19:ワイ、ゲルダに襲われたンゴ
どうしてこうなったンゴ……?
寝て起きたら、ワイの上にゲルダが乗ってたンゴ。それも全裸で。
「あんっ。ご主人様……!」
こ、この下半身に感じる感触は……!
「何やってるンゴ!? そんなこと命令した覚えないンゴ!」
ドワーフの平均寿命は150歳らしい。つまり肉体の成長もそれ相応に遅いわけだ。しかも平均身長160㎝と小柄で、ゲルダは妙齢である。要するに、絵面が犯罪にしか見えないンゴ!
「私の意思です。」
「お父上になんて申し開きすればいいンゴ!?」
「父も承知しています。ていうか、父の命令でもありますからご安心あそばせ。」
「何一つ安心できないンゴ!」
「ドワーフ以上に優れた鍛冶師の才能を取り込むチャンスなんて、ドワーフにとっては天の恵みですから。」
「ちょっと何いってるか分からないンゴ。」
なんか酔っぱらってる間にまたドワーフに都合のいい方向へ流されたっぽい事だけ分かるンゴ。
あとで聞いたら、エレナとミネルヴァも強い酒で潰されてて、前後不覚のままゲルダの暴走を許してしまったらしいンゴ。もちろん本人たちはまったく記憶がなかったンゴ。
「チックショー! もう二度とドワーフと一緒には飲まないンゴ!」
「ご主人様ぁ……もう大きくおなりあそばされないのですか?」
「趣味じゃないから無理ンゴ。」
「ひどい……! これでもドワーフの中ではトップレベルと自負しておりますのに……!」
「正直すまんかった。ワイはおっぱい星人ンゴ……。」
「あんな贅肉の塊のどこがいいというのですか……!?」
「ワイは柔らかいベッドのほうが好きンゴ。
まあ、世の中には地面に寝袋でも寝られる人もいるけど、ワイはコット必須ンゴ。」
組み立て式の簡易ベッド「コット」は、岩だらけの場所でも地面から距離をとることで快適に寝られる超絶寝具。地面から距離をとれるため夏は風が通って涼しいし、冬は地面からの冷えを遮断できる。
「だいたい、妻として嫁いできたんじゃなくて奴隷として償いにきたんだから、主人の許可なく勝手に襲ってこないでほしいンゴ。そういうとこンゴ。親子そろって、まったく非常識ンゴ。」
「しくしく……。」
「泣きたいのはこっちンゴ。やりたくもない浮気をやらされるなんて、たまったもんじゃないンゴ。」
「申し訳ありません。二度とないチャンスに目がくらんでしまい……。」
「そういうとこ、本当に親子ンゴ。
エレナとミネルヴァが二日酔いから復活したら、みっちり説教ンゴ。覚悟しておくといいンゴ。」
ワイもぐちぐち言ってやりたいぐらいだけど、もうンゴンゴ言いすぎて疲れたンゴ。
とりあえずゲルダを部屋から追い出して二度寝しよっと。
今度こそすっきりさわやかな目覚めが迎えられますように……スヤァ~……。
……。
…………。
……………………。
「どうしてワイのベッドに入ってるンゴ?」
うつらうつらしかかったところで、ゲルダがベッドに侵入してきた。
「王女ですから、王城のどこに行くのも自由ですもの。」
「だからといって、来客がいる客室に入り込むのか?
それも他国の王女の夫が寝ているベッドに、その奴隷である身でありながら。」
「奴隷ですからご主人様のそばに控えているのは当然かと。」
「俺は『出ていけ』と命じたはずだ。」
「王女ですから、王城のどこに行くのも自由ですもの。」
ループした! 話が通じないタイプだったンゴ。
「よろしい。そっちがその気なら、こっちにも考えがある。」
「では子種をいただけるのですね?」
「馬鹿言ってろ。」
ワイはゲルダを引きずって奴隷商人のもとを訪れた。
「こいつを売りたい。捨て値で構わん。」
ワイはゲルダを奴隷商人の前へ放り出した。
「おや? これほどの上玉を?」
「主人の命令を無視して迷惑ばかりかけるんだ。使い物にならんどころか、邪魔でしょうがない。
次の買い手が現れたら、『俺の前に現れないこと』を条件に売ってくれ。」
「おやまあ、それほどの……。
そうなりますと、これは『いわくつき』という事になります。本当に捨て値になってしまいますが、よろしいですか?」
「二度と俺の前に現れないように引き取ってくれるなら、こっちが手数料を払ってもいい。」
「わかりました。
では、こちらの書類にサインを……。」
「ちょっ! ご主人様! マジでご勘弁あそばせやがれください!
私が悪うございました!」
ワイが本気だと理解して、ゲルダが慌てる。
だがもう遅い。いまさら拾ってくれと言われても、ワイにはもうゲルダを拾ってやる理由なんかないンゴ。
「ドワーフは、ムカつく事を言われたら相手を国ごと滅ぼすんだろ? それに比べたら、このぐらい優しいほうじゃないか。それを勘弁しろ? ふざけたことをぬかすな。
しかもお前は、主人である俺と、その妻の仲を引き裂こうとした。邪魔が入らないように妻を酔い潰れさせてまで……不貞を働くにしても、よりによって最悪の内容だ。主人にとって害悪しかない。こんな腐れ奴隷を、何かの実験台か捨て駒にでもする以外で欲しがる奴がいたら、見てみたいものだ。」
「そ、そこまでおっしゃらなくても……しくしく……。」
ゲルダが手の甲で目を押さえる。
出た出た、お得意のウソ泣きが。
冷めた目でゲルダを見ていると、奴隷商人がこっちの顔色をうかがうように揉み手をしながら上目遣いで近寄ってきた。
「あのー……お客様。申し訳ありませんが、そこまでひどい奴隷ですと、買い手がつかないと思いますので、この話はなかったことにさせてください。」
「まさかの買取拒否!?」
なぜかゲルダがショックを受けている。
「こっちが代金を払うといっても駄目か?」
「申し訳ありません。
その代わり、ご迷惑の内容が犯罪にまでなりましたら、犯罪奴隷として引き取らせていただきます。
その時には、今回のお詫びを兼ねまして、少し色をつけさせていただきますので。」
残念。
「不貞は犯罪ではないという事か。」
「刑法に定めがありませんので。」
犯罪とは、刑法という法律に記載されている行為だ。殺人、窃盗、傷害、詐欺など様々な行為が刑法に記載されて「犯罪である」と定められているが、その中に「不貞」はない。従って不貞は犯罪ではない。
「なら強姦は?」
「我が国の刑法では、強姦罪は『合意なく女性を姦通する行為』と定められております。
前提として、強姦罪の犯人は男であるという事になっていますので、残念ながら男性の立場で被害者として訴え出るのは無理かと。」
なんという穴。どんな言葉を使っても、言語で定めた以上はそれに当てはまらない場合というのが出てきてしまうものだが、それにしてもこれはひどい。単純に「女性を」と性別を限定せず「相手を」と定めておけばいいものを……。この条文を定めた奴が想像力の足りないアホだったとしか思えない。こんな条文だったら、男が男に突っ込んでも犯罪にならないじゃないか。被害者にとっては、ものすごい屈辱に違いない。
あきれるばかりだが、そういうルールになっているというのなら、ゴネても仕方ない。
「やれやれ……しょうがないな。
それじゃあ、また今度たのむ。」
「はい。お待ちしております。どうぞ十分にお気を付けください。」




