第46話 駆け足の毎日
校外実戦が終わって冒険者ギルドで依頼達成のお金を受け取ると、せめて食事くらいは奢らせて欲しいというハルト達の誘いを断って、寮に戻った。
本当は久しぶりにハルトと話をしたいとも思ったんだけど、さすがにヌルヌルのままではお店にも迷惑だろうしね。
一回寮に帰ってまた集まるというのも違う感じがしたから、今回はお預けという事になった。
それから数週間は特に大きな事件もなく、ひたすら魔法の練習や、チームでの戦闘訓練をして過ごした。
そのお陰で僕は、少しずつではあるけど魔力を操れるようになってきていた。
それと同時に、伸ばしたり、尖らせたり、装甲を厚くしたり……と色々な使い方を身につけた。
ただ、どうしてもそれを放出、というか飛ばす事は出来なかったけど、それを差し引いても望外の出来だったといっていい。
まぁそのほとんどがエリュシオン様の本からの受け売りだったりもするんだけど。
それでもその力は自分のものになっているから同じ事だ。
そうこうしているうちに、討伐戦まで残り二週間を切った。
この頃になると、僕のチームとメリンダの争いは他のクラスの生徒たちも知るところになっていた。
だからか、学園をちょっと歩くだけでひそひそ話が始まってちょっと気分が悪かった。
だってその内容っていうのがは大体が僕の悪口だったから。
ほら、今も廊下の端で噂話が始まったみたいだ。
「ちょっと、あの子たちよ! 噂の!」
「ああ、メリンダ様に楯突いたっていう? 信じられないわね」
「本当! 勝てると思っているのかしら」
「無理に決まってるじゃない」
「でももし負けたら処刑っていう話も聞いたけど……」
「まさか、さすがにそんな条件で受ける人はいないわよ」
一事が万事、この調子だ。
だからといって別に何かをやり返したりするわけじゃない。
余計な争いはしないに限る。
僕らは僕らで毎日頑張っていけばそれだけで——。
「今なんて言いましたの? ねぇ。私たちが負けるっていいました?」
「い、いえ。そんな事は……お、応援して、ます」
うん、やり返したりするわけじゃない。
ただ、驚いた事があった。
討伐前まではまだ二週間もあるからと僕は余裕を持っていたんだけど、実は討伐戦は毎年マグリアのヘソと呼ばれる盆地で行われるらしい。
ここは瘴気の問題か魔素の問題か、モンスターが常に大量発生しているような場所なんだそうだ。
まぁ確かに討伐するには相手がいないと始まらないからそれは理解できる。
でもそこへ行くため、なんと一週間前に学園を出発するというから驚いた。
つまり実質、討伐戦まではあと一週間しかないという事になる。
「知らなかったぁ……」
「あら、お姉様以外のみんなが知っていたと思いますよ」
「あの日は確かイニス寝てた気がする」
「えっ。アイヴィ、そういう時大事な時は起こしてよー」
「おほん。兎に角、そういうわけで討伐戦まではもう何日もないんですのよ? だからこそ……」
今、僕たちの中では珍しく意見が割れていた。
「いや、やっぱり僕は学園の制服でいいと思うんだよ。うん」
「私もお姉様と同じ意見です。ええ」
そんな僕とセイラさんに対して、マルグリッドさんとアイヴィは真っ向から対立する。
「いやですわ、イニスさんともあろうお方が。庶民と同じ格好だなんて」
「ほんとほんと、せっかくだから目立たないと!」
いや、僕は庶民だし、目立ちたいというよりコソコソ生きていたいんだ。
こうして二つに分かれたチームの意見は平行線だった。
「だって考えてもみなさいな。あのフリフリとした服で躍動するイニスさんを。お仕事の時とはまた動きが違いますのよ? セイラさん……そこのところどうですの?」
「…………むふっ。申し訳ありません、お姉様。私もこちらの意見に賛成させてもらいます」
「えぇ……」
こうして僕は数の暴力に押し切られるように自分の意見を取り下げさせられた。
つまり討伐戦では……。
「ええ、デルソルの制服を着ますわよっ!」
どこにフリフリのピンクなメイド服でモンスターと戦う魔女がいるんだ?
そう思ったけど、決まってしまったなら仕方ない。
あの服は可愛いけどスカートが短いんだよなぁ……動きやすいって思うしかないか。
「それじゃ戦闘服も決まった事ですし、練習再開ですわっ! ロイゼ先生お願いします!」
僕らは実習室でのゴーレム錬の休憩中に話し合いをしていたのだ。
結局一週間で出来る事なんて大してないから、今までの総仕上げとして連携の確認などをするしかない。
マルグリッドさんの言葉を受けた先生は「ん……」と短く返事をすると、刻印を輝かせた。
すると地面から十体を超える、石で作られた犬が現れた。
ゴーレムといっても色々な種類があって、今回はゴーレムドッグということだね。
「来ましたわよっ! フォーメーションBですわっ!」
チームの参謀、マルグリッドさんの掛け声に合わせて僕らは動いた。
基本どのフォーメーションでも僕が矢面に立つのは変わらない。
というか僕にはそれしか出来ないから仕方がないね。
Bは僕の後ろにマルグリッドさんが岩で壁を作って戦う戦法だ。
後ろの三人が壁に隠れながら攻撃できるから僕が切り込んでいけるのがメリットだね。
「じゃあ行ってくる!」
僕はそういうとアイギスを厚くしてから、ゴーレムドッグの群れに突っ込んでいった。
このフォーメーションの時は、後ろの三人も僕に構わず魔法を使って良いことになっているから殲滅力が高いんだよね。
僕が数回槍を振った頃には、ゴーレムドッグを全滅させる事が出来た。
「はぁ……私達、強すぎじゃありませんこと?」
「うん、やれる事はやれたかなっていう気がする」
「お姉様を軸とした連携は私達にしか出来ないですからね」
「だよね、これなら絶対に勝てるよ!」
ここ最近はひたすら駆け足で毎日を過ごしてきた。
早く強くならないとっていう気持ちが強かったから。
だから僕はこの討伐戦が終わったら……みんなで美味しいスイーツのお店にいったり、お買い物をしたりゆっくり過ごすって決めている。
だからもう少し、討伐戦が終わるまでは息を止めて頑張ろう。
きっとこの四人ならSクラスのあの子達に勝てるはずだから。
例え何が掛かった勝負だろうと、僕には心配なんてまったくなかった。
そして、遂に——討伐戦がはじまる。
「イニスさん……それってフラグというものではありませんこと?」
「え、なにそれ?」




