14:ワイ、今度はドワーフに誘拐されたンゴ
「素晴らしい……! 鍛冶の道には、まだこれほどの高みがあったか……!」
興奮した様子のドワーフ。
彼はドワーフ王国で一番の腕間を持つ鍛冶師だという。ドワーフ王国で一番ということは、世界で一番ということだ。鍛冶の腕前でドワーフの右に出る者など、この世界には存在しない。そのドワーフをうならせる剣鉈――前世の世界の技術力がどれだけすごいのか、改めて認識したンゴ。
「よし、ちょっと来てくれ。ドワーフ王国へ招待しよう。」
むんず、と手をつかまれて、ワイはそのままドワーフに引きずられていった。
「ふはははは! 今日は何と素晴らしい日じゃ! これほどの出会いがあるとは思いもせなんだ!」
興奮しきりのドワーフは、ワイが「放してくれ」と叫んでもまるで聞こえていない様子だ。
160㎝ほどの小柄な種族だが、筋骨隆々のドワーフ。戦士としても優秀だというそのパワーは、特に鍛えてもいない人間のワイでは、振りほどくことも引き留めることもできない。
そのままズルズルと引きずられて、その日の夜には「まあ飲め」と酒を飲まされ――それがまた、ものすごく強い酒で、ワイは前後不覚になってしまったンゴ。
気づいたら日が昇っていて、ワイは強烈な二日酔いでグロッキー。もはや抗議の声を上げることもできずに、ズルズルと引きずられ続けた。そしてその夜にまた飲まされて……ループだ。
もはや何日が経過したのか分からないまま、不意に手を離されて、ワイは「ぽてっ」と地面に転がった。
「さあ、ついたぞ! ここがドワーフ王国じゃ!」
左右に広がる山脈の、その中腹あたりにいるようだった。
山の斜面に並ぶ茶色の……おそらく石や土(レンガや瓦のようなものだろう)でできた建造物の数々。バルカン半島あたりにこういう風景があったな。ベラートだったか? 昔、写真で見たな。ちなみに、行ったことはないンゴ。
街の出入り口には兵士がいた。その兵士もドワーフだ。
「あっ! 陛下! おかえりなさいませ!」
「「おかえりなさいませ!」」
最初に1人の兵士が気付くと、他の兵士たちが声をそろえて言った。
「ファッ!? 陛下!?」
「うむ。ワシ、一応ドワーフ王なんじゃ。」
正直「またか」って感じだな。こんなんばっか……。
もうだんだん慣れてきたンゴ。今から思うと、エレナのパパさんに初めて出会ったときが一番ビビったンゴ。
もう王様に遭うぐらいじゃ、そんなに驚かない。
ただ、今回は王様だと知ってびっくりしたンゴ。
「フットワーク軽ッ!?」
ンゴ。
単身で他国へ乗り込んで、民間企業の調査とか、ちょっと身軽すぎる。この国、大丈夫なのか?
「ワシらに言わせれば、人間やエルフの王がフットワーク悪すぎじゃ。
獣人の王もワシらと同じようなもんじゃぞ? 『兵は拙速を貴ぶ』というてな、まず素早く判断することが最も重要じゃ。間違えたと思ったら、そこから修正すればよい。正しい判断を求めて時間をかけていては、修正する時間がどんどんなくなってしまう。」
学べよ? とばかりにドワーフ王が言う。
それは「兵」だから言えることじゃないか? 王は「将」であって「兵」ではないだろ……。だいたい「君子危うきに近寄らず」って言うしな。
前世の世界でも、軍隊で「兵は拙速を貴ぶ」が通用するのは小部隊の隊長までだ。司令部はもっと慎重に判断する。
けどまあ、「郷に入っては郷に従え」ともいうし、彼らはこういう文化なのだと思っておくのがいいだろう。
「それで、私をここまで連れてきたのは、どういうわけですか?」
「この国に支店を出してほしい。
あのナイフを、ワシらが研究するために提供してほしいのじゃ。」
「なるほど……。」
一般向けに販売するのではない、研究のためのサンプルとして提供する……となると、店といっても従業員はごく少数でいい。それに接客も不要だ。ただ注文を受けて、その内容をワイに伝えてくれれば、あとはワイが出したものを引き渡すだけでいい。メニューが剣鉈だけでいいのなら、ファミレスのホール係より簡単だ。
「わかりました。商品引き渡しのために、倉庫を1つ用意してください。それと、注文を受けるために従業員を雇おうと思います。」
「注文はお前さんに直接するから大丈夫じゃ。とりあえず、あのナイフを100本くれ。門番に渡してくれればいい。
以後は、必要に応じて追加注文するから、そういう事でよろしく。」
「ファッ……?」
ちょっと何言ってるか分からない。ワイには1号店も2号店もあるし、ここに3号店を出すとしても、従業員ワイ1人ってわけにはいかないンゴ。
しかしドワーフ王はワイを置いてさっさと立ち去ってしまった。
「どーするンゴ……。」
こんな非常識な相手は無視すればいいとも思うが……前世が営業職だったワイとしては、それでは不誠実だと思うンゴ。
とりあえず、手紙かな。資金を送ってもらって、店舗を構えて従業員を雇うか。
「……てゆーか、今日の飯も宿もないンゴ。」
まあ、ワイにとってそんなのは問題にならないけど、あのドワーフ王、あんなのでよく国際問題にならないンゴ。




