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16:ワイ、暗躍するンゴ

 手紙を出して、その返事が戻ってくるまで、ワイ待機中。

 手紙には――


 ドワーフの王様に拉致られてドワーフ王国に来ちゃったンゴ。こっちに3号店出すから資金送ってね。財布もってない勤務中に連れてこられて無一文で放置されてるから、サバイバルなう。


 とか書いておいた。

 正直このドワーフ王は、ちょっとないわーと思うンゴ。準備もさせずにいきなり連れてくるとかありえないし、招待するなら宿と食事ぐらい用意してほしいンゴ。これじゃあ誘拐(キャッチ・)して(アンド・)置き去り(リリース)ンゴ。

 そういえば、これって修羅場スレでは何度か見た話ンゴ。障害がある嫁を気に入らない姑が、山の中に嫁を捨ててきたとか、視力の低い彼女を眼鏡もろとも山に捨ててきた彼氏とか……そういえば、子供を捨ててきたパターンもあったっけ。どのパターンでも、偶然通りかかった人に助けられて、そのあと捨てた側がボコボコにされるっていうオチだったけど。

 けど、今回は相手が一応「王様」で「お客様」だし、ボコボコにするのはナシかな。値段をふっかけてやるとか、いきなり連れてこられても商品が用意できないとゴネるとか、いくつか方法はあるけど、ちょっと常識をわきまえるように「お願い」する程度にしておこう。


「とりあえず……ドワーフ王の支持率を暴落させるかな。」


 向かった先は職人通り。

 といっても、ドワーフ王国はそこらじゅうが職人通りだらけだ。ドワーフ王は剣鉈に興味津々だったようだから、刃物の職人通りへ向かおう。

 ウインドウショッピングのつもりでぶらぶらしていけば、やがてその場所が見つかる。


「こんにちはー。」

「いらっしゃい……おっと人間か。珍しい。」

「売りたいものがあるんですけど。」

「ん? なんだい?」

「これです。」


 剣鉈を差し出す。


「こっ……!? これは……!?」


 ドワーフ王とよく似た反応をしている。

 ドワーフ王国で一番の腕前と自負するドワーフ王が降参するほどの品だ。そこらの鍛冶屋でも同様だろう。


「あんた、どこでこれを!?」

「それは秘密です。

 ドワーフ王がこれを大量に買いたいと。」

「ああ……だろうな。

 ……それをどうして、うちに?」

「誘拐される感じで連れてこられたんで、無一文なんですよ。

 かといって王様が食事や宿を用意してくれたわけでもなくて、到着したらすぐに『これを100個くれ』って言われて、あとは放置ですよ。どうしろと? 故郷に連絡する方法すらわかりませんて。」


 連絡はしたけどね。

 冒険者ギルドはこんな国にもあるもので、手紙の配達を頼んでおいた。郵便配達なんて本来は低ランク向けの仕事だが、料金をはずめば高ランク冒険者に依頼することもできる。中には特急便が可能な冒険者もいるというわけだ。

 なお、その代金を工面するために、冒険者ギルドで冒険者たちにも剣鉈を売った。ほんの数本だけどね。


「あのアホ陛下め……!

 こんな凄い物を用意してもらうのに、そんな無茶苦茶なやり方があるもんか!」


 鍛冶屋は怒り出した。

 やはり高い技術に対する敬意は持っているようだ。興味と欲望だけで突っ走る王様みたいな奴ばかりだったら、どうしようかと思ったンゴ。

 接客もやる民間人なら、もっとまともだろうと思ったけど、あたりだったンゴ。


「ですよね。ああ、よかった。

 王様があれだったんで、ドワーフはみんなああいう非常識な種族なのかと思いましたよ。」

「いや、そんなわけない。本当に済まない。」

「ちょうど商品説明の途中だったので、3本だけ持ってるんですが、これを売ります。当座の金に困っていますから。

 いくらで買ってくれますか?」


 と、こっそり召喚した剣鉈を追加で出す。


「そ、そうか……しかし、これほどの物に値段をつけるなんて……。」

「じゃあ、無料で差し上げます。

 その代わり、故郷に帰れるように助けてください。故郷に帰れたら、さらに10本を差し上げます。」

「本当か!?

 ……よし、任せろ。」


 鍛冶屋は外へ飛び出した。


「おおーい! みんな! 聞いてくれ!」


 大声で鍛冶屋が叫ぶ。

 なんだなんだ、とそこらじゅうの店や工房からドワーフたちが出てきた。


「かくかくしかじかで、こんな凄いナイフをくれるそうだ!」

「おお!? なんじゃ、こりゃ!?」

「すげぇ! こんなの見たことねぇぞ!?」

「見たところ鉄製か? 特別な魔法付与もなさそうだが……なんだ、この鋭さは?」

「頑丈さも半端ないな。ミスリル以上じゃないか?」

「てか、陛下が馬鹿すぎる!」

「ありえん対応だ!」

「いっぺん殴ってやるべ!」

「あんなのに国を任せて大丈夫かや!?」


 わいわいと剣鉈を観察し始め、ドワーフ王を批判する。

 うひひひ……! 暗躍暗躍ぅ!

 かと思ったら、全員が一斉にぴたりと止まってワイに振り向いた。


「「で、これをくれるって?」」


 シンクロ率が高すぎてヤバイ。

 何この集団。キモい。集合体恐怖症だったら卒倒するところだ。


「ええ。

 手伝ってほしいことは、主に2つです。」


 帰国するための援助と、3号店を出すための準備をお願いした。

 ドワーフたちが再びわいわいと話し合い、たちまち3号店の場所が決まった。使ってない倉庫があるから、それを使えばいい、だそうだ。

 たしかに一般向けに商売するわけじゃないから、倉庫で十分だ。

 このあとすぐに帰国することになった。


「あっ……! しまった。」


 ドワーフ王国を出発して馬車に揺られていると、ふと思い出したことがあった。

 なんてこった。これを忘れていたなんて。


「キャンプし忘れたンゴ!」


 現地の風景、食材、酒……その土地でしか楽しめないキャンプ要素は多い。

 非日常を味わえるのがキャンプの最大の魅力だが、旅行のように現地のものを楽しむのもキャンプの魅力の1つだ。やれやれ、もったいない事をした。

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