体育の時間はぼっちの地獄
俺は吹き飛んだ小島を横目に急いで臼井さんの方へと向かった。
「大丈夫?樹くん。」
大丈夫なわけねえだろ。
「まあ、それなりには大丈夫じゃない。」
そうだね、と苦笑いをしている臼井さん。
「どういう事なんだよこれ。説明してくれ。」
俺の頭ではこの事態は少し手に負えない。
「ん〜、ちょっと説明する時間はなさそうだね。」
と臼井さんは顎で吹き飛んだ小島の方を指す。
なんで吹き飛んだのに当然のように歩けてるんだよ。
「助けて欲しい?樹くん。」
そりゃ当然だろ、と思い頷いた。
「じゃあ、下の名前で呼んでくれたら助けてあげる。」
と悪戯な笑みを浮かべ彼女は言った。
何言ってんだこいつ。
今明らかにそんな場合じゃないだろ。
しかし、俺には選ぶ余地がなさそうだ。
「じゃあよろしく頼むよ、柚葉さん。」
「とは言っても私じゃ倒せないよ。」
自信満々にそんなふざけたことを言い始めた。
俺が驚嘆で固まっているところに彼女は追い討ちの説明を始める
「さっきのは不意打ちだったし多分次は躱されちゃうよ、それに多分小島くん?を倒す程の威力はないよ。」
「じゃあどうすんだよ?!」
焦って少々きつい言い方になってしまう。
でも仕方ないだろ、誰だって焦る。
「倒すんだよ、君とふたりで。」
「は?そんなのど」うやってと言おうとした所で小島がさっきの刃物の様なものを大量に投げてきた。
怖っ死ぬわこれ。
そう思っていたところ、臼井さん……改め柚葉さんがおそらく出したであろう氷のような物が次々と弾いていく。
「おい、今すぐその女から離れろ流水。」
あいつ喋れたんかい。
「離れたら、殺されちまうだろ?」
そう言うと小島は俺の頭に向かって刃物を投げてきた。
もちろんそれは柚葉さんにより阻まれたが。
「殺す気かお前!」
無論殺す気なんだろうけど、小島と会話が出来るということになぜか少しの安心感を得ている。
しかし、俺がどうやって小島を倒せばいいのだろうか。
その心を呼んだかのように柚葉さんが言った。
「君にもこういうのが出せるの、氷だったり刃物だったり。」
残念ながら俺は普通の人間なんだけどなと思いながらとりあえず耳を傾ける。
しかしその間にも小島と柚葉さんの戦いというには少し稚拙な氷と刃物の投げ合いが続いている。
どっか緊張感がないな。
「本当はそれが現象として現れない人もいるんだけど、君は大丈夫」
「なんの期待それ。」
「いままで見た中で1番の攻撃を想像して。なんでもいいよ、アニメでもまんがでも君の妄想でも。」
彼女はそのまま言葉を続ける。
「想像して、1つの強い意志で、思いで、覚悟で。」
俺はその言葉を聞き、考える。
このまま仮に俺が彼女の言う通りに想像の産物を出せるとしよう。
しかし、もし出せたとしても俺は小島を殺したくなんかない。
そもそも出せるのか。
そう思い俺はさっきから柚葉さんが出している氷を出そうと右手に意識を集中させる。
しかしいつまでやっても氷は出てこない。
それを見ていたのか柚葉さんは
「ダメ。雑念が混じってるよ。」
どういうことだよ。
修行僧かなんかか俺は。
「そうだね、あんまり時間も無さそうだし、ヒントをあげるよ。」
こんな状況なのになんで出し惜しみしてんだよ。
「今回の私の場合は守るかなそれときっとだけど彼の場合は殺すだよ。」
どういうことだよ。分からないことだらけだ。
でも俺は小島を殺したくない。
確かに口は悪いし、性格も悪い。
でもあいつは友達だしなにより体育の時間のペア作る時に困る。
俺は殺したくない一心で矛盾しているけれど、小島を攻撃するものを作り出す。
右手に意識を集中させる。
すると微かに右手が暑くなる。
すぐに異変が起こった。
最初は光る小さな玉だった。
それは段々と大きくなっていった。
気がつけばバスケットボールぐらいの青い玉となっていた。
分かりやすくいえばあれだ。
ドラゴ○ボールに出てくるエネルギー弾みたいなもんだ。
これを小島に当てたらどうなるかは分からない。
「これで全てが変わる。この学校の運命、この俺の運命、カ○ロットの運命、そして貴様の運命も!これが俺の意思だ!」
ふっ……決まった……
そう思っていると横から柚葉さんが話しかけてくる。
「ねえ、なんの思い?」
「殺したくないなって。」
それを聞いた彼女は驚いた表情をした後消えた。
直ぐに周りを見渡すがいなくなっている。
その瞬間に小島に当たったであろうエネルギー弾(仮)が爆発したのか煙が立っていた。
あいつ、馬鹿正直にくらいやがったのか。
煙が晴れたところで小島の姿が見える。
「分かってたんだよ流水ぃ!お前が殺さずってことはなぁ!」
どうやらピンピンしているらしい。
しかし、すぐに前に倒れる小島。
気絶したらしい。
そしてそのすぐ後ろには柚葉さんが立っていた。
「ふぅ、危なかった。」
どういうことだ、俺のエネルギー弾(仮)で倒れたんじゃないのか。
「殺さずじゃあね、人に危害は加えられないんだよ。」
「だから私が後ろに回って彼を気絶させたってこと。」
そう言って彼女は右手にまとった氷を見せる。
なるほどこれで殴られたらひとたまりもないな。
あれ、でも私じゃ倒せないって……
「なあ、倒せないんじゃなかった?」
「え、いやぁ……あはは。」
どうやら倒せたらしい。
しかしどこか澄んだ想いとなった俺は、窓から差し込む真っ赤な光を見る。
もうそんな時間かとどこか場違いなことを考える。
不格好な上靴の音だけが聞こえてくる。
「ねえ、私と付き合ってくれない?」
彼女のその言葉を聞くか否かのところで俺の意識はぷっつりと切れてしまった。
次回!狂喜乱舞を日常で!
宇宙で1番やべえやつ!
次もぜってえ見てくれよな