11:敵側の事情(作者視点なのでメタ情報も入れちゃうぜ)
セカンドが王女を降嫁されてしばらくの時間がたった。
その間に、周辺の産業がどえらい事になっていた。
その影響を受けた4人の男たちが、秘密会議のために集まっている――
「くそっ! どこもかしこも大赤字だ!」
全国商工会連盟の総会長コウリマンは、苛立ちに任せてテーブルを殴る。もう80歳近い老人なので、そろそろこういう無茶をすると簡単に内出血とか起こしてしまうのだが、そんな事に構っているほど今の彼には余裕がない。
軍に野営道具を納品していた業者はセカンドが売り出した格安キャンプ道具にシェアを奪われ、冒険者を客と見込んでいた宿屋や食料店は「セカンドの店で買ったほうが味がいい」だの「キャンプのほうが楽しくて快適」だのと客が激減し、武器屋は王子の一件から武器として剣鉈を買おうとする冒険者が急増して武器が売れなくなった。
セカンドが牢屋にぶち込まれたときに「ワイをこんなトコに閉じ込めた商店街をシャッター商店街にしてやるンゴ」とか考えていたのが、奇しくも現実になってきたのだ。本人はとうに忘れているが。
ちなみにコウリマンの名前の由来は、小売業の組合長であることと、アウトドアブランド「コール〇ン」からだ。今回、敵キャラのネーミングは、これ系で統一している。
そしてセカンドの成り上がりの影響は、産業だけでは済まなかった。
「早くあいつを排除しなければ……。」
爪を噛む男。年齢は40代半ば。名前はアワスフェイス。彼は、セカンドが王様に重用されていることをねたんでいる。
アワスフェイスは、エルフ王国を担当する外交官である。そのスキルは「通知」で、設定した条件を満たすと通知が届く(通知は受け取った本人にしか分からない)というスキルだ。このスキルはかなり便利で応用範囲が広く、たとえば「明日の10時」という条件を設定しておくと、その日時に通知が届くので、スケジュール管理に便利である。あるいは「半径100m以内に魔物が侵入」という条件を設定しておくと、探知系スキルのように使える。
この「通知」の便利なところは、スキルを持っている本人だけでなく、他人にも通知を届けるように設定できることだ。探知系スキルの所有者みたいに「あっちの方向に200mぐらいのところに敵がいる」などと報告しなくても、即座に通知が届いて仲間全員が敵の接近を認識できる。
これを利用して、この秘密会議のときには盗聴や襲撃への警戒を任されている。
外交官としてのアワスフェイスは、スケジュール管理のほか、「相手の気分を害したとき」という条件を設定して通知を受け取っている。こうすると、相手が少しでも不快だと思ったら即座にそれを察知することができ、すぐに謝ることで関係悪化を免れる。また、こうしたデータを蓄積することで、相手との良好な関係を構築・継続しやすい。
ところが、このアワスフェイスは貴族としては末席で、本来は外交官なんて地位につける身分ではない。それでも外交官になれたのはスキルのおかげだ。だから「自分はいつお役御免になるか分からない」「絶対にミスはできない」といつも戦々恐々としている。そんな中でセカンドが王様に重用され、王女を降嫁された。アワスフェイスはもう気が気ではない。エルフ王国からは野営用の魔道具を仕入れているが、セカンドの台頭によって自分が追い落とされるのではないか、と焦りまくっているのだ。
ちなみに、アワスフェイスの名前の由来は「合わす顔がない」状態を回避できるスキルと、アウトドアブランド「ノースフェ〇ス」からだ。
「確かに、非常に目障りな男だな。」
3人目はミュトスという男だ。貴族であり、セカンドの嫁1号エレナの出身地たる都市の、その領主である。彼は静かに、冷たく研ぎ澄まされた眼光を遠くへ向けていた。その目は、この場にいないセカンドを見ている。
ミュトスがセカンドを気に入らない理由は、自分が治める都市のスラム街を浄化されてしまった事である。大きな都市になればスラム街が発生するのは、どこでも共通の悩みだ。治安は悪化する、税金はとれない、そのくせ面積は使う……と、いいことが1つもない。どこの領主もなんとかスラム街を浄化しようと、あの手この手を尽くしている。もちろんミュトスもだ。
ところが、どこの領主も、国王ですらスラム街の浄化には成功していなかった。それだけに、浄化に成功すれば全国初の快挙となる。その功績を、いきなり現れたセカンドに横からかっさらわれたのだ。浄化してくれるなら誰がやっても構わないと思っていた王様にとっては朗報だったが、何とか自分の手で浄化して手柄を立てようと思っていた領主たちには悲報だった。
しかもミュトスは、「陰謀」というスキルで様々な策をめぐらせており、もう少しですべての策が一斉に動き出すところまで来ていた。何年もかけて作った超大作のドミノ倒しを、完成間近で横から蹴飛ばされたような絶望感だった。もはやミュトスには、セカンドへの復讐以外に望むものなど何もない。
ちなみに、ミュトスの名前の由来は、「陰謀」スキルの被害者たちが「真実も理論も何もない」と憤慨・絶望することから。そしてアウトドアブランド「ロ〇ス」の語源と思われる「理論・真実」などを意味する単語「ロゴス」の対義語「ミュトス」から来ている。
「かといって、そう簡単に手出しもできねぇ。はぁ……まったく厄介な相手だぜ。」
4人目は、ソナーピークという壮年の男だ。筋骨隆々で、その筋肉を見せつけるようにタンクトップを着ている。腕組みをしながら、苛立たしそうに指をトントンしているが、いい考えは浮かんでこなかった。
ソナーピークは「危険探知」というスキルを持っていて、これで何度も死線をくぐりながら裏社会でのし上がってきた。今ではマフィアの1つを仕切るボスだ。構成員に殺人犯を多く抱えており、客を選ばず暗殺の仕事を請け負う。マフィアというより殺し屋の元締めである。
そんなソナーピークは、今、この3人に雇われてセカンド暗殺をたくらんでいた。ところがセカンドは、早い段階でスラム街のマフィアを手なずけて裏社会への監視網を広げていた。暗殺しようと思っても、そういう手合いへの警戒に慣れている連中がセカンドを守っていて、近づく事さえできない。
しかし引き受けた以上は何としても成し遂げる。暗殺なんてヤバイ仕事をやっている以上、失敗しましたでは済まないのだ。
ちなみにソナーピークの名前の由来は、ソナーみたいなスキルと、アウトドアブランド「スノー〇ーク」からだ。
「とりあえず、セカンドのクソガキを始末する前に、注文数が激減した背景を取引先に説明しないと。」
「……であるな。」
「やれやれだ。」
ため息をつく3人に、ソナーピークが肩をすくめる。
コウリマンはドワーフから武器を仕入れているし、アワスフェイスはエルフから魔道具を仕入れているし、ミュトスはスラム街浄化のための策に獣人を巻き込もうとして報酬の約束までしている。それらすべてが、セカンドによって台無しになっていた。




