第49話 悪夢との邂逅
半日掛けて必死に集めた魔石が全て粉々になり、燃え尽きた。
その事実は僕らを酷く打ちのめした。
力が抜けてしまいしばらく立ち上がれなかったほどだ。
「ごめん、僕がしっかりしてなかったから……」
「そんなことありませんわ! 悪いのは全部あの女ですもの」
「ええ、手が滑ったなんていって……お姉様が魔力の鎧を脱ぐのを伺っていたに違いありません!」
「これを先生たちに言えば失格になったりしないかな? だってねぇ、騎士さんも見ていたでしょう?」
アイヴィがそういうと二人の騎士は難しい顔をした。
「ああ、もちろん俺たちが証言する事はできるし、乞われればそうするつもりだ」
「そうだな。でも相手はあのリズバレット家のご令嬢だっただろう。それが通るかどうかは正直分からん」
そんな騎士さんの言葉で場の雰囲気は更に重くなる一方だった。
「……私の父に掛け合いましょう。そうすれば処刑などという真似は出来ないでしょうから」
「いえ、そもそもあの女にそんな権力があるはずありませんわ! きっと私たちを脅かすつもりであんな事を言ったに違いありませんわ!」
それは自分たちを敗者だと認める言葉だった。
負けを認めたものが自分の傷を浅くしようと足掻く惨めな行為だった。
そんなのは——。
「嫌だ」
気付けば僕は声をあげていた。
「そんなのは絶対に嫌だ。だってまだ負けが決まったわけじゃないじゃないか。僕は最後まで戦いたい……そして勝ち負けはその先にあって欲しい」
これで負けを認めたらこれまでの怒りは、努力はなんだったのか。
そんな僕の言葉で、顔を俯かせて座り込んでいた三人の眼に光が戻った気がした。
「私もイニスに賛成っ!」
「そう……ですわね」
「お姉様、すみませんでした。私としたことが……」
アイヴィが立ち上がってそういうと二人も続いて立ち上がった。
「ありがとうみんな。泣き言は……全部終わってからにしようよ!」
こうして僕らは再び前を向いた。向くことができた。
勝負はきっと負けるだろう。
でも……それでも今できることをやるだけだ!
——そう、それは素敵ね。
その言葉は、僕の耳に吐息を吹きかけるような距離から聞こえた。
慌てて辺りを見回したけど、そこには誰も居ない。
なんだ、今のは風の音だったのかな。
「では今までに一番モンスターが多かった砂漠に戻りましょうか?」
「えー、砂漠は嫌だなぁ……」
マルグリッドさんが提案すると、アイヴィが心底嫌そうな顔で吐き出すようにいった。
僕もあんまり気が進まなかったけど、確かにそれがいいかもしれないね。
「それじゃあせめて定期的に水でもかけましょう」
「うん。あと僕のアイギスは暑さも多少は遮断できるからみんなで固まっ——」
そう話しあっている僕らの少し先で爆発音が響いた。
それはお腹の底の底を震わすほどの音で……。
音のした方では、その後も散発的に魔法が使われているような音が響いていた。
「あれは……メリンダが向かったほうですわね?」
「うん、確かにそうだね。でも森の中であんなに派手に火の魔法を使うなんて……」
そう話していると今度は大きな火柱が上がった。
舞い散る火の粉で木が燃えてしまいそうだ。
というか既に燃えているんじゃないだろうか。
「森には狼型と猿型のモンスターしかいないはずだよね?」
アイヴィが不思議そうな顔で聞いてくる。
確かに授業で習った限りはそうだったはず、でもそれならどう考えてもあの火力はおかしい。
普通のモンスターであれば明らかにオーバーキルといったところだ。
「ちょっと見に行ってみようかな……」
「ちょっと、お姉様。まさかメリンダさんが心配なんですか?」
「いや、そうじゃなくて……あのパーティにはリッカがいるんだよ」
「っ! そういえばそうでしたわね」
僕以外のみんなも、リッカとはデルソルで一緒に働いている関係で顔馴染みだ。
だから僕の心配はアルバイト仲間としてのもの、と自然に受け入れてもらえたようだ。
「……うん。なら行こうよ!」
「ええ、なんなら隙を見て向こうの魔石もぶっ壊しますわよ!」
アイヴィがそういうとマルグリッドさんが物騒な返事を返して、僕らはメリンダが……いや、リッカがいるかもしれない場所まで急いだ。
爆発音がした場所まで行こうとすると、やはり森が燃えていた。
それは広範囲に渡るようで進めない場所も多かった。
「こっちから回っていこう」
そういってどうにか迂回しながら向かっていく。
それでもどうにも進めないような時は、セイラさんの出番だ。
「ウォーターシャワーッ!」
これはアクアヴェールのように熱への耐性を得る魔法ではない。
ただただ体を水で濡らしただけの魔法だ。
だからこれに僕の魔法もプラスする。
「僕につかまって! ……アイギスッ!」
騎士さんも含めて六人がぴたりと身を寄せ合ったのを確認した僕は、魔力の障壁を展開した。
「い、行くよっ!」
少し声が震えてしまったけれど、それは仕方がない事だろう。
人間誰しも炎に飛び込むのは怖いものなんだから。
「う……うぅっ、みんなもう少しだ、からっ!」
「あ、熱い……ですわ……」
「ぐぅぅ……」
相当に鍛えているはずの騎士さんですら苦悶の声をあげる中、ようやく何重もの炎のカーテンをくぐり抜けたその場所に——メリンダがいた。
その体は血だらけで、立っているのがやっとといった有様だった。
確かにそこは控えめにいっても地獄のような光景だった。
炎に囲まれたその空間はなんだか決闘場を思わせるようなもので。
周りの木はへし折られたり燃え尽きたりして更地のようになっている部分すらある。
そして地面には人が四人ほど倒れていた。
それを見た僕は一瞬パニックになったけど、よくよく見るとリッカは立っていた。
自身の魔力による炎をその身に纏って、立っていた。
倒れていたのはメリンダのチームについていた騎士さん二人と、チームメイトの二人だろう。
あの人達は息をしているのだろうか?
気にはなったけど、そんな事をゆっくり確認している時間はなかった。
なぜなら、リッカとメリンダが見据えるその先には蜘蛛がいたから。
盗賊のアジトで対峙した、大蜘蛛——アルケニーが居たのだから。
その蜘蛛は圧倒的な死の気配を振りまきながら、赤い瞳を爛々と輝かせていた。
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