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2:ワイ、チンピラに絡まれたンゴ

 ワイがスラム街の有名人になって、スラムの住人がマナーよく過ごしてくれるようになって、それからしばらくした頃に、ワイのもとに4人の男がやってきた。

 3人はチンピラ風で、1人は身なりこそ上等だが顔がいかつくて、どう見てもその筋の連中だった。

 ワイ、なんかしたンゴ……? 場所代とかみかじめ料とか取られる系……?


「あんたがセカンドか?」


 身なりが上等な男が話しかけてきた。

 目つきが鋭い。顔が怖い。妙に迫力がある。前世でいうところの「や」の字がつく方々だろうとは想像できたが、ワイは前世が営業職。その記憶を取り戻してしまった今、「相手の人相風体が恐ろしい」という理由だけで怖がるなんて、そんな失礼なことはできない。態度にも出せない。「俺の顔が怖いだあ? なに失礼ぶっこいてんだテメェ」と本当に暴れられてはたまらない。

 こういうときは、普通に、自然な態度で――


「はい、私がセカンドですが、どちら様でしょうか?」


 ぴくりと身なりが上等な男の眉が動いた。

 同時に、チンピラ風の3人がワイを前と左右から取り囲む。


「てめえ、嘗めてんのか、コラ!?」

「見りゃ分かんだろが、おお!?」

「どちら様じゃねーんだよ、このボケ!」


 どうやら相手は有名人らしい。

 こういう連中は、自分のことは知られているのが当然だと思っている。知らない=お前なんて知名度が低くて知らないよと馬鹿にされた、という謎理論で怒り出す。まずそれが間違いだと指摘しなければならないが、下手に伝えると逆上させてしまうので、へりくだって、かつ言い訳をしないように伝えるのがポイントだ。


「不勉強で申し訳ありません。

 恐れ入りますが、お名前を教えていただけますか?」

「マジで知らねぇってのか?」

「どこの田舎モンだ、てめえ?」

「子供でも知ってんぞ、オイ?」


 チンピラ風の3人が、威嚇状態から呆れ状態に移行した。


「申し訳ありません。

 なにしろつい数日前にこの街に来たばかりの田舎者でして。私の故郷はドーイ・ナーカ村というのですが、ご存じでしょうか?」

「しらねぇよ! どこにあんだ、そんな村。」

「聞いたこともねぇ。」

「マジで田舎モンじゃねえか。」


 チンピラ風の3人が、呆れ状態から嘲笑状態に移行した。

 つまり、ワイが何も知らない田舎者だと信じてくれたわけだ。こちらの状態をおおむね正しく認識してくれたわけで、敵対的だった態度もだいぶ緩和されている。無事にやり過ごせそうになってきたから、ワイとしては、この時点でほぼ勝利といえる。


「お前ら、ちょっと下がってろ。」

「「へい、兄貴。」」


 身なりが上等な男が言うと、チンピラ風の3人がすぐに後ろへ下がった。


「セカンドさん、いきなり脅すような態度ですまなかった。

 俺は、このスラム街を仕切るマフィアの幹部なんだが、ボスがあんたをお呼びだ。俺たちは、あんたをボスのところに案内するために来た。一緒に来ちゃあくれねぇか?

 なに、悪いようにゃあしねぇよ。ボスは、あんたにお礼をしたいそうだ。」





 連れていかれた先は、スラム街の奥にある立派な屋敷だった。

 ここもまだスラム街で、周囲の建物はボロっちいのだが、この建物だけ立派だ。

 中に入って案内されるままに進んでいくと、大勢のこわもてが居並ぶ大部屋へ通された。怖い! 超怖い! しかし、見た目や雰囲気だけで「怖い」とは言えないし、態度にも出せない。それは失礼で危険なことだと、前世のワイが全力で警告してくる。


「ボス、セカンドさんをお連れしました。」

「おう、ご苦労。

 ……さて、あんたが噂のセカンドさんか。」

「はい。セカンドと申します。」


 相手の目を見て、堂々と答える。これが正解のはずだ。

 しかし、こわもてのボスの目を見るなんて、ワイにそんなクソ度胸はない。こういう時は、相手のまつげを数えるンゴ。あたかも相手の目を見ているような位置へ視線を送りながら、実際には目を合わせずに済むという妙技である。


「まずはお礼を言いたい。

 スラムの連中に大規模な施しをしてくれて、どうもありがとう。おかげで何人が飢え死にせずに済んだかしれない。しかも無教養な連中にマナーまで叩き込んでくれた。今やスラム街は見違えるようだ。本当にすごい事をやってくれた。

 領主が見捨てたスラム街を救済するのは、ここに根を張る俺たちの役目だ。あんたがやってくれた事は、本当なら俺たちがやらなきゃいけない事だった。だが、俺たちにはあんたほど大規模に食料を配るだけの資金力がない。食料だけ買い集めるなら簡単だが、それを輸送するにもコストがかかるからな。ぶっちゃけ輸送費や人件費のほうが高くつく。それをあんたは、たった1人で……誰にも真似できねぇ。あんたにしかできない事だった。

 それだけに、不躾ながら重ねてあんたに頼るしかない。どうか、これからもスラムの連中を支えてやってほしい。この通りだ。」


 マフィアのボスが深々と頭を下げた。

 居並ぶこわもて達が「ボス!?」「やめてください!」「そこまでするなんて!」とか言って慌てている。確かに、マフィアのボスがただの村人に頭を下げるなんて、これはとんでもない事だ。それだけに、これを断ったら何をされるか分からない。たとえボスが許すといっても、「ボスが頭まで下げたのに」と暴走する連中が出てくるだろう。

 ならばここは堂々とした態度で引き受け、頼れる奴だと思わせるのがいい。というか、最低でも「ボスが頭を下げただけの価値はあった」と思わせないと、ワイの身の安全が保障されない。


「お任せください。スラムの方々には、快適な生活をお約束します。」


 答えると、マフィアのボスはがばっと顔を上げた。

 そしてワイの手をがしっと握る。けっこう力が強いな。


「ありがとう! 本当にありがとう!

 あんたにだけ損はさせない。俺たちも、できるだけの事はする。あんたの身の安全は、俺たちが保障しよう。その証拠として、俺の娘をあんたの嫁に出そう。」


 ファッ!?


「娘もあんたの噂を聞いて、あんたのことを気に入っているようだから……といっても、まずは1度、顔合わせが必要だな。おい、誰か娘を呼んで来い。」

「へい!」


 こわもての1人が返事をして部屋を出て行った。

 ちょ……! え!? なにこれ、拒否とか辞退とかできない流れ!? ワイ、マフィアのボスの娘と結婚するの!?

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