうだな。よし、タープ泊にしよう。」
テントを使わずタープだけで寝泊まりする「タープ泊」は、タープを様々な形に張ってその違いを楽しむのが大きな魅力の1つだろう。テントは必ず決まった形に設営しなければならないが、タープ泊なら折り紙の要領で様々な形に設営できる。
たとえば「単なる屋根」を形成するのでも、地面と水平に張るのか、三角屋根のようにするのか、一部を地面に直接固定するのか、などの違いが出せる。これは単に形が違うだけでなく、地面と水平にすれば広い日陰が作れて風通しもいいが、三角屋根のようにしたほうが雨水がたまって崩壊する心配がなく、一部を地面に直接固定したほうが強風に耐えられるといったように性能面でも違いが出てくる。
今回は、発見されにくく、かつ発見されても襲撃時に即応できるという機能を求めて、パップテント風に設営することにした。形状は、大雑把にいえば犬小屋みたいな形だ。屋根と3方向の壁があり、正面だけドアも壁もない。迷彩柄のタープを使うことでカムフラージュ効果により発見されにくくなり、襲撃されても正面から即座に飛び出すことができる。
パップテント風は、使うロープの数も少なく、1人でのんびりやっても1時間以内に設営できる。3人がかりでやれば、20分ほどで設営完了だ。あっという間である。
「料理はどうしようか?」
尋ねながら、焚火台と薪を召喚して、火おこしの準備を始める。
1~2本の薪を4分の1に割って、そのうち2本をさらに4分の1に割り、そのうち4本をさらに半分から4分割ぐらいにする。そして一番細い薪――割り箸ぐらいになったそれを、薄く削るようにしてフェザースティックを作り、火をつける。
綿毛のようになった薪が燃えている間に、細い薪から順に燃やして、だんだんと火を育てていく。これぞ焚火の醍醐味だ。より小さい火から注意深く慎重に育てることに楽しみを見出し、わざわざメタルマッチや火打ち石を買う人もいるぐらいである。
いったん火が育ってしまえば、あとは消えかかっても空気を送り込めばすぐに復活する。そのためには、扇風機や団扇よりも火吹き棒がいい。細長いパイプで、息を吐いて送り込む道具だ。この作業には、ただ大量の風を送り込めばいいというものではなく、適した量の風を適した場所に適した勢いで当てるのが肝心である。状況によっては、寒い日に吐息で「はぁ~」と手を温めるような非常に弱い風を送るのが最も効果的になることもある。火というのは、燃料そのものが燃えるのではなく、燃料から出た可燃ガスが燃えるのだ。あまりむやみに強い風を当てると、可燃ガスが吹き飛ばされていつまでも火がつかないのである。
「時間はありますし、煮込み料理でも作りましょうか。」
「いいですわね。私、カレーを所望しますわ。」
「よし。じゃあ、カレーを作ろう。」




