10:ワイ、王子様に詰め寄られたンゴ
「これはいったい、どういう事なのだ!?」
立派な鎧を着た青年が、ワイに詰め寄ってきた。
まあまあ落ち着いて……と、必死こいてなだめるのだが、まるで効果がない。青年は興奮しまくりんぐだ。
どうしてこうなったかというと――
店に乗り込んできた青年は、店主を出せと騒ぎ立てた。
ワイが出ていくと、ワイの店で売っている剣鉈を取り出して……そしていきなり冒頭のセリフだ。
「どういう事とおっしゃいますと、どういう事が起きたのでしょうか? 品質管理には気を使っておりますけれども、何か不具合がございましたか?」
スキルで出したアイテムなのに品質管理もなにもないが、召喚したものを倉庫に保管したり店舗に陳列したりしているので、その間に何かあった可能性はある。
「何を言うか! 不具合どころではない!
敵の剣を切り裂き、鎧を貫通するほどの切れ味だ! いったい、これはどうなっているのだ!?」
……???
ちょっと何言ってるか分からない。
どういうクレーム? これ、どういうクレームなの?
あ、そういえば前世で「切れ味がいい」と謳っていた包丁を買った客が「切れすぎて自分の手まで切ってしまった」というクレームを入れた……なんて事があったっけ。飲み屋で偶然再会した学生時代の友人が聞かせてくれた。某企業のお客様相談センターに勤務していて、胃に穴が開くのとハゲるのとどっちが先になるか心配だと死にそうな顔で苦笑していたっけ。
さて、こういう場合は「ちょっと何言ってるか分からない」という事を、丁寧に伝える必要がある。
「こちらは当店で販売しております剣鉈ですね?
剣を切り裂き、鎧を貫通したと……? ためした事はありませんが、切れ味のよさはこの商品のセールスポイントでございます。何か問題がありましたでしょうか?」
剣鉈というのは、狩猟用の鉈だ。サバイバルナイフみたいな形状とサイズではあるものの、鉈というだけあって厚みはナイフより大きい。つまり頑丈ということだ。普通、鋭い刃物は薄いものだ。断面が鋭角であるほど切れ味がいい。つまり分厚い刃物は切れ味が悪いと相場が決まっている。ところが、ワイのスキルで召喚する剣鉈は、その厚みに反して切れ味がまるで剃刀のように鋭い。実際、ひげをそれるほどの切れ味だ。なんでこんな切れ味なのかというと、前世の世界でも世界有数の刃物の街として知られる場所で作られた、世界的に高名な職人の作品なのである。名前と技術を世襲しているらしく、初代は200年以上も昔の人物だとか。そして100年以上も前から、全国的にその名が知られていて、包丁を買えばたいていその名前が刻まれているほどだ。50年ほど前から徐々に世界中にその名が知られていって、10年ほど前から他国のテレビショッピングなんかでも名前を聞く。
「そうだ。このナイフはこの店で買ったものだ。
軍務に出て最前線で戦っていた私は、敵に追い詰められ、持っていた剣を折られてしまって、大ピンチだった。だが、たまたま持っていたこのナイフで、逆に相手の剣を切り裂き、鎧を貫通して、敵を倒せた。おかげで命が助かったのだ。店主のセカンド殿には是非ともお礼をしなければ……!
それで、セカンド殿はどこに!?」
「当店の商品がお役に立てました事、何よりの光栄に存じます。
お探しのセカンドは、私でございます。」
「そうか! ちょっと来てくれ!」
青年に引きずられて、ワイは店から連れ出された。
なんか最近、こんなのばっか……。
向かった先は王城だった。
あれ? またここ……?
「おや? 息子よ、戻ったのか。」
「はい、父上。
ついてはご報告したい事がございます。」
「ファッ!? 息子!? 父上!?」
青年の正体は王子だった。マジで最近こんなのばっか……。
軍務で前線に出ていた王子様は、名剣といわれる剣を装備し、鎧もそれ相応のものを身に着けていた。しかし敵に剣を折られてしまって大ピンチ。ところが、ワイの店から買った剣鉈を持っていたおかげで戦えた。それどころか、剣鉈で相手の剣を切断し、鎧を貫通して敵を倒してしまった。そこからは剣鉈で戦ったが、ワイの店で買った剣鉈は、それまで最高級品だと思って使っていた名剣がまるで粗悪品に感じるほどの切れ味と頑丈さだった。
命拾いしたどころの騒ぎではない。なぜ最初から剣鉈を使わなかったのか、無駄になまくら名剣を使っていた過去の自分を殴りたい。ぜひ店主にお礼を……と、ワイの店にやってきたらしい。
「そのような事が……。」
「スキルで『これを買うべし』と思ったのは、こういう事だったようです。」
王子のスキルは「先見の明」らしい。
と、そこへパタパタと駆け込んでくるかわいらしい足音が聞こえた。
「お兄様! ご無事のご帰還、おめでとうございます。
前線では大活躍をされたとか。」
王女様がやってきた。
ニコニコ顔で兄王子の活躍をたたえる姿は、兄妹仲がいい事がうかがえる。
「ああ。実はかくかくしかじかで……。」
「まあ! それではお兄様はセカンドさんに救われたというわけですのね!?」
「そうなる。
セカンド殿、まことに感謝する。」
「ふむ……。なればセカンドくんは息子の命の恩人……いや、跡取りを救われたのだから、王家の存続にかかわる大恩人だ。ひいては王国を救った英雄ともいえる。よし、娘を嫁がせよう。」
王様がヒートアップして、ワイは王女様と結婚することになった。
王女様の気持ちは!? と反論してみたが、当の王女様が「もちろん嫁ぎますわ! これでキャンプ道具を物色し放題……ぐふふ……!」と、やたらうれしそうだ。おいおい……。
「よし、婚約成立だ。」
王様が満足げに言う。
ちょ……! え? ワイの意思は!?
「文句はないだろうな? セカンドくん。」
「……ゴザイマセン。」
王様にじろりと睨まれて、ワイは承諾するしかなかった。
王女を降嫁されるといわれて、文句なんて言えるはずもない。
けど、嫁のエレナになんて説明すればいいンゴ!? それに、なんかよくわからないうちに、また1段階成り上がってしまったンゴ……! いや、順風満帆だけどさ! だけどさ……! 運命はワイをこんなに成り上がらせてどうしたいンゴ!?
しかしこれ以降、ワイの順風満帆な生活に邪魔が入るようになった。
ワイの成り上がりを面白く思わない勢力がいたのだ。




