前編
幼い頃、病弱だった私はヒーローになりたかったんだ。友達と遊びに出ることすら出来ず、二階の部屋から外を眺めて暮らしていた
。
出来るのは窓の外の世界を想像し膨らませる事だけで、ここにある絵本も覚える程読み尽くしてしまった。
父様と母様も、最近はあまり顔を見せてはくれない。ご飯は持ってきてくれるけど、それだけ。とても寂しかったのを覚えている。
絵本の主人公のように世界中を旅してみたいよ。見たことがない不思議な物や出来事が待っているに違いないとそう思っていたんだ。
ある日の事、胸が苦しくなった時に、窓に茶色い猫が来たんだ。最初猫が来た時、夕日に照らされて全身が黄金色に見えて綺麗だったんだ。
「あまりにも、君が寂しそうで苦しそうな顔してるから、連れに来た。命の保証は出来ないけど、一緒に来るかい?」と優しい声で猫が喋ったんだよ。事実だけれど、信じられるかい? 信じられないよね? 私も今でも不思議だもの。
私は、急に苦しく無くなって「うん、一緒に行くよ!連れていって!」と答え、パジャマのまま猫の追いかけて窓から部屋を抜け出したんだ。
一緒に抜け出し、屋根の上を危なげなく歩く。
「そう言えば……私の名前はアドニスだよ。猫さん、私は君を何て呼べば良いの?」
「そうか、僕の名前を言ってなかったね。僕はジーン。茶柄のジーンとでも呼んでくれ。あと、一応言っておくけど魔法で今の君は猫に見えてる筈だから安心してくれ。まずは隠れ家へ行こうか」と言ってニヤリと笑った。
「魔法使えるんだ! 凄い! 凄いよ!ジーン!これから宜しくね!」
猫の小道を通り、塀や屋根の上を歩き、塀の穴を潜ると、
そこは、くたびれた廃墟の敷地内だった。草が腰くらいまで生えていて、危うくジーンを見失いかねない場所だった。ボロボロに崩れた壁の所に来ると「さてと、ここら辺じゃなかったかな……と、少し待ってておくれよ?おっあったあった。っ3……1……20……19……5……25……5……19っと」カリカリカリっと音を立ててダイヤルを廻すと、扉が開いていった。「ようこそ! 我らが隠れ家へ! まずは長の所に行こうか」
長の所では仲間に入る試練を受けると言う。試練が終われば魔法を教えられて仲間に入れるとの事だった。
ジーンが改まった感じで「長、新しい仔猫を保護致しました。アドニスです。」私は軽く頭を下げた。
真っ黒なマントと真っ黒なスーツを纏った。
猫のおじいちゃんが、頷きながら、「また人の子を連れて来るとは……隠れ家を何度危険に曝す気なのかね? この数百年で、二度は多いと思わないかね? ジーン?」
「あなたが僕を連れて来た時のように。ただ仲間に入れろとは言いません。試練を。」とジーンは返した。
「本人は知っておるのかね?」ジーンは頷くと「伝えてあります。」
長老はアドニスを見て少し考えた後「わかった。では、試練を始める」と宣言した。別の通路に案内されると、長は「この通路の奥に、マタタビ酒がおいてある。それを一人で無事に持って帰る事。あと、アドバイスとして、一つだけ、魔法は心の内にある。イメージをして出来ると信じること。忘れないように」と優しい声で言った。
そうして試練が始まったんだ。
続く