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17:王女ミネルヴァ、妻としてドワーフ王国に乗り込む

 帰国したワイは、準備を整えてからドワーフ王国に戻ることにした。

 3号店を出して、ドワーフ王をちょっと糾弾する。


「我が国の民を、それも王女である私の夫を、連絡も許可もなく連れ去ったのは、あなたですか。」


 ミネルヴァが怒り心頭の様子でドワーフ王に詰め寄る。


「あっ……。

 あ、いや、そんなつもりではなかったのじゃ。ちょっと急いでいたために、手順が前後しただけで……。」


 じゃあ今の「あっ」は何だったんだと、その場の全員が心の中で突っ込んだが、ドワーフ王の中ではその発言はなかった事になった。

 全員が「絶対忘れてたな、こいつ」と思ったのは言うまでもない。


「バカですか!?」


 ミネルヴァの説教がそれから1時間ほど続いた。手順が前後すればそれは不正なのだ。問題を「解いて」から「正解」を見るから答え合わせになるのであって、「正解」を見てから「解いた」のではカンニングである。手順というのは万事そういうものだ。

 がみがみと説教し続けるミネルヴァだが、あまりにも正論すぎて、誰もドワーフ王を庇えない。

 こってり絞られたドワーフ王が、なんだかやつれた感じになった所で、ミネルヴァは尋ねる。


「それで、私の夫は今どこに?」

「うっ……!」


 知らない。

 分からない。

 宿を用意せず、王城に招いたわけでもなく、街に入ってすぐ放置してしまったので、本当に把握していない。しかもセカンドが路頭に迷っている間、ドワーフ王は金も払わずに店から持ち出したままの剣鉈を、嬉々として研究していた。どんだけ自分勝手なんだと言われても、何一つ反論できない。

 言葉に詰まって答えられないドワーフ王に、ミネルヴァはさらに詰め寄る。


「なぜ黙っているのですか?

 ……まさか、分からないとでも?」


 そうだ、とも言えず、ドワーフ王は黙るしかない。

 信じられない、とミネルヴァは頭を抱えて頭痛でもするように首を振る。


「す、すぐに捜索を……。」


 と、ドワーフ王が指示を出そうとしたところで、部屋の外から騒ぎが聞こえてくる。


「何事だ?」


 ドワーフ王が扉に注目すると、ほぼ同時にその扉が開いてドワーフたちがなだれ込んできた。


「おい、陛下! これはどういう事だ!?」

「こんな凄いナイフをくれる人間に、お前、なんて仕打ちをしやがったんだ!」

「彼が怒ってナイフを売ってくれなくなったらどうするつもりだ!?」


 数十人のドワーフたちが、3本の剣鉈を手にドワーフ王に詰め寄る。


「その剣鉈は!」


 と、ミネルヴァがドワーフたちに、


「それをどこで手に入れたのですか!?」


 鬼気迫る様子で詰め寄った。


「み、店に来た人間が売っていったんだが?」

「無一文で、当座の金に困っていると……。」

「そのあとは、これを売った代金で国に帰ると言っていたが……。」


 少し気圧された様子で、ドワーフは答える。


「なんてこと……!」


 目眩がする、とミネルヴァは目頭をおさえた。


「ドワーフ王。これは国際問題ですよ?

 あの人は戦う力のないただの商人。なんとか帰ろうとしたのでしょうが、もし無事に見つからなかったら、どう責任をとっていただけるのでしょうね?」


 護衛を雇うだけの金額になったのだろうか? 雇えたとしても、その護衛はセカンドを裏切ることなく守ってくれるだろうか? あるいは途中で盗賊や魔物に襲われ、護衛が守り切れないなんて事にならないだろうか?

 この世界で旅をするのは、自分自身が戦えるのでなければ、かなり危険である。


「こ、国際問題!?」


 ようやく事の重大さを認識したドワーフ王が、いまさら青ざめる。

 鍛冶の腕前で王を決めるドワーフ王国では、王といっても政治の素人であることが多い。過去には、他国の使者からムカつく挑発を受けて相手を殴り、国際問題になったが一歩も引かずにそのまま戦争を始めた事もある。ドワーフ王国もけっこうな犠牲を出したが、相手を降伏させて戦争には勝利したため、この事件はドワーフの間では「自分たちの誇りを守った美談」のように思われている。

 ところが、今回の場合はそうならない。他国の王女の夫を、許可なく連れ去り、安全確保もせずに放置して、所在すら把握していない。これで国際問題になって戦争に発展しても、勝ったところで得るものなどない。相手国に恨まれるばかりか、周辺諸国にも呆れられ、不手際があっても戦争を起こしてうやむやにしてしまう危険国家……そんなふうに評判と信用を落としてしまう。関係を見直そうとする国や、商売相手としては手を切ろうと考える商人が、かなりの数にのぼる事だろう。それはドワーフ王国の経済を大きく低迷させることになる。


「あたりまえでしょう?

 それで、もしもの時にはどう責任をとっていただけるのですか?」


 どうもこうも、責任なんてとれるわけない。蘇生の魔法でもあればいいが、そんなものはないのだ。

 アワアワとうろたえるばかりで、言葉が出てこないドワーフ王。

 すると、ドワーフの王女が前へ進み出た。


「もしもセカンド様がご生還あそばされなかった場合には、ドワーフ王国は国王とその一族全員が首を差し出します。」


 ドワーフの王女は毅然と言い放った。

 ドワーフたちがどよめく。


「静まりなさい。

 わが父は、それだけの失態を演じたのです。勝手に連れ去って、安全すら保障しないままお亡くなりあそばされたとあらば、父の首1つでは『お亡くなりあそばされた』その1点のみの償いにしかなりません。勝手に連れ去ったことも、安全を保障しなかったことも、父の首1つだけでは償えないのです。

 考えてみなさい。あなたたちの伴侶が、突然何者かに連れ去られ、危険な場所に放り出され、そのまま死んでしまったなら、あなたちはドワーフの誇りにかけて、相手にどれほどの償いを求めるのですか? 過去、ドワーフ王国は『使者にムカつく事を言われた』という理由だけで相手国を滅ぼしました。それと比べれば、ドワーフ王国が滅ぼされても文句は言えない大失態なのですよ?」


 ぴしゃりと言われて、ドワーフたちは誰も反論できなかった。何しろ過去のその話は、「ドワーフをなめるとそうなるのだ」とドワーフたちの間で美談のように語られる。その立場が逆になったのなら、苛烈な償いを強いられても文句は言えない。

 静まり返った室内で、ドワーフの王女はミネルヴァに向き直る。


「もしもセカンド様がご無事に発見あそばされた場合には、勝手に連れ去り、安全を保障せず、ご迷惑とご心配をおかけしたことへの償いとして、この私、ゲルダがセカンド様の奴隷となります。」


 ドワーフ王女の爆弾発言に、またもドワーフたちがざわめく。


「静まりなさい!

 夫の行方も安否も分からず、この方がどれほどお心を痛めあそばされているか……その元凶たる父には、同じだけの苦しみを味わってもらいます。愚かな行いのツケを払って、生涯反省しなさい。」


 それはドワーフたちにとって神々しいほどの姿勢だった。

 妥協を許さぬ職人肌の苛烈な気質。ゲルダこそ、真のドワーフだったのだ。

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